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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
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緋級魔法のお話し。

キャラクター同士の会話を打ち込んでいるときが一番楽しい。

特にマリア。

※今回は長めです

 ある金曜日の放課後、生徒会室にての出来事である。



 「さて諸君! 一週間ご苦労であった。というわけで今度の休みにみんなで任務にでもいかないかい?  マリア嬢のメンバー入りも兼ねて」

 「俺は構いませんが、何がというわけで()なのか詳しく」

 「分かりましたわ!  やっと任務に出られるのですね!  私、ずっと行ってみたいと思っていたのですわ!」



 まるで初めて遊園地に来た幼子のように目をキラキラさせて胸の前で手を祈るように握っているマリア。

 まったく、どうしてこの人は日に日にいいとこの貴族であることを忘れさせるようなことをするのか、そして俺の疑問はいつになったら回収されるのかと思う響であった。



 「決まりだね、じゃあ日曜にでも行こうか。お昼ご飯を食べたらギルドに即集合、ってことで」



 約束を交わし、それぞれ家路に帰り着く。

 帰っている途中にふと思ったがこの世界って本当に地球に似ているなぁと響は何げなく思った、今までは何か約束事は大体影山や梓とくらいなものだったから、この世界の人と曜日感覚について話すことがあまりなかったため今こうして改めて街並みを見ているとそんなことをふと考えてしまう。

 そんな帰り道、恐らく任務の帰りであろう冒険者の集団が武器屋のおっちゃんと大笑いしながらホクホク顔で喋っていた。

 きっと報酬が弾んだとかレアモンスターが出たとかいいことがあったんだろう、そのままスルーして帰ろうとした響だったがその冒険者たちから不穏な話が聞こえてきた。



 「いやあ、今日は儲かったなあ!」

 「全くだ。そういや聞いたか? 魔物どもの噂」

 「ああ、例の繁殖期のやつか?」



 繁殖期? まあ魔物とはいえ生物だしそういうのは結構あるんだろうな、と現実的に思っていたが、次の話を聞いてどうやらちょっと危機感を持った方がいいと響は判断した。



 「そうそう。なんでもよ、その繁殖期で生まれた魔物ってのが急激に成長しているってんだよ」

 「はあ? なんだそれ?」

 「しかも種族関係なく集団で行動しているって噂だ。最近じゃあ、平原で魔物の大群を見かけたなんて話もあるんだぜ?」

 「平原ってお前、すぐ近くじゃねえかよ」

 「おっかねえ話だな。まあ兄ちゃんたちはそっちの心配よりも自分たちの繁殖の心配した方がいいんじゃねえのか?」

 「やめろよおっちゃん」



 再び大きく笑う冒険者二人と店主。

 平原か……確か王国出てすぐのだだっ広いところだったな。行ったことはないが。次の任務の時に、何もなければいいが……。

 その後響は家につき家族四人で夕食を食べ、一週間の疲れを取るために早めに寝ることにした。

 眠りにつく前に、アリアに「というわけで」の意味を答えてもらおうとか思っていたのを思い出し「あ」と声を出したがすぐに瞳を閉じて眠りに付いた、どうせ意味なんてないだろう。



△▼△▼△▼△



 翌朝土曜日、清々しい朝日を浴びて寝ぼけ眼を擦りながら響は目覚めた。

 顔を洗い朝食を済ませ、歯を磨いた後、私服に着替える。今日は剣の訓練は休みになっていて一日フリーということになっている。

 折角の休みだ、何か有意義なことをしなければ。そう思い立ち魔導書を一冊持って家を出た。向かった先は初めて実戦任務で行った山。あの時は中腹辺りまで入ったから周りが木しかなかったが、山の入り口辺りにはピクニックやレジャーなどに最適な開けた場所と丘陵があるのだ。

 幸いにも他に人はおらず貸し切り状態だった。響は魔導書を片手に持ち深呼吸をして集中力を高める。



 今日試すのは上級魔法の上、使いこなせれば一個大隊で即戦力間違いなしの一等級の魔法「緋級魔法」である。

 今までは魔力の制御や試す場所、その難易度の高さから敬遠していた響だったが学校生活も折り返しを迎えて魔力制御も自身の技術もまあまあ上がっているはずである。生徒会に入ったからとはいえ、一端の冒険者である以上自らの技術の向上に努めなければやってはいけないだろう。



 緋級魔法は種類こそ上級魔法までと変わらないが空間魔法がちょいとばかし厄介になっている。

 空間魔法はあくまで現象として扱われ、「空間魔法」とその派生である「転移魔法」とでカテゴリは分かれているのだが攻撃魔法や防御魔法のように、放たれる魔法自体に固有名詞はない。

 


