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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第七章:絶対的な力が待ち受けているようです
143/221

絶望のお話。

それは、全てを奪うもの。

それは、全てを焼き尽くすもの。

 『……ドウシタ、人ノ子タチヨ、サッキマデノ威勢ハ何処ヘ消エタ?」



 ザリ………



 『サッキハ二千、ソシテ今ハ俺様一人ダケダ。タッタ一人相手ニ何ヲ萎縮スルコトガアロウカ』



 ザリ………ザリ………



 イグニスが一歩足を踏み出すたびに冒険者たちは一歩足を引いて退く、まるで糸で繋がっているかのように連動して一歩ずつ下がっていく。

 蛇に睨まれた蛙とはこのことだろうか、それほどまでに妖族の冒険者たちは今まで味わったことのない圧倒的な力の差をまじまじと肌で感じ取っている。



 だがとある一人が叫んだ、この数ならいけるに決まっていると。

 そしてそれに乗った冒険者たちが続々と一筋の光明を見出したかのように次々と雄叫びを上げて武器を掲げ魔方陣を展開させてイグニスに向かって走っていく。



 『馬鹿ッ………止まれ!!!』



 そんな中でハーメルンがそう叫ぶも一度火がついた冒険者たちの足は止まることなかった。

 もちろん冒険者たちは今自分たちの前にいる相手が魔族の王イグニスだとは知らない、ただ一人の敵だと認識して立ち向かっている。



 冒険者たちを前にイグニスはニヤリと口角を上げて笑みを浮かべ眼前に迫りくる攻撃を避けようとも防御しようともせずただその場に立っているだけだった。

 冒険者たちが次々に魔法をイグニス一点に向けて放ち平原には轟音と煙が立ち込めた。



 「……やったか!?」


 

 無論この程度でやれるはずもなかった。

 煙を睨み付ける冒険者たち目がけて煙の中から黒く長い針が何本も飛び出し近くにいた冒険者たちの体を次々と貫いていった。



 「がぁっ!!?」

 「うわぁ!!」

 「ぐっ………」



 だが針自体は細く腹を貫かれたくらいならばまだ回復魔法でどうにかなる程度、刺された冒険者たちは「この程度……」と針を引き抜こうとしたその時――――



 キキキキキキキキキキキキン…………!





 ――――耳を劈く金属音に似た音と共に冒険者たちは体内から無数の針に貫かれてその場で即死した。

 




 煙が晴れ、そこには先ほどと全く変わらず無傷の状態のイグニスが笑みを浮かべて佇んでいた。

 イグニスの体に一切の傷はなく衣服に汚れすらついていない、現れた時と全く同じ状態でイグニスはそこに立っていたのだ。

 そしてイグニスは右手の手の平に魔方陣を展開させながら『コンナモノカ?』と退屈そうにしていた。



 「ひぃ!?」

 

 「な……なんだこいつ………」

 

