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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
124/221

死期のお話。

風を引いていたため更新が遅れてしまいました、申し訳ございません。

 ハーメルンのその言葉を、誰もすぐには飲み込めなかった。


 『近いうちに私は死ぬだろう』


 そんな突拍子もないことを言われても理解は困難だ、ハーメルンは手紙を読んだだけで自分の死期を察したとでもいうのだろうか。だとしたら冷静過ぎる、まるで、とうの昔に分かりきっていたみたいだった。


 「どういうことか、説明してくれ」


 最初に言葉を投げかけたのはグリムだった、グリムはどこか恐る恐るハーメルンに事の本心を問う。それでもハーメルンは顔色一つ変えずに『言葉のままだ』と、半ば諦めにも近いトーンで答えた。


 「だから、なぜお前が死ぬのだ。その手紙には何が書かれて……」


 『読めばきっと分かる……それで察しを付けてほしい』


 ハーメルンは手紙をグリムに差し出して別れの言葉のようなニュアンスで言う、グリムはハーメルンから手紙を受け取り黙読していく、すると、「これは……」と短く驚愕の声を上げた。グリムは手紙を響に無言で渡し、響はそれを読み始める。






 そこには、こう書かれていた。


 『拝啓、麗しき我が同胞よ。いや、”元”同胞といった方が正しいな、クラウン・ハーメルン。元気にしているか? 君に手紙を出すのは思い返せば初めてのことだな、そう思うと少しばかし緊張するよ。まぁ前置きはこの辺りで十分だろう裏切者よ。お前は我らが魔王イグニス様を裏切り、人族の味方などをしている、嘆かわしい、あぁ、何と嘆かわしいことか……』


 手紙の約半分はこのようなことが書かれてあり、「同胞」という表現をしているところから考えるに恐らく魔王軍幹部の者だろう。




 

 そして大事なのはここからだ。


 『……話が長くなった、本題に入ろう。此度我らは人王大陸の失敗を反省してあることをすることに決めたよ。それは、国王が勇者が騎士団が絶対に守らなければならないもの、国民を人質に取ることにした。そこで実験台になってもらうのは獣王大陸の国民だ、そうだな、あえて言うなら新人教育の一環でもある、身体能力が素で高い獣族を大人しくさせることが出来たら成功だ、きっと成功するよ。それに、きっと今頃人族の奴らは警戒心高くて色々とめんどくさそうだからね。ハーメルン、もし君がこの手紙を読んでいるなら、というか読むように細工はしてあるんだけど、こういう事態になったってことは君も我らと戦うことを覚悟しておいてよね、君は今、敵なんだから』




 と、いった感じで手紙は締めくくられていた。




 この差出人が誰かは分からないが、確実に獣王大陸を脅かそうとしていることは明白である。



 そして、ハーメルンを敵と認識していることも。

 この二つから考えるに――――


 「ハーメルンより強いの……か?」


 『悔しいが、断然強い。こと、格闘戦においては右に出るものはいないだろうな』



 響の質問に答えたハーメルンの拳は固く握りしめられており、わなわなと震えていた。


 

 「ハイライン、これはいつ送られてきたんだ?」


 「ほんの四日前だ。その前日にこれも」


 「またか……なに……『人族の勇者パーティーの中には元魔王軍幹部がいる』か。なるほど」


 『それで不信感を抱かせておいて、その手紙で私がそうだということを教えた。それで私に直接問いただそうとしたって訳か』


 「じゃああのお茶はやっぱり……」


 「申し訳ありません。私が特別に調合いたしました睡眠薬です」


 『良いメイドを持っているものだな』


 半ば皮肉的にハーメルンはフィリルを横目に見ながらそう言う。


 ハイラインたちはハーメルンに目を合わせようとせずに申し訳なさそうにしていた。だがそうしていても現状は変わらない、ひとまず、事態をあまり大きくするわけにもいかないのでこのことはこの場にいるメンバーだけの秘密ということにした。




 響たち三人はハイラインたちから他にも何かないのかと聞きあらかた聞き出したところで部屋に戻ることにした、この夜中に頭を凝らしたところで早急に解決策が出るわけでもないため大人しくその夜は眠ることに決めた。

 だが三人は頭からこの強烈な出来事が中々離れずしばらく寝付くことが出来なかった。




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 翌朝、ぐっすり寝た他のメンバーよりも三人は目の下にクマが出来ていた。梓やアリアに「どうしたのか」と聞かれたが響はただの寝不足だと嘘半分真実半分の答えを返した。梓はその答えを聞いて響を茶化していたがアリアは「また何かあるんだろうな……」といった感じの表情を浮かべていた。


 「みんな聞いてくれ、今後の予定を話す」


 グリムの言葉で皆はそちらへと体を向けて私語を辞める。


 「まず今日だが、王族の方々との会合がある。基本は私が受け答えするが、指名が入った時は自分たちで答えてくれ、くれぐれも印象を悪くしたりすることのないように。明日からはしばらく魔物の討伐の仕事が入っている、近頃魔物たちが活性化しているとの話があるため魔王軍との関連も視野に入れてのことだ。それから……ハーメルン」


 『なにか?』


 「しばらくは私と組め」


 『行動を共にするってことか?』


 「それ以外に何がある」


 『いや、なんとなく聞いただけだよ。分かった』


 しばらくグリムはハーメルンにお前をパートナーに置くと伝えたところで朝の小会議は終了した。そしてその日は予定通り獣族の王族たちとの長ったらしいお話の場へと向かうこととなった。

 魔物討伐とはまた違った精神的疲労、基本的な受け答えはグリムがやってくれたがそれで満足しないのが王族たちだ。まだまだ年齢的に若い響たちに対して王族たちは興味津々で初めて獣王大陸に着た時にもしたような頭が痛くなるようなくどい自慢と自分たちの子供たちの優秀さを恥ずかしくないのかと疑いたくなるくらいに話して口説いていたが正直苦笑いしか出なかった。
















 その間、ハイラインはとある人物に会うために獣王大陸の所謂スラム街的な場所に訪れていた。正体がばれないようにフード付きのローブを着てなるべくそこに住んでいる人たちと目線を合わせないようにする。


 「(相変わらず……酷いところだ……)」


 ハイラインはその環境の劣悪さを痛感していた、勇者という立場にありながら、このような辺境のところに目を向けられていない現状に嫌気がさしていた。




 と、そんな時、ハイラインは目的の人物と遭遇した。


 「おい」


 その人物は真っ黒くて長いローブを羽織り、ドラム缶の上に腰かけていた。


 「この手紙を俺に出したの、お前だな」


 『………』


 「なんか言えって――――」


 『ハイライン・オーヴェール』


 酷く歪んだその声は、声の歪こそミスズやハーメルン、グランと似た感じだったがその全てともまた違った歪み方だった。




 だがその声の質は確実に魔族のものだった。





 「やっぱりお前か。何者だ? こんなとこに呼び出しやがって………爺のとこに手紙寄越したのもお前なんだろ、国民を人質に取るとか、頭おかしいんじゃねぇのか」


 『おかしいのは元からだよ。それにそんなに質問しないでくれ、まぁ全てその通りだが』


 「てめぇ……」


 「そう権幕を立てるなよ。今日は話をしに来ただけだ』





 



 生温い風が二人の体を撫でる、そして、ピリピリした空気の中、殺伐とした「話し合い」が始まった。


















 そしてその日、響たちが返ってきた時には、ハイラインは深手を負った状態で帰還し複数の回復魔法をかけられていた。

おや……?

雲行きが……

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