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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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仲間のお話。

後半、シリアス。

 「あーくっそ………頭痛い……フィリル、薬かなんかないか?」


 「ただいまお持ちします」


 「あぁ頼む。そんで、どうしてこうなったか、だったよな姉御」


 「だから姉御と……まぁいい。そうだ、お前ほどの手練れがここまで追い込まれるような相手など簡単に想像できん。覚えている限りのことを話してくれ」


 「分かってる。ただどうにも記憶がおぼろげでな、断片的にしか覚えてないが勘弁してくれよ」


 包帯でグルグル巻きにされている病み上がり勇者ハイラインにグリムが尋ねる、本来ならば全員来るはずだったがこんな異常事態に全員が一か所に固まるのは良くないとのことでグリムの他には響とリナリアそしてハーメルンが連れてこられた。



 


 ハイラインの言葉によれば、ハーメルンを『元』同僚と書いたあの手紙の差出人と会うためにスラム街のような場所へと一人で向かったところその差出人と対峙し、気づいたら城へと運び込まれていたという実に簡単で実に理解に困る内容だった。



 その種族を代表する戦士の証である『勇者』という称号を貰いうけたハイラインがそう簡単に負けるとは思えない、しかもタイマン勝負でだ。

 増援が来て集団戦になったのならば敗色が濃くなっても仕方がないとは思うがハイライン本人の口から言わしてみれば他の援軍の気配はしなかったという。



 『……君を倒したのは魔王軍幹部の人間で間違いない』


 「んなこと俺にだってわかってる。自惚れじゃねえけどよ、そう簡単に俺は負けねぇ」


 『そんなことは私だって重々承知している。それに、お前を倒すほどの戦闘能力を持つ相手を私は知っている』


 「だったら早く教えてくれ。クラウン・ハーメルン」


 

 無残に負けてイライラしているのか言い方が少し高圧的になってしまうハイラインに僅かながら嫌な気分になるハーメルンだがぐっとこらえて一つ息を吐いた。




 『ナイン・オブライエン・サー・メビウス。魔王軍幹部の一人で、こと近接戦なら他の幹部たちでも勝てない』




 そのハーメルンの言葉に、部屋は不気味な沈黙が流れた。







 「………本当か? それは」


 たまらず、グリムが沈黙を破る。ハーメルンはそれにただ黙って首を縦に振ることしか出来なかった。


 『正直、私たちもあいつのことはあまりよく思っていない。気分屋過ぎるんだ』


 「それで? どれくらいの戦力なら勝てる?」


 「私は戦えないから」と補足してリナリアが問いかけるたがハーメルンは口に手を当ててしばし長考して再び黙った。勇者一人分の火力では足りないということは現状のハイラインの姿を見れば全員分かっているため次に発せられるハーメルンの言葉はかなり重要になってくる。


 『………恐らく、私を倒した時のヒビキならばあるいは。近接戦ならば可能性はもっと下がるが、アズサやセイヤも戦力の内に入れてもいいと思う。あの子たちは年齢に見合わないくらいに直感的に戦っている』


 「俺と、あいつらが……?」


 「ふむ。確かに、妥当かも知れないな」


 「グリムさんまで……」


 自分たちが戦力の一人に数えられていることに驚く響。

 獣族の勇者をあっさりと瀕死の状態に追い込んだやつを倒せる戦力を持っているとはあまり実感できていなかった上にグリムまで賛同するなんてことも思っていなかった。


 それに接近戦が馬鹿みたいに強い相手に接近戦で低い可能性ながらも戦えると言われた幼馴染二人に対しても最近はともに戦うことがあまりなかったので今あの二人がどのくらい強いのかも正直想像つかなかった。特別訓練の時だって、あの時は響も影山も全くと言っていいほど本気を出していなかった。



 『それに、あの女の子もいることだしな』



 ハーメルンはちらりと響の方を見ながら同意を求めるような空気を出した。

 そして再び響の心臓部が光り椿が顕現した。


 「呼んだかえ?」


 「せめて一声かけてから出てきてくれないか」


 「おおすまんのヒビキ、一回出たらもういいかなって思っての」


 「適当だな神様」


 「そんなものじゃよ。して、何用じゃ? そこの……仮面っ子」


 『もしかしなくても私のことかそれは?』


 「お主じゃなかったか? あのへんてこな仮面を付けておったのは」


 『へんてこって失礼ですねぇ! ていうかいつそんなの知ったんですか!』


 「こやつがお主と戦った時じゃ。あの王城戦の時の」


 『あんな前からいたんですか!?』


 今までにない驚き方をするハーメルンに「ほっほっほ」と愉快そうに笑う椿、その姿は神族の余裕というかなんというか。


 


 ひとまず事件の事も聞けたことなのでこの場はあまり長居してもハイラインに悪いと思い響たちは一時退出してまた容体が良くなってきたようだったら本格的にその魔王軍幹部を相手にすることを想定して動き始めるということになった。











