表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
117/221

ギャップ萌えのお話。

ギャップ萌え

それは人によっては即死級の威力を誇る一撃必殺の攻撃である。

 アキレアの穴だらけの計画に苦しめられている者たちとそうでない者たちが分かれてきた二日目の朝、梓とアリアはどこよりもこの訓練を満喫していた。。



 その理由は、




 「いやぁー! よく寝たぁ!」


 「ですねっ! 私たちくらいなんじゃないですか? まだ一回も戦闘していないところなんて」


 「そうかもね、まさか向こうもこうなるとは予想外だったんじゃないかな」




 二人の転移した場所が、ちょうど宿屋の近くだったというわけだ。


 アキレアの施した魔方陣の術式は完全なランダム転移のため響たちはもとより同じ学院の獣族の生徒たちですらどこに転移するか分からないというお粗末なもの。



 二人が転移したのは獣王大陸の中でも観光地とされているような場所で宿屋は勿論土産屋なども充実している。そのため山や湖にいる響たちとは違ってお金さえ払えば食べ物も寝床もなんならお風呂だってあるというこの訓練の趣旨と真逆のようなところにいる二人は一階も戦闘することなく二日目を迎えているのだ。


 「今日はどうする? 僕としては外に出て観光するっていうのもありだと思うけど」


 「いいですね! 昨日はあまりそういうの出来ませんでしたし」


 「まだ宿ここを出るまで時間もあるし、もう少し休んでこう。下手に出てばったり出会った生徒と戦闘、なんてことになったらめんどくさいからね」


 「私は別にそれでもいいですけどね」


 なんて会話をしながら二人は俗に言うチェックアウトの時間まで宿で休むことにした。




 正午になり宿を出て街を観光するという今回の趣旨とはかけ離れた暴挙に出る二人。そしてこの場所はかなりのレアな場所のようで獣族の学院生を一人も見かけない。


 「ほんとに誰もいないな。お昼食べたら温泉にでも行こうかな……」


 「いいですねそれ」


 二人が散策しているとアリアが何かを見つけた。


 「ん……?」


 アリアは目を凝らして見てみたがその何かはすぐに家の陰に隠れてしまいよく確認できなかった。アリアは梓に少し待ってもらうように頼むと一人その何かを見つけた方へと走っていった。









 アリアはすぐに戻ってきたが何やら人数が二人増えていた。


 『いきなりなんだ……』


 「いいからいいから!」


 「リナリアちゃん! それにハーメルンも!」


 「やっほー」


 アリアは戻ってきたかと思いきやハーメルンとリナリアの二人を連れてきた、梓はまさか出会えると思っておらずテンションが上がっていたがハーメルンはいきなりのことでどこか嫌そうだった。


 「奇遇だね二人とも、結構世間は狭かったみたいだ」


 「二人は何してたの? 観光?」


 「まぁね、折角だから親睦会ついでにハーメルンと羽目外してた」


 『……洒落のつもりか?』


 「ばれたかー」


 ゆるーい雰囲気の会話を続けるリナリアとハーメルン、二人もどうやらまだ一回も戦闘をしていないようで今の今までただの旅行になっていたようだ。


 四人は固まっていた方が何かといいので四人で街巡りをすることにして近くの食事処で昼食を済ませることにした。



 「いらっしゃいませー、こちらへどうぞー」



 お店の人に案内されてテーブル席へと案内された四人、他のお客さんを見ると風貌や武器から察するに大半が冒険者の人たちだと容易に想像がつく。四人はそれぞれ食事と飲み物を頼むとしばしの談笑時間へと移行した。




 今回の議題は、ハーメルンの仮面有りの時と仮面無しの時のキャラ変化についてだ。




 『別にそのことはいいだろうに……』


 「いや、かなりの変わりようだよ。僕も最初は驚いたし!」


 「そうそう。ほら、マリアちゃんの家で最初会った時は男の人かと思ってたし」


 『……そんなにか?』


 「まぁ今はどっちかっていうとアリアと似てきてるよねー」



 などと話しているところで料理が運ばれてきて四人は食べ始める。




 すると、


 「ねぇハーメルン」


 『なんだ?』


 「ちょっと可愛いことしてよ」


 『ぶっ!!?』


 アリアの唐突なその一言で啜っていた麺料理で咽てしまうハーメルン。


 『なっ……! 何言ってるんだお前ぇ!?』


 「ハーメルンってさ、こういう慌てる時可愛いよね」


 「アズサに同意する」


 『リ、リナリア様……あなたもですか……』


 「今まで様付けてたか……?」


 またしてもアリアのいきなりの無茶ぶりに我を失いキャラ設定も見失うハーメルンだが周りにいるのは自分の可愛いこと、つまりは恥ずかしいところを見たい人間だけ。


 「頼むよ」


 「頼む」


 「頼んます」


 『なんでこんな時だけ息ピッタリなんだよ!』



 食事処で一体何をしているんだろうかという話ではあるがそこは一先ず置いておいて。




 徹底的に抵抗するハーメルンだが相手は三人、そしてハーメルンは響にグランを拷問させないでほしいと頼んだりと、魔王軍幹部なんて職業についていたにはかなり情に厚い人物である。




 事実、抵抗している心の内では『ちょっとくらいなら……』と密かに思ってしまっているのだ。





 


 


 『道化師』クラウン・ハーメルン。

 その昔、魔王軍の中では仮面をつけていた時の敵キャラとしての威厳と仮面を外した時の乙女のような恥じらいのある可愛らしい姿から密かにこう呼ばれていた。








 ギャップ萌えのハーメルン姫、と。








 勿論本人はこのことを知る由もなく、現在三人の茶化し交じりの懇願によってついぞ陥落しようとしていた。


 『い……一回だけ………なら……いいぞ……?』


 その言葉を逃さずにアリアはすぐに命令を実行させようとしたが冗談のつもりで言っていたためいざ実行させようとなるとすぐに思いつかない。




 だがまだ梓と悪乗り女神リナリアがバックに控えている。



 二人はあれやこれやと言いながら結果としてこうハーメルンに指示した。


 「まず両手を頭の上にのせて軽く手の平を曲げる感じで……」


 『こ、こうか……?』


 「そしてその体勢のまま上目遣いになるように……」


 『こんな感じですか?』


 「そしてそのまま『にゃん!』」

 「そしてそのまま『にゃん!』」


 梓とリナリアは息ピッタリでハーメルンに最後の指示を下した。



 ハーメルンは覚悟を決めたように一度深呼吸をした。






 『にゃ………にゃん!!!』























 それは、可愛いと形容するにはあまりにも破壊力が大きく、どうしようもないものだった。




 ならばどう喩えようか。




 三人の考えは奇しくも………いや、必然というべきか考えていたこと、今のハーメルンの仕草を見て完全に一致した。







 あぁ……これがギャップ萌えか、と。








 ある意味どんな戦闘よりも大きなダメージを食らった三人は他行感に酔いしれたまま目を閉じてほんの数秒前のことを瞼の裏で何度もリピートしていた。





 獣王大陸、昼下がりの出来事だった。

ハーメルンはいじられキャラ。

これに考え着いたのは100話到達よりも前のことでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