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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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箱入り娘のお話。

マリアとセリアはこの作品の良心

 「マリアっ! 避けろ!」




 フランの叫びはマリアに確かに届いていた、無論マリアもその指示通りに言われなくても動くつもりだった。



 だが出来なかった。



 眼前に迫るソルの鋭い一撃が来るまでの一秒にも満たないほんの僅かな時間、マリアは悠久の時を過ごしていた。



 勿論本当にそんな時間を過ごしているわけではない、比喩だ。それでもマリアにとってはそれは比喩ではなく直喩に等しいものだったのだ。



 「(あぁ………やはりわたくしは………凡人なのですね………)」


 マリアは走馬灯のように自らの力の無さを呪い、悔い、恨んだ。

 

 「(フォートレス家の人間といっても、所詮私はスキルもありませんし魔法に秀でている訳でもない……)」



 そう、マリアは生まれこそ人王大陸でもトップクラスで上位に属するほどの名家の出だが特別何か才能に秀でているわけではない。優秀ではあるがそれはあくまで普通の人間としての話、転生者である響たちやスキルを持って生まれたアリアたちのような特別な才能に恵まれた者たちには、敵わない。善戦こそすれど、勝てるかどうかと言われればまた別の話。



 「(セリア……ごめんなさい。あなたの主人はダメダメな人間でしたわ………)」


 マリアは最後にセリアのことを思い出した。



 

 きっと彼女は今、人王大陸で騎士団員として精を出していることだろう。汗水たらして戦いに明け暮れマリアの付き人や貴族の出身なんてのが一切役に立たない実力主義の世界で。



 

 「(セリア………あなたが見たらきっと馬鹿にされてしまいますわね………)」




 そしてマリアにソルの一撃が届こうとしたその時、







 「お嬢様っ!! 何やってんですか!!! しっかりしてください!!!!」



 




 










 「……………馬鹿な」


 「間一髪………でしたわ」





 両手で槍を構えその体勢のまま繰り出されたその素早く正確な一撃。




 マリアはその槍の刃先を右手で、柄の部分を左手でがっしりと掴んだ。

 左手はソルの両手の間に来る位置に血管が浮かぶほど力強く握りしめられており刃先を掴んでいる右手からはポタポタと血が滴り落ちていた。


 「やっぱり私はダメダメですわ……」


 「……? 何を言っているので――――」


 「付き人に叱責されないと、諦めそうになっちゃうなんて!」


 マリアは左手を一気に手繰り寄せてソルをこちらへと引き寄せ、ソルの一瞬の隙をついて強烈な頭突きをかました。



 ゴチッ!

 という聞いただけで痛くなりそうな鈍い音が鳴り、ソルは後ろにのけ反ってしまった。


 「フランさん!」


 マリアの叫びによってフランはソルの後ろへと転移した。


 「しまった!」


 フランはソルが何か抵抗をする前に緋級魔法「ハイマ・グローム」を放ち拘束して動きを止めた。




 「………はぁっ」


 


 マリアは右手から血が止まっていないままその場にへたり込んで大きなため息を吐いた。


 「大丈夫?」


 「えぇ、大丈夫ですわ」


 「右手見せて」


 「いえこれくらい……」


 「何言ってるの、ほら早く」


 フランはやや強引にマリアの右手を開いて回復魔法をかけた。淡い光がマリアのまだ幼さの残る子供の手に痛々しくできた裂傷を治癒していく。


 「正直ダメかと思っちゃったよ、よく反応できたね」


 「私も、そう思います。きっと……あの子のおかげですわ」


 「あの子? いつも一緒にいたセリアちゃんのこと?」


 「ええ……一瞬だけ、本当に一瞬だけですがセリアの声が聞こえたんです。何やってるんですかって怒られてしまいました。もっとしっかりしないといけない立場なのに……」


 やがてフランの魔法でマリアの傷が完全に塞がると、マリアはすっくと立ちあがって意気揚々とフランに言った。


 「私もまだまだですわ! もっと実戦を積んで、もっと魔法を学んで、勇者パーティーの一員としての自覚を持って、あの子とまた会えた時に立派になれるように成長して見せますわ!!」


 「ふふっ! 楽しみだね、それは。期待していいのかな?」


 「勿論ですわ! フォートレス家ですので! そしてそのためには――――」



 マリアは拘束状態のソルのもとへと歩み寄って完治したばかりの右手を大きく開いてソルの方へと差し伸べるように出した。



 「そのためには、あなたの力が必要なのです! お力添えを頂けますか?」


 「私の……?」


 「今回の趣旨に乗っ取るならば、あなたに何かを教える立場なのでしょうが、まだ私にはそのような力はありません。なので、あなたが私に教えてほしいのです。どうすれば戦えるのかを」


 「……分かりました。私でよければ、いくらでもお教えします」


 「ありがとうですわ! ソルさん!」


 自分のお願いが通ってよほど嬉しかったのかマリアは戦闘後だというのに無邪気な笑顔をまるで花が咲くようにパァっと浮かべてソルに抱き着いた。


 「ちょっ…………苦し………」


 そしてフランがタイミングよくハイマ・グロームを解いたとくとソルはマリアの体重によって後ろへと傾き、そのまま地面に倒れ、構図としては仰向けのソルの上にマリアが抱き着いたようになっている。





 それから二時間ほどみっちりソルがマリアに手ほどきをし、フランがソルを教えるといった役割で戦闘訓練をし、三人で湖に入って体の汚れや汗を流して衣服もついでに湖で洗い魔法で乾かして三人一緒に川の字で就寝した。

誤字脱字や、こうすれば見やすくなるぞといったご意見などあれば教えてください。

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