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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第七章:絶対的な力が待ち受けているようです
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魔王のお話。

最悪にして災厄、顕現。

 「急げー!! 魔物どもが来るぞー!!」

 「畜生何だってんだ!? どうしてこんな数が!」

 「倒せないレベルじゃない! 確実に潰せ!!」



 妖王大陸の平野、見晴らしの良いその場所には無数の冒険者たちが集まって武器を構えていた。

 目的は突如として出現した魔物の群れ、その数二千。

 肉眼でも分かるほどの黒々とした群れが有象無象の集団がこちらへ明確な殺意を持ちながらやってくるのを冒険者たちは確かに感じ取っていた。



 そして今、二千の魔物たちと冒険者連合の合戦が幕を開けた――――。



△▼△▼△▼△



 「大丈夫かしら、やはり私とレイも向かった方が良いのでは?」

 

 「初めからそんなに戦力を投入しても仕方ない、まずは様子見だ」


 「……分かりました」


 「いや、やっぱり仕事を与える。妖族の騎士団の方と合流して市民たちの避難を手伝ってきてくれ」

 

 「了解しましたカレン大尉、行くぞヴィラ」


 「ええ」



 場所は変わって妖王城緊急作戦会議室。

 あくまで部屋の名前は仮称だが役割を把握するには十二分な役目を果たしている、その室内でカレンはレイとヴィラに市民の避難誘導へ向かわせた。

 レイとヴィラの二人は実力派の冒険者、何かあった時の対処役にもなるだろう。



 「ただいま帰還しました、グリムさん」

 

 「同じく戻りましたカレン大尉」


 「よし、良く戻った。ソフィー、状況は?」


 「現在冒険者たちが派手にやっているおかげで今のところ被害や死者は出ていないっす。恐らく量産するため質より数を優先したと思うっす、下級魔物も混ざってました」


 「ふむ、ではこの状況をどう見るハーメルン」


 『これが本当に魔王イグニスが企てたものならこの第一陣で終わるはずがありません、第二第三の群れが来る可能性がある。そして二千もの魔物を投入してきたのであればそれ以上の数を投入してくるのは流石に他の種族にも気づかれる可能性が高いため数を減らして量より質を取ってくるかと』


 「……よし、新たに部隊を再編成。ヒビキ・アリア・フラン・ハーメルン・マリアは前線で魔物たちの掃討をしろ」


 『了解』


 「こちらも部隊を編成する。ソフィー・ナギサ・ケンスケ・エミリ・トモカ・グラン、共に前線で戦火を上げよ!」


 「了解っす!」



 響たちはすでに戦線で戦っているため室内に残っていたメンバーが追加で補充・変更される形となった。

 そして引き続きカレンやグリムたちは戦況の確認や作戦を考え今後起こりうる状況などを想定してこの戦いの勝利のために知恵を働かせていた。



△▼△▼△▼△



 前線ではすでに響たちが破竹の勢いで見る見るうちに魔物たちをまるで氷が溶けるように次々と撃破していき、範囲攻撃を多用したおかげであっという間に五百の魔物たちを亡き者にしていった。



 「あの子供たち……確かスライン様たちと一緒にいた奴らだ」

 

 「何て餓鬼だ………だが頼りになる!」

 

 「あんな子供たちに負けてられるか!! やるぞ!!」



 まだ子供である響たちがどこよりも戦果を上げて戦う姿を見て自分たちも負けじとさらに勢いを上げて片っ端から魔物たちを薙ぎ払っていくその様はまさに修羅の如し。

 魔物たちは見る見るうちに数を減らしその数は残り数百といったところまで減らした。



 「いける……いけるぞ!!」


 「あともう少しだ!」


 「怪我した奴は今の内に後ろに戻れ!」



 冒険者たちに後れを取るまいと今度は響たちも残った魔物たちを一切の慈悲をかけずに冷静かつ確実に叩き潰していき後は放っておいても冒険者たちが勝手に始末してくれるほどの数になった。