 今までの空間魔法や転移魔法は短距離の物体の転移や物の取り出し、それとその応用として「ニュートンの林檎」などを行うことが出来たがそれは実戦として使うにはいくらか制限が多い。物体の転移だって距離が短いし転移できる物体の大きさもあまり大きなものは転移させることが出来ず、「ニュートンの林檎」だってあまり重いものは持ち上げたり引き寄せたりとコントロールすることは難しいのだ。


 

 その点緋級魔法からは転移できる距離の大幅な増加に、転移できる物体の制限の緩和、それらの技術を駆使すれば「ニュートンの林檎」のさらなるバージョンアップが望める。その緋級魔法のさらに上、壊級・冥級などは人知を超えた力を操ることが出来るとかなんとか。

 ともかく、空間を操るなんていう中二感溢れるこの魔法を使いこなせるようにならないでどうする。

 そう意気込んで今日響はここへやって来た。



 まずは手元の魔導書に書かれている転移魔法のページを開く。その前にここまでのおさらいとして習得している魔法を復習することにした。一旦魔導書を閉じ足元に置いてその下に魔方陣を出現させる。少し離れたところにもう一つ魔方陣を出現させ下準備を終わらせる。響が力を加えた瞬間、魔方陣が淡く発光し魔導書が消える。消えたと思った魔導書は気づかぬうちに離れたところに出現させておいた魔方陣の方に現れていた。


 

 魔導書を手元に転移し直してもう一度消す。出現先の魔方陣をセットしていないため、現在魔導書は空間と現実の狭間に保管されている状態になっている。手の平を上にして魔方陣を出現させる。魔力を込めると魔方陣が淡く光り魔導書が出現する。どうやら今までの転移魔法は成功しているようだ。



 ではいよいよ本番と行こう。

 媒体はこの魔導書でいいだろうが問題は何処に転移させるかである。自分の知っている場所で尚且つ周りに迷惑をかけない場所となると場所は限られてくるが、手っ取り早く自分の部屋でいいだろう。



 自分のベッドを思い浮かべそこに出現するイメージを高めた後、集中力が途切れないうちに魔導書を転移させる。魔方陣が光って魔導書が消える。成功しているかどうかは今の段階では部屋に戻るまで分からない。来たばかりですぐ帰ってしまうのももったいないので空間魔法を特訓することにしようと思う。

 ただいまいち空間魔法がどんなものかが良く理解できていない。ということでなんとなくでやってみようと思う。成功するかどうかは別だがな。



 どうしたものか、とりあえずなんか色々試してみようかな。

 まずはこう……なんだろうな両手を重ねて力を入れ、目の前の空間が裂けるようなイメージでやってみる。手の平から魔力を放出してこじ開けるように力を込める。



 「くそ………きっついな……これ……」



 思わず響の口から呻き声が漏れる。

 それもそのはず緋級魔法はこれまでの上級魔法よりも格段にレベルが違う、正直洒落になっていない。アーケードの音ゲーで難易度をハードに上げた時、今までのノーマルレベルと全然違う感覚に似ている。これを共有できるのは一部の人たちだけかもしれないがな。多分、アクションゲームとかでも同じだと思う。



 脂汗が出てくる頃、ようやく目の前の空間に歪が出来た。蜃気楼のようにゆらりと目の前の景色がぼやけ始める。

 さらに出力を上げて空間を歪ませる。それに比例してさらに景色がぼやけていき、その範囲はより広くなっている。魔力的にはまだまだ余裕はありそうだが長引かせるとコントロールの方が辛くなってくるだろうと判断した結果、早急に仕上げることにした。



 さらに歪みぼやけ、あと少し何か衝撃を加えれば恐らくこの空間は崩壊するだろう。ここまで来ればあとはコントロールを維持したまま瞬間的に出力を上げる。

 足を肩幅に開いて腕に力を入れて再度深呼吸。

 やがて空間が横一直線にはっきりと歪み、その範囲内にあった木々も歪みメキメキと音を立てて変形していき、バキリと折れてしまった。



 「これで……!」



 キイイイイイン……という甲高い音を発し自分を中心として十数m先、左右三十mほど空間が横一直線に畳み込まれたかのように消えてなくなった。その範囲内にあった土地や木々、小さな小石までもがきれいさっぱりなくなっていた。残ったのは抉られた丘陵と乱暴に折られた複数の木々、そして多大な疲労感だった。



 ゼエゼエと息を切らして自分が行使した魔法の威力を確かめる。半径三十m奥行二十mほど大地が抉れてより一層静けさを増す。冷たい風が火照った体を冷ましていき何もしたくない倦怠感と疲労感が体中を包む。正直きつかったが、大体の感覚は掴んだ気がする。後はこれを繰り返して徐々に規模を拡大させていけば大分使い物になるはずだ。

