急襲のお話。
妖王大陸、襲撃
それは、突如としてやって来た。
冒険者たちはいつも通り任務に出て、店を営んでいる人たちは売り上げを伸ばすために接客や新しい商品を入荷しレストランなどはより美味しい料理をお客に楽しんでもらうため厨房とカウンターの両方で精を出す。
それ以外の人たちも、皆それぞれの日常を過ごしていた。
それは響たちだって例外ではなく、誇り高き勇者パーティーの一員として各員が責任を持って仕事を行っていた。
だがそれは、その全てを嘲笑い消し飛ばすかのように大量の厄災を引き連れて妖王大陸へと攻め込んできた。
あまりに突然の、出来事であった――――
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「それで、調査部隊の件に関して何かわかったのか?」
「ああそれなんだが、幸運にも生還者がいた」
「本当かスライン!」
「つい昨日、消息を絶った場所の近くで保護された。私の種族は回復魔法に関しては他種族に負けない自信がる」
「話は出来そうか?」
「残念だがそれはもう少し待ってほしい、昨日私が回復の経過を見るついでに話してきたがどうやらトラウマを再発させたみたいで」
「何やってんだお前は」
「だが情報は得た」
朝早くからグリムとスラインそしてハイラインの三人は話を交わしていた。
議題は、先日の調査部隊の件について生存者がいたことが分かったこと。
それからその生存者から得た情報というものだった。
「彼は確かにこう言った、魔王が動き始めたと」
『やっぱり、そうでしたか』
「……グラン、それにお前たち」
三人が話している扉の内側に、いつの間にかリナリア・グラン・ハーメルンの三人が転移してきていた。
グランは悲し気にそれでいて諦めにも近い声色でスラインの報告に相槌を打った。
リナリアはそれから、自分たちもこの事態について調べていたと言い、あの魔物たちは独自に改良を施されたいわば亜種個体だという。
「ほぅ? 中々詳しいじゃないか」
『そういえば言っていませんでしたねぇ……』
「……そこの仮面のお前、声聞いたことあるぞ」
『そうでしょうそうでしょう勇者ハイライン』
『……私たちは、元魔王軍幹部です』
「私は違うけどね」
「グリム嬢、これはどういうことだ? 何故そのような奴らがここにいる。それに仮面の奴以外はそちらの仲間だったと記憶しているが……確かそう、リナリアとグラン」
『……そして、私』
「あってめぇ!! ハーメルン!」
『ご名答ハイライン』
「……すぐに説明しよう、ハイライン、スライン。だからそう殺気を放つものではない」
それからグリムはハイラインとスラインに三人の事を一から説明した。
ハイラインとスラインは何も言わず黙ってグリムの話を聞いていた、その間リナリアたち三人は事の行く末をグリムに委ねてこちらも黙っていた。
やがて話が終わるとハイラインとスラインの両者は少し考えた様子だったがすぐにグリムの話を受け入れた。
「分かった。信じよう」
「俺もだ、つーか今更どうのこうのつっても意味ねぇしな。それに裏切ったりもしねぇだろうしよ」
「感謝する、二人とも」
「ひとまず情報を確認し合おうグリム嬢、ハイライン。すぐにでも行動を開始しなければならない」
明朝六時の出来事。
この後六人で行われた会議は情報の交換それからその情報を元に考慮すべき事態と被害の予想、そしてさらに町中の冒険者などに伝えることを決定して一度終わりを迎えた。
そして小一時間が経ち響たち残りの勇者パーティーメンバーとカレンたち王国騎士団メンバーにも伝えられ魔王が行動を開始したという生存者からの情報は衝撃を与えた。
すぐさま妖王大陸全土に警戒態勢が敷かれたがいつ動き出すのかは依然として不明であることに変わりはなく、備えが万全であるのかという不安感が残った。
だがその不安を払拭できないまま、波が来たのだ。
不十分な状態のまま、疑惑と疑念が残るまま、妖王大陸に設けられている観測所からある物が観測された。
「た………大変だ……!! すぐに国王とスライン様に連絡をしろ!! 魔物の大群だ!!!」
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「スライン様、大変です!!」
「どうしました?」
「観測所から報告っ! 妖王大陸に向かって大量の魔物の群れが迫ってきています!! その数二千!!」
「………どういうことだ、まさかもう……」
『動き出したんだ、私たち魔族の主が』
妖王大陸王城、その一室には勇者パーティーとカレン率いる人族王国騎士団メンバーがいた。
そしてそこへ飛び込んできた魔物襲来の知らせ、それから全員が動き出すまでは早かった。
スラインは知らせに来た使用人に全ての冒険者ギルドへ大規模緊急任務の発令を勇者命令で発行、国王に避難することを伝達させた。
「ナギサ・ソフィー・ケンスケ・エミリ・トモカ。お前たちは冒険者たちと共に戦線の状況を確認、その後確認に一度戻ってこい」
「了解っす!」
「ヒビキ・ハーメルン・アリア・ハイライン。お前たちも同行し……そうだな、ハーメルンは報告に戻れ、他は共に戦え」
『了解』
そして指示を受けた面々は部屋を飛び出して戦線へと直行した。
スラインは妖族の騎士団を指揮して国民たちの避難誘導の手伝いをすると言って行動し、残ったメンバーは戦況の考察と考えられる可能性を導き出すこと。
そして考えなければならない最悪の事態が一つある。
それは魔王イグニスの襲来、もしそうなってしまえば何があるのかすら予想できない。
全滅するのか、あるいはそれよりも恐ろしことが待っているのかすら分からない。
あまりにも急すぎる敵襲は妖王大陸の戦力の大半をぶつける総力戦へと変化していった。
不気味な存在が、不敵に笑っていることも知らずに。
そろそろ展開が欲しいからね