 「こんなの勝てるわけねぇだろおおおお!!」



 たった一手、イグニスが打ったたった一手によって冒険者たちの戦意と勝機はなくなり、それと同時に冒険者たちの正気も失われ皆狂ったようにイグニスに立ち向かっていく。





 まさに「絶望」そのもの。






 『イイゾイイゾ!! ソウコナクテハナァ!!』


 「うおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」



 血気盛んに立ち向かう冒険者たち、そしてそれを迎え撃つイグニス。

 その結果は火を見るよりも明らかで、イグニス一人に何百人という冒険者たちは次々と殺されていった。

 突撃したと思ったら急に恐れをなして泣きかえって来る者、最後まで命を賭して戦う者、命乞いをする者など。

 ただしその中にイグニスに傷をつけることができたものはいなかった。



 「ひっ………! いや、やめて……お願いだから……! いやああああああああ!!!」


 「はあっ!」



 一人の冒険者がイグニスの目の前に横たわって命乞いをしながら涙をぼろぼろと流し、イグニスがとどめを刺そうとしたところで間一髪響がそれを妨害した。



 『オ前ハ………ヒビキ・アルバレストか!』


 「知ってたんだ、名前」


 『面白ソウナ奴ハ覚エテイルモノデナ。チョウドイイ、楽シマセテモラオウカ!』



 このままいけば、響とイグニスの一騎打ちになるだろう。

 だがそれでは確実に響きがじり貧になるだけである。



 なので――――




 「やあぁ!!」


 「ふっ………!」



 ――――梓とアリアも攻撃に加わり三対一、だがそれだけでは全くと言っていいほど足りないのでさらにフランや賢介たちなど次々に戦力を惜しげもなく投入していく。

 それからしてすぐに妖王城からグリムやハイラインたちも駆けつけて現場の惨状を目の当たりにした。

 緑があった平原は至る所がボコボコになっており緑どころか今は魔法の爆炎などで燃え盛り、無残に殺された冒険者たちの遺体があちらこちらに転がっていた。



 「これは………」


 「ひっでぇなこりゃ……うぉっと!」



 到着したばかりのグリムとハイラインの横から魔法の流れ弾が飛んできて反射的にそれを回避し魔法が飛んできた方を見るとそこでは今まさに響たちとイグニスが戦闘を繰り広げていた。

 ハイラインはかつてないほど本気になっている響たちを見て「本当にあいつら子供か?」と疑問の声を上げていた。



 万能型の響を中心として転生者である梓や影山に賢介などの近接型、中距離からはアリアやフランそしてレイやヴィラたち、さらに遠距離からは凪沙や智香に絵美里と琴葉などがサポートをしてくれている。


 

 が、まだ殺しきるには十分じゃない。




 素のスペックも魔力量も戦術センスも何もかもレベルが一つ二つ上なのだ、そしてそれは戦っている響たちが一番よく分かっている、まるで本気を出されていない。

 強いて言うのであれば、今ラスボスたるイグニス本人が響たちに対して気を使ってくれているといっても過言ではないのだ。

 

 そしてその均衡は突如として崩れ去ることとなった。



 『………マァ、コンナモノカ』


 「なに……!?」


 『少シハ楽シメルカト思ッタガ所詮ハマダガキダナ。俺様ノ……イヤ、我ノ敵デハモウナクナッタ』


 


 イグニスの姿が掻き消え、響たちの視界から消え失せる、と思った矢先に後方支援組の方から悲鳴が聞こえそちらを見るとまさかの同時に後方支援組が数十mほど吹き飛ばされて吐血していた。

 呆気にとられ何が起こったのか本人たちも理解できていないような顔をしており、その矛先が今度はアリアたちに向けられたがそれは寸前でグリムたちによって阻止されることとなった。



 しかし、グリムたちもまだ知らなかったのだ、出力を上げているイグニスの本当の強さを。

 勇者二人が援軍に来たところで決定打にはならない、せいぜい頼もしい仲間が駆けつけてくれたくらいのもの。

 一人称を『俺様』から『我』へと変えたのは恐らくそれまで本気ではなかったことの表れなのだろうとその時グリムたちは痛感した。






 それと同時にこうも思った。

 「勝てない」と。






 「(椿っ! 力を貸してくれ!)」


 「(ほい来た、お主の頼みなら断るわけにもいかんからのう。出ていいのかえ?)」


 「(いや、いくつか禁術を教えてくれ)」


 「(そう言うと思ったのじゃ。妾としては出られないのはちと残念じゃが)」



 響はグリムとハイラインが時間を稼いでくれている間、一度目を瞑って息を吐き呼吸を整えた。

 そして右足を引き、一気に加速した。



 『ム……』


 「あああああ!!」



 複数の魔方陣を展開して、以前一度だけ戦った緋級魔物「シルフ」のように背中に光玉を出現させてそこからフルオービット射撃を繰り出して初めてイグニスは攻撃に対する防御をした。




 即ちそれは、イグニスが危険だと判断したということ。

 そしてその攻撃は椿の支援あってのものだが実際に体を動かすのは響自身、言うなれば二人のコンビネーション攻撃でもある。



 『面白イ。興ガ乗ッテキタ!』


 「(ヒビキ、来るぞ)」



 



 そこからはもう他の者の介入など出来ないほど桁違いの戦いとなった。

 両者攻撃と防御のタイミングを予測しながらそれをドンピシャで当てていき、響にいたってはイグニスにダメージを与えることすらできるようになっていた。

 そして何が凄いかと言えば二人とも一切の詠唱をしていないことである。

 通常魔法を放つには詠唱というゲームコマンドのようなものを唱えなければならず、詠唱を破棄することはその魔法を使いこんでいるか魔法の才能があるかどうかで出来るようになる技、しかも詠唱破棄の難易度は扱う魔法に比例して高まっていくというもの。