 かくして二千もの大群で押し寄せた魔物の群れは半日も立たないうちに二千もの肉塊と成り果ててしまった。



 「終わった………終わったぞー!!!」


 「やれるもんだなぁ!! 今日は良い酒が飲める!」


 「いや、本当にすごいのはあの子供たちだ。あいつらがいなかったらきっと負傷者がもっと出てた」


 「ああ本当だ! 全く、大した子供たちだ」



 もうこれで脅威は去った、この場にいるほとんどの冒険者たちはそう思ったことだろう。

 だが響たちやソフィーたち、そしてごく一部の聡明で慎重な冒険者たちはこう思ったはずだ。



 ――――何か、違和感があると。



 調査部隊生存者が発したあの発言とそして此度の魔物たちの襲来、どう考えても偶然とは思えない。

 だがそれと同時にこれだけあっさり終わってしまったことによる違和感が残った。


 

 「ヒビキ君」


 「アリア先輩」


 「どう思う?」


 「……何か釈然としません、きっとまだ何かある」


 「僕も同感だ。さっきソフィーさんたちにも聞いたが皆同じ意見だった」


 「じゃあやっぱり……」


 「うん、何かあると見て間違いない。今ナギサ君が索敵をしているところだ」



 そうアリアが言ってすぐ凪沙が声を上げた。

 膨大な量の魔力量が観測されたらしく凪沙には珍しく焦っている様子だった。

 そして次の瞬間、鳥肌が立つほどの強烈な気配をある一方向からその場にいる全員が感じ取った。



 『この気配……間違いようがない……』

 

 『来たのね………あの人が』


 

 そんな中ハーメルンとグリムがポツリと呟いた。

 その頃、妖王城内でも、というより妖王大陸内全土でその瞬間凄まじい気配を全員が感じ取った。

 妖王城で待機していたメンバーも平原にいる響たちと同じ方向を一斉に向いて確実にまずいとことになることを予感していた。


 『この………感じ………』

 

 「ミスズちゃん大丈夫? 震えてるよ……?」


 『間違いない……』


 

 カタカタと体を震わせるミスズを心配する琴葉、だが今のミスズはそれを無意識に意識の内から排除してこの気配の正体に対する確信を得ていた。



 そして――――



 『魔王様が来る……』

 『魔王様が来るのね……』

 『魔王が………来る………!』



 ――――場所は違えど時を同じくして三人が同じ言葉を発した。



△▼△▼△▼△



 『ホォ……見事魔物タチヲ滅ボシタヨウダナ。ウム、ダガソレクライヤッテモラワナケレバ困ル、俺様ノ楽シミガナクナッテシマウカラナ………』



 暗雲が立ち込める。

 比喩ではなく本当に雲行きが怪しくなり、風が吹き、嫌な空気が肌に纏わりつくような感覚を覚えた。

 草が漣のように静かに揺れ、衣服がなびく。

 冒険者たちは徐々に姿が見えてきた気配の正体を指差し「あれは何だ!?」と口々に話し始め平原がざわつきだした。



 「(ヒビキ! なんじゃこの鋭い気配と魔力量は!)」


 「(椿、まだもう少しだけ俺の中にいてくれ)」


 「(一体何だというんじゃ?)」


 「(来たんだよ……あいつが……)」



 響たちも正体のいる方向にゆっくりを顔を上げ目線をそこだけに集中させた。

 そして気配の正体は空中からゆっくりと降下してふわりと足を付けて地上へと降り立った。






 『………久方ブリダナ、少年少女ラヨ』






 ――――混沌、邪悪、この世の悪の具現化。

 魔族の王にしてこの異世界最大の敵、そして響たちが転生させられた理由であり討伐すべき相手。



 魔王イグニスが、その姿を現した。

ラスボス降臨、果たして――――

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