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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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無法地帯のお話。

今更だけど、響は背丈と年齢的には子供だから街の人たちから見たら違和感しかないんだよね。

 ハイラインの瀕死から数日が経ちもう動けるようになった頃、グリムと響そしてハーメルンは例のスラム街へと出向いていた。




 というのも、あの出来事を皮切りにスラム街の連中が何やら活動区域を広げて何やら悪さをしているらしいという情報が入ったため真相を知るために赴いている。


 もちろん、ナイン・オブライエンが仕掛けた罠という線もあるがハーメルンの考えによれば『あいつは誰かを駒として動かすのはめっぽう苦手だ』というのでその言葉を信用してもことだ。





 獣王城から魔法を使ってスラム街へと到着した響たちが見たのは、無法者たちが作り上げた暗黙の法治国家だった。




 鼻を突くような強烈なゴミの匂いと腐敗臭、そして魔物との戦いで幾度となく嗅いだ血液の鉄のような無機質な匂いが三人を歓迎してくれた。


 「なかなかに酷いところですね、これは」


 『ああ。全く、酷い匂いだ、さっさと終わらせて帰ろう』


 響とハーメルンの愚痴がこぼれるもグリムは注意するどころか「それについては私も二人に賛同する」と同じことを思っていた旨を伝えた。

 


 三人は嫌悪感が拭いきれないまま早く帰りたいという気持ちが先導しているのか若干早歩きで歩を進めた、スラム街の住人たちは響たち外部の人間(よそ者)をまるで異端者を見るようにして睨みつけていた。



 「あんたらみねぇ顔だな! いいもん着てんじゃねえの、俺のと交換しようぜー!!」


 

 などとボロボロで布きれ同然の服とも言えない服を着たしわがれた顔の男が、どこから入手したのかも分からない酒瓶を片手にこれまたボロボロに並んだ歯を見せながら大声で絡んできた。




 それもそのはず、現在三人の格好は、グリムがいつもの鎧姿で響とハーメルンはローブ姿ととてもではないがこの場所で生きている人間の格好ではない。




 場違い、ということを表すなら、銭湯に卸したてのスーツを着込んでいくようなものだ。


 「ちょうどいい、聞きたいことがある」



 グリムは話しかけてきたその推定四~五十代の男に質問をした。



 「なんだい姉ちゃん! 何でも聞いてくれよ!」


 「最近この場所で不審な人物を見なかったか?」


 「……冷やかしか? ここに不審じゃねぇ人間なんて誰一人いないのさ。不審じゃないならこんなところにゃ来ねぇよ」


 「そういうことを言っているのではない」


 「へっへ! 分かってらぁそんなこと、最近だろ? いるぜ……一人トンでもねぇのが来て何もかも変えちまった」


 「………そいつの名前を知っていたりはしないか?」


 「名前ねぇ………あぁ~思い出せそうだな~、姉ちゃんが俺にとびきり優しくしてくれたら思い出せそうなんだけどなぁ~」


 「引き上げるぞ、他の奴を探そう」


 「あああ待て待て待て、冗談だっての」


 急にエロジジイと化したその男の発言によってグリムは踵を返して他の人間を当たろうと二人を連れて他のところへ行こうとした時、男は冗談だと言いグリムを引き留めた。


 「なら最初から本当のことを言え」


 「悪かったなそりゃ。名前だろ? 俺も詳しくは覚えてねぇんだが、確か………そう! ナイン……オブレイン? だとかそんな感じだったと思うぞ、やったら長ったらしくて覚えてられねぇってーのな!」


 『ナイン・オブライエン・サー・メビウス』


 「それだ! 確かそんな名前だった!」


 『やはり………』


 「ついでにもう一つ聞く、そいつの居場所を知っていたりはしないか?」


 ハーメルンの言葉によってその男の記憶は呼び覚まされナインがここに来たという裏取りは取れた、そしてグリムは次にナインの居場所を聞こうとしたがそこまでは知らなかったらしい。



 グリムは礼をして二人を連れその場を去ろうとした時、またしても男がグリムを呼び止めとある情報を提示した。


 「そうだ。噂だが、姉ちゃんたちの探しているその何とかってやつは度々教会の跡地にいるって話がある、行ってみるのも悪くねぇんじゃねえか?」


 「そうか、分かった。協力感謝する」



 最後の最後にもう一つ有力な情報を聞きだせたところで三人はその噂を確かめるため教会の跡地とやらに行くことにした。




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 その教会は確かに廃れていた。



 外壁はボロボロで所々錆が目立っている。



 響たちは警戒しながらその教会へと足を踏み入れていった、中は瓦礫が至る所に山となって積み上げられておりもはや祈りを捧げる場所とは縁遠い。


 最奥にある大きなステンドグラスは三分の一が割れて失われており、恐らくは獣族の女神であるアキレアだろうと思しきステンドグラスの女性は首から上からが無くなっていて代わりに陽の光が差し込んでいた。


 「さて………特に気配はしないな……」


 「少なくとも敵意は感じませんね」


 『魔族らしい気配も特にはしないな、やはり噂だったか』


 「かも知れんが、一応調べてみよう。答えを出すのはそれからでも遅くはない」


 そうして響たちは教会跡地を調べることにしたが、特にこれといって何もなかった。瓦礫をどかしてみたものの出てくるのは汚れてたまった雨水と蟲くらいなもの。


 「何かありましたかー?」


 「無いな、ハーメルンは?」


 『こっちも無いもない、噂は噂だったようだな』


 「そう、みたいだな。引き上げよう、長居は無用だ」


 「そうですね。そうしましょう」


 『賛成だ、さっさと帰ろう』


 三人は陽の光の差すステンドグラスに背を向けて、教会から出るため歩を進めた。





 その時、


 『止まれ』


 と、ハーメルンが響とグリムを制止した。


 『そこに隠れている者、姿を表せ!』


 魔族は気配察知に優れているのだろうか、ハーメルンは教会の入り口に向けて急に大声を出した。






 「…………」



 その言葉に反応したのか、一人の孤児が姿を現した。


 『どうしたのです? 何か、いましたか?』


 『………っ!! お前………』


 『ほお……嗅ぎ付けるのが早いな。存外、鈍ってはいないようだな』



 その孤児の後ろから、姿を現した中肉中背の男。





 ハーメルンはその男を見て息を飲み、その男はハーメルンを見て何か感心した様子だった。


 




 『久しいな、元同胞よ』


 『あぁ久しいな。ナイン』






 探していた標的(メインターゲット)、魔族、ナイン・オブライエン・サー・メビウス。




 その男が、三人の前に姿を現した。

廃れた教会に差し込む光というのは個人的には好きな描写だったりします。

こう、なんていうか……いいよね。

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