 その場に大の字に寝っ転がって体を休める。明日はアリアたちと任務だっていうのに、こりゃ明日まで疲れが溜まりそうだなあとしみじみ思う。ある程度疲れが回復したところで帰ることにした。時計を作りだして時間を確認する。現在二時三十四分。家を出たのが大体一時ちょっとだったから移動時間を除けば一時間くらいやっていたことになるか。たった一時間でこのざまとは情けない気もするが体は正直らしい。


 

 風を体で感じながら家へと戻る。その時の響はよっぽど疲れた顔をしていたのかカレンに「一体何をやっていたんだ」と心配されてしまった。緋級魔法の練習だと伝えたところ、若干呆れられたような納得されたような複雑な表情をされた。

 自室でベッドに倒れこむように体を預けるとなんかどっと疲れが出てきた。傍らには魔導書が一冊置かれてあるのが確認できた。その魔導書は空間魔法の練習の前に転移魔法で転移させたものだった。つまるところ転移魔法の方もちゃんと成功していたらしい。よかった、これである程度は使い物になってくれる。



 気づくと響は夕食の時間まで寝ていたようで、食卓に着くなり両親に訓練のことを根掘り葉掘り聞かれてしまった。聞くところによるとカレンが帰って来た時のことを話したようで、疲れを取ったそばからまた新たな疲れが襲ってくるという悪循環になってしまった。



△▼△▼△▼△



 翌朝、恐らく八時ごろだっただろうか自室の扉が勢いよく開けられた。その音で目覚めるという元の世界でもなかなか無かったこの現象。その元凶である超特殊目覚まし時計によって布団の中で目覚めの余韻を味わう暇もなく跳ね起きるように上半身が起き上がった。



 「何事っ……!?」

 「おはようございますヒビキさん! 気持ちの良い朝ですわね!」

 「おはようございます、すみません、うちのお嬢様が朝っぱらから……」

 「は、はあ……えと、お、おはようございます?」



 突如として現れたマリアとセリアコンビの異常さに驚きが一周回って冷静になりつつある。どこかでこの状態になったような気がして何だったかを脳内で検索をかけた結果、イグニス達が学校を襲撃した時の感じだったことに気が付き、さらにこの異様な状況の凄さが身に染みてきた。まったく、朝から心臓に悪い。



 「おはよ~ヒビキ~。なんかマリアちゃん達ったら凄い元気なんですもの~」

 「せめて部屋に来る前に起こしておいてください母様……」



 相変わらず「あらあら~」とのほほんオーラ全開の母様にこりゃもうだめだと諦めモードに移行する響。とりあえず着替えと洗顔の間、二人には別の場所で待っていてもらうことにした。ちゃっちゃと着替えと洗顔を済ませて二人を部屋に戻す。

 マリア曰く、今日が冒険者登録と初任務ということで朝からテンション上がりまくりの状態でセリアもこんな感じで起こされたとのことで、そのまま家にいても落ち着かず居ても立っても居られないということで何故か響の家へ向かったというよく分からない動機だという。



 「朝から元気なのはいいことですが何故俺の家なんですか……?」



 眠気がまだ残る中たまらず理由を聞いていく響。



 「私にも分かりません。気が付いたらヒビキさんの家に到着してたのですわ。きっとこれは、この興奮を真っ先にヒビキさんに伝えたかったということですわね!」

 「ごめん何言ってるかちょっと分かんない」

 「お嬢様、入学式の日にヒビキさんに迷惑をかけたのを忘れたのですか?」

 「過去は過去、今は今、ですわ」



 響とセリアが軽い頭痛に苛まれている最中、ドタドタドタ……と何やら足音が聞こえる。この感じ、母様や父様、カレンの身内メンバーではないだろう。ということは家族以外の誰かが急いでこちらへ向かっているということだ。そしてその足音の犯人は実に見慣れた人物二人だった。



 「響! お前俺が知らない間に一体何がどうなっているんだ!? どこまで進展しているというんだあ!?」

 「ひひ、響! あああ朝から一体何をするつもりだったの!? ナニをするつもりだったの!? わ、私じゃダメなの!?」

 「ああもう……頼むからこれ以上厄介ごとを持ち込むんじゃねえよ阿保共!!」



 ただでさえ頭痛がするっていうのにそこに梓と影山の二人が追い打ちをかけてくる。この時点でまだ時刻は八時三十分前後。こんなに騒がしい朝は初めてだと嘆く響に、お構いなしと質問攻めの二人。その横で俺の部屋を物色し始めるマリアとそれを大人しくさせようとするセリア。わずか一部屋で起こったこの惨状に誰も収集をつけられず、収まったのはそれから一時間ほど後の話だったとか。

梓みたいな元気はつらつな幼馴染に叩き起こしに来てほしい今日この頃。(ただし幼馴染がいるとは言っていない)

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