 そしてその日の夜、響はハーメルンに呼び出されて獣王城の中庭に来ていた。


 「どうしたんだ? こんな時間に、しかも俺に用だなんて」


 『……頼みがある』


 「頼み?」


 『あの不可視の魔法を教えてくれないか。それと、私を倒した時のあの異常な力も』


 それは、ハーメルンからの直々の魔法のお願いだった。


 「……教えるのは別にいいけど、あの時の力は、俺もよく分からないんだ」


 「ならば妾が教えようか?」



 二人の会話に、いつの間にか背後から椿が高下駄をカランカラン鳴らしながら加わってきた。



 「神族の特性上、そうやって出るのも出来るのか」


 『神族………なるほど、空想上の種族だと思っていたが、存在していたとは』


 「元々、表に出るような種族ではないからのぅ。まぁ妾が教えるのは、お主がヒビキに勝てたらの話じゃがな」



 椿はそう言っていきなり響とハーメルンが戦うことをさらりと決定させた。響はなんでそうなるのかと問いただしたがハーメルンの方はどうやらやる気になっているらしく、響は不本意ながらも戦闘態勢を取った。






 結果としては、一度ハーメルンイ勝っている響が適合能力をフル活用した上に転移魔法と梓や影山のような近接戦を織り交ぜた高速戦闘でほぼ一方的に倒してしまった。


 ハーメルンは能力で響にエラーを起こさせようとしていたが不思議と響は今自分が能力にかかっているかどうかが分かったため冷静に対処していった。

 


 きっと、椿とのあのお茶会による魔力の高まりによるものだろう。


 「そこまで、じゃの」


 『ハァ…………ハァ………くそ………』


 ハーメルンは仰向けになって右腕をちょうど目が隠れるように置いていた、その時の声は何処か泣いているようにも感じられた。


 『やっぱり強いな……あの時とは比べ物にならないくらいに』


 「妾がついておるからの」


 「……ハーメルン、いきなり、どうしたんだ、本当に」


 ハーメルンほどではないにしても少し息を切らした響が寝そべっているハーメルンにどうしても気になってそう聞いた。


 

 『罪滅ぼし……みたいなものだよ』


 「罪滅ぼし?」


 『私は元々敵だ………ならば、その敵が引き金となって今の仲間が危機にさらされているなら、私が戦うのが当然の報いだ。通常なら、もう私はとっくの昔に、殺されていたからな』







 どうやら、ハーメルンは何処か責任感を感じていたようだった。


 元々響たちの敵として立ちはだかりアリアを瀕死の状態まで追い込んだ張本人であり大罪人の身である自分が、どういうわけか今こうして生かしてもらってさらには勇者パーティーに「仲間」として迎え入れられている。



 そして今、自分が原因で、自分を「仲間」と言ってくれている仲間たちが危機に瀕しているのなら、その責任は自分が取る、そういう覚悟のもと、響に魔法を教わりに来たらしい。



 『ダメだよなぁ……私……今となっちゃ、もうお前の足元にも及ばない、それなのに、それなのに………唯一あいつのことを知っている私があいつの動向を察知できなかった……』


 「ハーメルン………」



 


 嗚咽交じりに、もはや自分が原因ですらないナインの動向についても責任を感じているハーメルン。




 響は、そんなハーメルンのもとへ歩み寄り、しゃがみ、手を差し伸べた。



 「そんなことねぇよ。背負いこみすぎなんだよ、お前は」


 『ヒビキ……』


 「そもそも、ナインってやつが獣王大陸に来たのだって、別にお前の所為じゃないだろ? それに一々動向を予測して未然に防ぐなんて端から無理な話なんだよ」


 『だって、だって!!』


 「だっても何もあるか!」


 



 響は強引にハーメルンの手を引っ張り、ぐいっと自分の前へ引き寄せた。



 「俺たちは仲間なんだろ? だったら、好きに頼ってくれていいんだよ」


 『っ……!』


 「そりゃぁあの時は殺してやろうかと思ったよ、でも、今は違う。俺も、お前のことは仲間だと思ってるし、その仲間が困っているなら助けてやりたいんだ」



 『いいのか………? 頼っても……? お前たちと、戦って、敵だった、この、私が……!』


 「良いに決まってる」


 『………優しいんだな、お前は…………』












 それからハーメルンは、次第に感情が決壊し、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくった。



 ただひたすらに、『ありがとう……!』と言って。




 

 「感動的なところ悪いのじゃが、その状態を続けるのなら場所を変えた方が良いぞ。こっちへ人の来る気配がする」


 そう言い残して、椿は消えた。





 二人は部屋へ戻るために立ち上がって、ハーメルンは涙を拭った。



 「戻るか」


 『そうしよう、すまなかったな、いきなり』


 「気にするなよ、仲間だろ」






 響がそう言って部屋に戻ろうとした時、ハーメルンがぼそりと呟いた。






 『お前が、あの二人に惚れられている理由が分かった気がするよ』と。








 「ん? なんか言ったか?」


 『何でもない、さぁ、戻ろう』




 二人は、夜の中庭から部屋へ、ゆっくりと戻っていった。







 とある新月の日の夜のことだった。

椿「後半、居づらかったのぅ……」

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