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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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秘密のお話。

後半、少しシリアスパートです。

そうなってれば、嬉しいな。

 ハイラインが扉を開ける直前、寸でのところで転移に成功していた響は獣王城の廊下の角に避難していた。



 「どういうことだ……なんであの事を……」


 

 ハイラインと獣族の国王通称獣王が話していた内容が何度も脳内でリピート再生されていた、響は辺りをキョロキョロと見て誰もいないことを確認して一つ深呼吸をして心を落ち着かせた。


 「ひとまずハーメルンに知らせるか……? いや、それよりもまずはグリムさんに相談するか……ハイラインに気付かれないように慎重に……」


 「どうなされましたか?」


 「ひいぃ!?」


 ブツブツと一人でこれからどうするかを考えていたところに何の気配もなくフィリルがタオルや衣類をもって響を見ながらきょとんとしていた。


 「何かありましたか?」


 「あぁ、フィリルさん……いえ、なんでもありません」


 「そうですか。もしお困りでしたら遠慮なく申してくださいね」


 「ありがとうございます、洗濯物ですか?」


 「はい。丁度干し終えたところですので運びに」


 「手伝いましょうか?」


 「お気持ちだけ頂戴します。それほど多くもありませんので」


 「そうですか」


 「はい。では、失礼します」


 フィリルは響に一礼してすたすたと綺麗な姿勢で歩いていった。響は汗をかいているわけではないが額を拭ってまた当てもなく移動し始めた。


 


 大体城の中を見終えた響は再びフランとマリアが稽古している中庭へと向かった、するとマリアがいるのは変わらなかったが今度はフランではなくハーメルンになっていた。


 「ヒビキ! もう散策は済んだんですの?」


 「一通りね。まだ稽古してたの?」


 「はい! 私も早く、戦えるようになりたいですので!」


 「熱心だね」


 『結構根性あるよマリアは。晩成型とでも言っておこうか』


 「フランさんから変わったのか」


 『彼女は図書館に行くとかって言ってたね、それでたまたまここに出たらマリアが自主訓練してるところに出くわしてこの状況だ』


 

 マリアはいつも魔導学院の制服を着ており、こうやって稽古する時は制服の下に着ているワイシャツとスカートそれからスパッツを履いた格好で稽古している。




 そのため今のマリアはワイシャツの袖をまくってボタンを二つほど外し、汗だくになっている。そして汗によって幾分かワイシャツが透けているので端的に言って目のやり場に困る。

 しかも動いていたからかいつもの巻き髪が乱れて形が崩れ、ウェーブのかかった長髪になっている。



 ハァハァとと息を切らしながら汗を拭ってこちらを見るその姿をセリアが来たらきっと語彙力を失う程度には興奮しているだろう。


 なんてことを考えながら、響はハーメルンの方を見る。


 『なんだ?』


 「あ、いや、何でもない」


 『そうか。なんならお前も一緒にやるか、教えるのは多い方が良い』


 「あぁそうだな」



 

 王室から聞こえたあの話を、響はハーメルンに言った方が良いのか、本人を目の前にして迷っていた。だが何の考えも根拠も証拠もなしに発言するのはいささか軽率過ぎる上にマリアが一生懸命頑張っているこの状況で水を差すようにして言うのは野暮というものだ。


 「やっぱりグリムさんに相談してから慎重に行動しよう」と響は考えをまとめてマリアと同じく袖をまくって稽古相手になることにした。




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 その夜、王室にて。






 「………本当に、これでいいのか? 国王」


 「仕方がない。こうでもしなければ国民たちが巻き込まれてしまう」


 「だからって、あいつが約束を守る保証はねぇだろうが!! もし破られたら―――」


 「それでも可能性がある方に賭けるのが得策じゃろう!!! 可能性が低いのと、その可能性すら全て無くなるのと、どっちがいい!」


 「……ちっ………最悪、姉御たちとやり合わなきゃいけねぇってのか」


 「かも知れんのぅ」




 コンコン………




 「失礼します」


 「フィリルか……首尾はどんな感じだ?」


 「今頃、ぐっすり眠っているはずです。近くで爆発が起こっても目覚めないかと思います」


 「相変わらず重宝するぞフィリル、薬剤調合の腕は衰えてはおらんな」


 「感謝します国王。して私はこの後いかように?」


 「後は我々がやる、お前はもう休むとよい」


 「かしこまりました。では、私はこれで。お休みなさいませ、ハイライン様、国王」


 


 

 ギイィ……バタン……




 「んじゃ俺も行ってくるぜ。この年になって、こんなことをやるとはな」


 「すまない……儂がもう少し国王としてしっかりしておれば……」


 「気にすんなっての爺さん。俺とあんたの仲だろ、心配しなくてもちゃんとやるよ。これでもこの獣族を背負って立つ勇者様だからな」




 ガチャ……ギイィ……バタン……







 ハイラインは響たちが泊まっている大部屋のドアの前に立って一つ深呼吸をすると覚悟を決めたように自分の頬をパチンと叩くと、念のため音を立てないように慎重に部屋の扉を開けた。



 「………どういうことだぁこれは」


 『どういうこととは? 見たままだと思いますがねぇ?』


 「こいつ……」


 扉を開けると目の前には仮面を被ったハーメルンがいた。部屋は電気を消しておりカーテンを全開にして窓も少し開いている、月の光がハーメルンをちょうど逆光で映す形になり窓から吹く風がカーテンを揺らしている、その姿はただの強キャラそのものだった。


 「……扉の後ろにいるのは姉御とちび助か」


 ハイラインのその言葉通り、扉の陰から現れたのはグリムと響の二人だった。

 二人は何も言わずにハーメルンの両サイドに立った、王都戦の時にリナリアがかけてくれたものと同じローブを三人とも着用しており、さながら暗殺者アサシンのようでもあった。




 「やっぱりあの時、聞かれてたかー……」


 「ヒビキから直接相談を受けてな。それとあのメイドが運んでくれたお茶に何やら細工が施していたみたいだな、ハーメルンが見破った」


 『私が止める前に飲んでしまった方たちは、こうしてぐっすりと眠っていますがね。なかなかに強力な睡眠薬だ』




 ハーメルンがくるりと後ろを向いた先にはベッドで熟睡している他のメンバーがいた。




 「どういうわけか説明してもらおう。私たちは共に戦う仲間だ、何か協力できることがあれば力は惜しまない」


 「…………降参だ、打開策がすぐに思いつかん」


 『おや、てっきり戦う羽目になるかと思いましたが』


 「分が悪すぎる。人質でも取りゃあ話は別だが、そうするとこれからのことに亀裂が入る、それだけは避けなきゃならねぇ」


 「殊勝な考えだなハイライン」


 「そりゃあどうも、爺のとこに連れて行く、来い」






 四人は王室の手前までくると、合わせるようにしてフィリルも現れた。フィリルは一瞬驚いた顔をしたかと思うとすぐにいつも通りの澄まし顔に戻り事の経緯を察したらしかった。



 五人は揃って王室に入る、獣王は一つため息を吐いて「やはりか……」といった表情を浮かべた。ハイラインは獣王に経緯を話そうとしたが獣王は「言わんとも大体わかった」と言って言葉を聞かなかった。




 獣王は懐から一通の手紙を取り出してグリムではなくハーメルンに渡した、ハーメルンはその手紙を広げてみるや否や『そうか、そういうことか』と呟いた。


 「二人とも、聞いてほしい」


 ハーメルンはグリムと響の方へと振り向き、仮面を外してこう言った。













 『もしかしたら、私は近日中に死ぬかもしれない』と。

もう少し、獣族編は続きます。

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