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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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東雲アザミ

覚えているだろうか、響たちをこの異世界に飛ばした張本人の事を。

そして今、再び眼前に現れん。

 数分前まで、激しく魔族と人族が争っていた湖畔だが今となっては静けさを取り戻していた。



 マリアの通信石に響から魔物を掃討し尽したという連絡が入り、それを聞いたナインは打ちひしがれたように枯れた笑い声をあげそれからはすっかり人が変わったように大人しくなってしまった。


 実際、響が今回使用した大量の銃火器に加えギガンテスを倒した8.8cm Flak(アハト・アハト)の発砲音もとい轟音、そして小型化したギガンテスを爆発四散させた手榴弾の束の爆音は離れた場所にあるこの湖畔まで聞こえていた。流石にそれにはマリアたちも驚き、ナインとは別の襲撃者が来たのではないかと勘違いしたほどだ。


 何せ壊級魔物が現れたと思ったら突如魔法ではない拘束射出された未知の物体によって一撃で貫かれその直後にけたたましい爆音が響いたのだから無理はない。響の方がナインよりよっぽど凶悪なことをしている。



 


 そしてそれから響・グリム・ハーメルン・ハイラインの四人は湖畔へと到着し無事にみんなと合流することが出来た。


 『よう、ナイン』


 『……ハーメルンか。意外だよ、まさか君があの数を一人で凌いだとはな』


 『元同僚をあまり舐めるなよ、半端な実力で幹部に入ったわけではないんだぞ』


 『そういえば、初期の頃はお前に魔法で潰されたっけ………それからお前の口調が変わって……』


 『その話はやめろ、恥ずかしいから』


 『恥ずかしいか、そうか、それならやめておこう』


 ハーメルンは湖畔に着いた途端、拘束されてぐったりして座っているナインに歩み寄り自分も同じく目線を合わせるべく立膝で隣に移動した。


 『ナイン、お前はこれから獣王城に連れて行かれ洗いざらい知っていることを話してもらう』


 『だろうなぁ』


 『その前に一つ聞きたい』


 『なんだ。この際、何でも答える』


 『あの時一緒にいた男の子………確かシャルルと呼んでいたな』


 『あいつが……どうした』


 『どうしてあそこまで情を入れていた?』


 『…………』



 ハーメルンは、あの日あの時からずっと気になっていた。

 

 

 『お前は、あんなに誰かに肩入れするようなやつじゃなかった。それに、大陸一つを攻め落とそうとしているにもかかわらず人員がお前だけというのはいかんせん少なすぎる。人王大陸を攻め落とそうとした時ですら私とグランとそしてグランが操る魔物の群れで向かったんだ。その時のことを考えれば冒険者の数や大陸の広さ的に考えて、その倍は投入するべきだ。少なくするなんてのは、いささかあり得ない』



 ハーメルンの言うことは至極もっともなことである。

 確かに、王城戦の時はハーメルンとグランと魔物の大群が押し寄せ、最終的にはハーメルンがグランのスキルを強制解放させ自分自身もグリムや梓たちを操ることで響たちを追い詰めた。



 それを踏まえて考えれば確かに今回は攻め落とすためにナインが来たと思うにはいささか戦力が足りなさすぎる、いかにナインが魔王軍幹部の中で近接戦に優れていようと遠距離で来られてはその近距離戦の技術も生かしきれないはず。



 そして、攻め落とすのならばあのシャルルとかいう少年となれ合う必要などそもそもないはず、ナインほどならば誰にも見つからない隠れ家を見つけるか森に潜んでいられ程の技量はあろうに。



 『………魔王軍に、何かあったのか?』


 『……っ!!』



 そのハーメルンの質問を聞いた瞬間、ナインは苦悶の表情を浮かべた。




 




 その後、ナインは全てを話した。



 彼曰く、今の魔王軍はかつての魔王軍ではないとのこと。彼自身、魔王に忠誠を誓ってはいるがいかんせん今のやり方は違和感しか感じないらしく、自分でもどうしていいのか分からないとのこと。

 そしてあのシャルルという少年は、暴行されかけているところを救出、もとい相手を半殺しにしてしまっていらい勝手に付き纏われているとのことらしいが、ナイン自身スラム街で穏便かつ国にさとられないようにするにはちょうどいい場所だったため信頼を得る目的も兼ねて一緒にいたらしい。




