悪いお酒のお話。
間空いてしまいました、すみません。
響たちが妖王大陸に向かうその数日前、カレンたち人族の王国騎士団たちは妖王大陸で外交活動にいそしんでいた。
この国に来てからカレンたちは緋級魔物の相手をしたり重役のおっさんたちの相手をしたりと何かといいように使われ、心身ともに疲れていた。
「はぁ、全く。どうしてあいつらは自分の執務もまともに出来んのだ」
「仕方ないっすよカレン先輩、妖族なんてそんなもんっす」
「ソフィー、お前はセリア達を連れて先に戻っていてくれ。私はもう少し街を見て回ってから戻る」
「了解っす!」
ソフィーはセリア達を連れて妖族の王が住まう妖王城の近くにある宿に戻り、カレンは街をパトロールしてから戻った。
一般に妖族は魔法の扱いに長け、遠距離から中距離戦を得意とする種族。
それ故に近接戦にはめっぽう弱く身体つきもひょろっとしている。
今回カレンたちがこの妖王大陸に呼ばれたのは緋級魔物が大量に出現しているという要請を受けたため、しかも不運なことに半数近くが魔法に対して強い耐性を持つ魔物がいたため冒険者たちも手を焼いていたのだという。
だがそんな折、カレンたちのもとへ、あるニュースが流れた。
響たちのいる勇者パーティーがこちらへ向かう予定にあるというニュースを。
それを聞いてカレンたちは目の色を変えて頑張るようになった、久しぶりの旧友たちとの再会に胸を躍らせ今か今かと待っていた。
そして、ついにグリムたちが妖王大陸に到着した。
△▼△▼△▼△
「失礼する、グリム嬢」
「スラインか。どうした、仕事か?」
「いいや、君たちの国の王国騎士団が今この大陸にいる。あってきたらどうだ?」
「……そうか、ありがとう」
「あなたのためなら何のその」
妖王大陸に来た翌日、スラインが人族の王国騎士団がこっちへ来ていることを知らせに来た。それはつまりカレンたちと再会できるということを言っているようなことでもあった。
響たちはすぐにスラインから場所を聞いて騎士団が寝泊まりしている宿舎へと向かったが、生憎と出払っているようだった。
その後グリムたちにも魔物討伐の依頼が舞い込んだためその日は結局会えず仕舞いで終わってしまった。
その夜、グリムたちは近くの酒場に軽装備で訪れた。
グリムもいつもの鎧から普通の私服に着替えて、全員一般人となんら変わらない格好で適当に見つけた酒場に入っていった。
「いらっしゃい、何人?」
「九人だ。大丈夫か?」
「そっちのテーブル使って、九名様ご案内ー!」
酒場の店主が大人数用のテーブルにグリムたちを案内してそれぞれまず飲み物を頼んでから食べ物を選ぶことにした。妖王大陸は大体がヘルシー志向の料理で野菜が多かった、ベジタリアンには堪らないだろう。
注文していた飲み物が来て、早速食べ物を注文して待つことにした。
「あああああああああああもう!!! ほんっとストレスしかたまらない!!」
「まぁまぁ、その辺で――――」
と、響たちはカウンター席の二人の会話が気になった。
長身の女性の方は随分と荒れているようで、その隣の小柄な女性が慰めているようだ。
「はははっ、随分と荒れてる姉ちゃんだな、ありゃ」
ハイラインが茶化し気味に酒を飲みながらそういう、小柄な女性の方は位置の関係で響には顔が見えるが長身の方は小柄の女性の方を向いているため後頭部しか見えない。
「でもなんか見たことあるんですよねー……あの長身の方の人」
「私もー」
「俺も」
「私もですわ」
「あぁ? なんだなんだ、知り合いか?」
まさかの響・梓・影山・マリアの四人が声を揃えて見たことがあると証言した。
四人もそうなるとは思っていなかったためハイラインを含めて驚いた顔をしていた。
四人の面識のある人物、だが見たことがあるということはそこまで会った回数が無いか記憶の中のイメージと食い違いがあるかのどちらかだ。
四人は顔を見合わせてとある人物を連想した、それぞれの顔を見るにどうやら同じ人物のようだがその考え着いた人物ではないことを切に願った。
何故か?
とてもイメージとかけ離れてしまったからだ。
そしてその答え合わせだと言わんばかりに長身の女性の方の顔が響の位置から見えた。
「あ、カレンさん……」
カレン・アルバレスト、響の第二の母親であり剣術の師である人物。
そしてカレンに今の響のたった一言の呟きが聞こえたようでこちらにグリンと振り返って響とカレンの目が合った。そしてカレンは涙を流した。
「ヒビキ………ぅ会いたかったぞー!!!」
「カレンさん、ここお店の中……ぐぅ!」
「あーあ」
「あーあ」
「あーあ」
「『あーあ』じゃねぇよお前ら! ちょっとは助けろ!」
「母親が息子に甘えて何が悪いというのだヒビキ………ヒビキぃ!!」
「ちょ、カレンさん酔い過ぎ!」
「カレンさんだなんて他人行儀な、お義母さんと呼びなさい」
「先輩! 暴走しちゃダメっすよ!」
隣にいた小柄な女性の方が響に抱き着き頬ずりをするカレンを無理やり響から引っぺがした、カレンは「あああぁ!」と酷く悲しそうな声を上げて元の席に引っ張られていった。
「ちび助、知り合いだな?」
「えぇ、うちの二番目の母親です。正確には第二夫人ってやつです」
「カレン・アルバレストか」
「なんだ姉御、知ってたのか」
「まぁ、騎士団の人間でだからな。成績上位で入ってきた期待のルーキーだったんだ」
あえて過去形にしたのはグリムなりにショックだったからだろう、響もショックというよりは驚いていた、カレンさんあんな悪い酒になるのかと。
カレンたち二人のカウンターと響たちのテーブルには他の客たちから凄いものを見たという目で見られたのは言うまでもない。
悪酒状態は英雄職の勇者を元にやってみた。
良ければ「英雄職なんてもう嫌だ」もどうぞ、短編です。