 現在イグニスと響が使っている魔法は全て()()()()緋級魔法、並大抵の人間が詠唱ありきでも使えるかどうかわからないくらいの魔法を二人は詠唱破棄で行っている。

 アザミから貰ったスキルにより膨大な魔力を有している響と、神族という幻の種族である椿のバックアップ。通常ならばこの二人に勝てる者はそうそういない、グリムでさえ今の状態の響に立ち向かえば無事では済まないかもしれない。




 しかしそれは相手が通常の者ならという仮定の話に過ぎない。

 今響と椿が戦っている相手はこの異世界最大の悪にして魔族の王イグニス、普通の理論が通用する相手ではない。

 いくら抗えていても所詮は付き焼き刃の戦い方、徐々に刃こぼれがしてくる。




 その隙をイグニスが見逃すはずがなかった。




 僅かな重心移動のずれを見逃さなかったイグニスの攻撃を体勢を崩しながら魔法で応戦するがイグニスは止まらない。響は短距離転移で何とか距離を取ったがすぐに追いつかれる、響は適合能力で大量の銃火器を複製して「ニュートンの林檎」で浮かせ一斉射撃を試みた。




 その時の響の顔は焦りに焦っている様子だった。

 それもそのはず、イグニスと戦っていた時は常に神経をすり減らすほどの綱渡り状態での戦闘、それが急に崩れれば心臓が暴れまわるように鼓動して焦りが止まらない。



 「ヒビキっ!!」

 

 「――――!」


 『遅イッ!!!』



 銃弾の嵐の中、イグニスから一筋のレーザーが響の心臓目がけて発射された。

 が、その直前で実体化した椿がレーザーを防いで心臓直撃は免れた。

 しかしその直後、イグニスが銃弾を浴びながら突撃し、先ほどと同じレーザーを剣のように形状変化させて響に向けて払った。










 

 そのレーザーブレードは、回避しようとした響の左腕に命中し、水平に薙ぎ払うように響の左腕を()()した。



 「――――っああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 『………殺セナカッタガ、マァ上々ダナ』


 「ヒビキィィ!!!!」



 その様子を遠巻きに見ていた梓が絹を割くような悲鳴を上げてイグニスに向かって刀を両手に突進していったがそれはアリアによって止められた。



 「行くなアズサ!! 二の舞になる!!」


 「だからってここで黙って見ていろというんですか!!!」


 「そういうわけじゃない、僕だって、僕だって今こうして君を止めているのがやっとなんだ!」



 そのやり取りは残念ながら痛みに頭を支配されている響には届かず、響はボタボタと血液が流れ出る左腕に回復魔法を自力で当てながら何とか意識を保っていた。

 ここまでの痛みは生まれて初めてで、「死ぬほど痛い」という言葉を今まさに実感していた。



 『………ナルホド、マダ隠シ玉ガアッタヨウダナ。ドコノ誰カハ存ジナイガ』

 

 「ヒビキ、大丈夫か?」


 「―――――!」



 痛みで声を上げることすらままならない状態の響、そして響に回復魔法をかける椿。

 そんな二人の前にイグニスがどこから取り出したのか漆黒の剣を携えて眼前に立ちはだかった。



 『終ワリダ。ソコノ女、死ヌ前ニ正体ヲ明カセ』


 「……妾が自ら手の内を明かすような真似をするわけなかろう」


 『……愚問ダッタカ。ナラセメテ一太刀ニテ殺シテヤル、慈悲ダ』



 そう言ってイグニスはゆっくりと大剣を持ち上げて二人に振り下ろした――――






 「そうはいきません」

 「そうはいかん」





 ――――刹那、遠方から二発の光の矢がイグニスと大剣に直撃して一発は大剣を吹き飛ばしもう一発はイグニスの片手を貫いた。



 『ナニ………?』




 驚愕するイグニスの前に()()()の女性がちょうど響たちとイグニスの間に入るようにして地に降り、瞬間、とてつもない速度でイグニスを蹴りつけその威力はイグニスのガードが追い付かないほど。



 そしてその隣に()()()の女性が着地して響に回復魔法を何重にもかけた。




 「すまない、待たせたな」


 「あな………たは…………」



 

 二人の前に現れ、イグニスを蹴り飛ばした正体。

 それは獣族の管理を担当する女神の一柱、女神アキレアだった。

あと数話くらいで新章かなー……

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