 そして、肝心の魔王軍が変わってしまった理由だが、


 『どうしてだ、魔王様は意志の強いお方でありとてつもない戦力の持ち主。負けて配下になることなどはあり得ない』


 『あぁ勿論そんな軟弱な理由じゃない。魔王様でも簡単に手出しできないやつが、バックについて裏で操ってるって話が幹部の中では最有力候補として挙がっている』


 『そんな奴が………一体、一体誰なんだ………』


 『あぁ………そいつの名は―――――』


















 だがナインから言葉の続きが紡がれることは無かった。






 突如、光の矢が、ナインの喉を貫いたのだ。




 『―――――!!』


 喉をやられ、呻き声すら上げられないナイン。そして突然の出来事に驚き一瞬で臨戦態勢に入った響たち。


 魔方陣をそれぞれ何重にも展開させて響たちは適合能力をフル稼働させて剣やら銃やら身体能力の限界突破やら最高のセキュリティを築いた。


 「(ヒビキ! 月に何かおる!)」


 「月の方向を!!」


 響は椿が言ったことを反射的に口にしていた、その方向をナイン以外の全員が見ると、月明かりの逆光でよくは見えないが何やら翼を有した人間のようなシルエットが見えた。


 「よく見えないな……フラン、アリア、ハーメルン、三人はナインを回復させろ!」


 「「「了解!!!」」」


 グリムの指示によって三人は一極集中、ナインの喉に回復魔法をかけるも一向に回復する気配がない。三人はそこで、先日ハイラインがかけられた回復を無効化する禁術の事を思い出しグリムに伝える、グリムはそれを聞いて下唇を噛んだ。



 「おい……響、梓……あれってもしかして……」



 と、そこで影山が何かに気付いた。

 身体能力を限界突破されているために視力も大幅強化されているのだろう。


 「なに? 何が見えるの?」


 「分かんねぇのか!? もっとよく見てみろ! 響、双眼鏡かなんか作れねぇか?」


 「能力の範囲外だ、でもスナイパーライフルが作れる。そのスコープでなんとか……」


 「じゃあそれだ! お前と梓の分!」


 何やらこれ以上ないほどに焦っている影山に急かされてスナイパーライフルを二丁作って梓に一丁手渡し一丁を自分で使用して覗いた。










 そうしてスコープ越しに見えたのは、真っ白い翼に美しく光る長い銀髪、そして吸い込まれるような青い瞳、なによりそこにいるだけで、立っているだけで凛とした佇まい。









 見間違うわけなかった。








 「マジか………」


 「ようやく分かったか………あいつは………」


 「アザミ…………ちゃん……?」















 東雲アザミ、またの名を女神アザミ。





 人族の管理を担う女神の一柱であり響たちをこの異世界『ネメシス』に送り込んで一から人生をやり直させた張本人が弓を片手に月の前に立っていたのだ。



 「アザミだと!?」


 

 響たち三人の言葉にいち早く反応したのは言わずもがなアザミと同じく女神の一柱であるリナリアだった、リナリアは目を凝らしてアザミのいる方向を睨み付けるように見ると「なんでこんなところに……」と空気が漏れ出たような小さな声で疑問を口にした。




 そしてアザミは全員の視界から一瞬、消えたかと思うと全員の中心、ナインの前に出現していた。


 「……三人とも、お久しぶりです。十三年ぶりですね」


 アザミは、あの時と変わらない笑顔で、まるで同窓会で友人と会ったような顔をしていた。


 「すみません、あれからずっと会えなくて。何分ずっと忙しかったものでしたから……」


 「アザミ」


 「リナリア、どうしてここに?」


 「それはこちらの台詞だ、ずっと姿を見せずに今頃何をしに………」


 「なにって、決まってるでしょ?」



 アザミはナインの顎をくいっと上げ、「この子を処分するためよ?」と、何かおかしなことを言ったかしらと全員に問わんとするトーンで告げた。


 『ハ…………ルン………』


 『ナイン!』


 「………まだ喋れましたか」


 『………いつ……………こ…………いつ…………が…………くろ…………』










 そこでナインの言葉は消えた。





 正確には、ナイン・オブライエン・サー・メビウスという一人の魔族が消えた。



 光となって、消えた。



 アザミが、消したのだ。



 「…………アザミ、お前……人の管理している種族を目の前で殺したな……?」


 「あなたも今の魔族の事を殺そうとしてたんじゃないの? ならいいでしょ」


 「良いわけあるか!! まだまだあいつからは聞かなければいけないことが山ほど――――」


 「だから?」


 「――――は?」


 「だから何? 私はクラスメイトであり友人の水無月響君と影山聖也君と遊佐梓さんが危険な目に会わないように早めに芽を摘んだだけよ」




 全員が、言葉を失った。


 



 違う、絶対に違う、アザミが今ナインを殺したのはもっと別の理由がある。



 「クラスメイト」とジャンル付けされ「友人」というカテゴリに分けられ、「本名」で呼称された三人はそう思った。




 そしてこうも思った、自分たちの知っている東雲アザミは虚像フェイクだったのだとも。




 「水無月君。私が連れてきた中で一番強くなってくれて、私も鼻が高いわ」


 「……ありがとう、東雲さん」


 「遊佐さんは前以上にずっと可愛らしくなってるわ、響君とこれからも仲良くね」


 「………ありがと、アザミちゃん」


 「影山君、あなたはきちんとした正義感があるわ。誇るべきことよ」


 「……そりゃどうも、東雲さん」





 三人はアザミに対する疑惑を払拭できないまま、限りなくフェイクに近い感謝を口にした。





 「いつかあなたたちが、再び集まって、イグニスを倒してくれることを心から祈ってるし願ってる。それじゃあまたどこかで会いましょう。会えて嬉しかったわ」






 そう言って、アザミは消えた。






 そうして湖畔に残ったものは、虚無感だけだった。

次回で獣王大陸編は終了です。

その次から新たに新章突入という形で新たな大陸に参ろうと思っております。

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