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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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本領発揮のお話。

そろそろ、妾の出番かのぅ……

 響たちが王族たちと会合をしている頃、獣王城は騒然としていた。


 「回復魔法使える人たちを急いで集めて! 初級でも問題ないから、出来るだけ大勢!」


 フィリルの指示によって回復魔法を扱える者たちを集めていた、そしてその魔法使いたちはとある一室に集められ一人の人物に回復魔法をこれでもかとかけていた。





 ハイライン・オーヴェール。




 獣族きっての戦士は現在瀕死の状態で医療室に運び込まれ国中の回復魔法の使い手たちに回復魔法をかけられても意識不明の重体から抜け出せないでいた。


 「ダメです! 全然回復しません!」


 「そんな馬鹿な! 緋級魔法だってかけているんでしょう!? なんでこんな時に………」


 フィリルは暗い知らせを聞いて唇を血が滲むくらいに噛みしめた。一体どうして回復しないのか、そもそもハイラインをここまで追い詰めたほどの手練れとはいったい誰なのか、様々な考えがフィリルの頭の中を駆け巡るが落ち着きのない今の心境では思考が乱れてまともに考えられそうもない。






 と、そこへ一人のメイドがフィリルのもとへと駆けてきた。


 「メイド長! グリム様たちが帰ってきました!」


 「すぐに全員呼んで!」


 困り果てているところへグリムたちが救世主よろしく獣王城に帰還した、すぐさまメイドがグリムたちに事情を告げてフィリルたちのところへと案内した。


 「皆さま! すぐに来てください!」


 「どうした? そんなに慌てて」


 「ハイライン様が瀕死の状態で、いくら回復魔法を施しても回復しないのです!」


 「なに?」


 ハイラインのもとへ着いたグリムたちは総出で回復魔法をハイラインにかけ始めた。


 「……? おかしい、回復していく気配がない」


 ぽつりと、グリムがそう呟く。


 「確かに……何でしょうか、この感覚」


 その奇妙な感覚は同じく回復魔法をかけている響にも感じ取ることが出来た、言葉ではうまく喩えられないが、言葉のままに「回復していく気配がまるで感じられない」。



 「代わろう」



 響たちが手間取っているところへ満を持してリナリアが自ら手を施した、女神であるリナリアが直接手を施すのであればもう心配はいらないだろう、誰もが安堵の感情に包まれていた。






 しかし、





 「…………」


 

 リナリアの表情は曇るばかりだった。


 「リナリア、どう?」


 たまらず響は心配になりリナリアに問う。



 「ダメだ。原因が分からない」



 リナリアの口から出た答えは「原因不明」の四文字で片づけられる絶望の言葉だった、その言葉を聞いて全員が黙ってしまう、それもそうだ、魔族の管理を担う女神の人柱であるリナリアが解決できない問題をここにいる誰が解決できるだろうか。









 「(ヒビキよ、妾が表に出る)」







 その時、響の頭の中に椿の声が響いた。



 「(大丈夫なのか? 正体明かしても……)」


 「(構わん。それにヒビキよ、回復魔法を施した時の感覚、妾に説明してくれんかの)」


 「(ああ……なんていうか、上手く喩えられないけど底の開いたグラスに永遠水を注いでいる感じがして……)」


 「(ふむ………なるほどの。ならば妾の出番じゃな)」



 椿は自信ありげにそう響との会話を終えると、突然響の心臓部の辺りが淡く光り輝いた。


 「うわ」


 「響、大丈夫? なにこの光……」


 驚く響を梓が心配する。梓のみならずこの場にいる全員が響に視線を集めて驚愕の表情を浮かべてざわざわとしている、やがてその光は響の体から抜け出して数歩先の空中でとどまりさらに強い光を発した。




 全員がその光の強さの前に目を瞑る。



 そして目を開けると響の前には赤と黒の着物を着て高下駄を履いた小柄な黒髪の少女が立っていた。




 「久方ぶりじゃのう……表に出るのは」



 

 概念としてではなく、実体として、「神族」である椿が顕現していた。


 「何を驚いておるのじゃヒビキ、先ほどまで話していたというのに。おっ、アリア、元気そうじゃの」


 「……あぁ、おかげさまでね」


 何もおかしなことはない。

 まるで初めからそうだったと思わせるような口ぶりで普通にアリアや響と会話する椿に他の面々は目を真ん丸にさせて黙ってしまっている。


 きっとこの異常な状況に理解が追い付いていないんだろう。強いて言うならばずっと意識不明のハイラインだけが変わらずに横たわっているくらいだ。


 「さてと、いっちょやってみるかの」



 そんな周りのことなど露知らず椿はハイラインの体の上に手をかざした。




 すると、さっきのリナリアをも上回る魔力を秘めた魔方陣を展開させた。その質は全員が手に取るように分かるもので鳥肌が収まらないほどだった。もしこれを直接浴びせられたのならばきっと理解する前に気を失ってしまうだろう、それほどまでに椿の魔力の質は桁違いだった。


 「……なるほど、大体わかったぞ」


 「本当か?」


 「ヒビキよ、お主に禁術を教えたのは誰だと思うとるんじゃ」


 「それ、言っちゃっていいのか……?」


 「あ」


 

 椿の大胆告白にまたしても注目が響の集まる、が、流石に理解が追い付かないらしく誰も何も聞いてこなかった。



 「ほほほ、まぁ気にするでない」


 「それで? 原因はなんなんだい? もったいぶらないで教えておくれよ椿」


 なんとか理解の追いついていて尚且つ響以外に椿と面識のあるアリアがそう言った。椿は一つ咳払いをしてこう続けた。


 「結論から言うと、これは禁術の一種じゃ」


 「禁術……」


 「そうじゃ。この禁術は一切の回復や補助の魔法を無効化する効果を相手に付けるものでの。これをやられると自然には消えん」


 「消せるのか? 椿」


 「愚問を言うでないぞヒビキよ。こいつをかけた奴は恐らく覚えたてで発動させたんじゃろ、さほど強くはない。余裕じゃ」


 そう言って椿はまた違う魔方陣を発動させた、その魔方陣はゆっくりと降下して縮小しハイラインの体の中に入っていった。







 「ごはっ……! げほっげほっ!」


 




 するとすぐさまハイラインが意識を取り戻し咳き込んで寝ていたベッドから起き上がった。




 「ほれ、これでいいじゃろ?」




 そう言って椿はまた光になり響の中へと戻っていった。


 「(ついでに回復もさせといたぞ)」


 椿はそう付け足して会話を終えた。


 「っつう……あ? いつの間に帰ってたんだぁ? 俺は」


 「ハイライン様、ご無事で何よりです」


 寝起きでまだ頭がうまく働いていないのか若干意識がまだおぼろげなハイライン。





 それから響たちは一旦退室し、次に呼ばれたのは数時間後だったという。

神の名を持つ種族。

その力は、女神をも超える。

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