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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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依頼のお話。

間が空いてしまいました、すみません。

 その日、響たちはいつになく本気で戦っていた。


 ギルドの任務も受けられず、受けたとしても上級魔物くらいしかないのでここ最近不完全燃焼だった狂戦士たちは魔力と己が技術を総動員して戦っていた。



 だが緋級魔物やその上の魔物、引いてはハーメルンやグランのような魔王軍幹部でも椿のような特殊な種族が相手ではない、獣族の魔導学院に通う学院生である。



 それがただの学院生たちであれば響たちもそう苦戦することは無かった、しかし相手にはとある最終兵器リーサルウェポンが潜んでいた。



 アキレア。


 獣王大陸魔導学院の生徒会長であり獣族の管理を司る女神が彼らにはついていた、学院生たちはアキレアをまるでジャンヌ・ダルクが味方であるかのように勝利を最初から確信しながら戦っていた。



 学院のみならず獣王大陸全土を巻き込んだ戦いの発端は、およそ四日前に遡る。



△▼△▼△▼△



 ハイラインに仕事がないから自由にしていていいと言われてから一週間後、響たちはようやく勇者パーティーとしての仕事が入り獣族のお偉いさん方と顔合わせのための会合をしていた。

 感覚としては、学校の授業で外部講師の人が延々どうでもいい話をしているあれがもっとまどろっこしくなった感じだ。


 「(ヒビキよ、こやつらはさっきから何故ぐるぐると同じような話ばかりしておるのじゃ?)」


 「(そういうことしか頭にないんだよ)」


 「(悲しいのぅ……)」


 椿は上位種族からの哀れみの目線で見ているわけではなくごくごく単純にこの程度の話しか出来ないのかと純粋に思っている。恐らく神族ほどの種族になるともはや小難しいことはあまり考えないのだろう、むしろこうして他の種族の精神の中に住んでいると言っても過言ではないこの状況でこんな会合を開こうとする方が難しい。


 会合は二時間近く続き、終わった後にはもう全員くたくたになっていた。人族の勇者という名誉ある肩書を持つグリムや超が付くほどの名家のお嬢様であるマリアはこういったことには慣れている様子だったが一般貴族である梓や平民である響たちに関しては心底疲れた顔をしていた。


 


 そんな時、ドアがノックされ獣耳付きのメイドさんが入ってきた。


 「失礼します」


 「む、どうした。客人か?」


 「流石はグリム様、ご明察です。お通ししてもよろしいでしょうか?」


 「構わん。で、相手は誰だ?」


 「こ、こんにちは……」


 メイドの陰から姿を現したのは若干怯えているような緊張しているような雰囲気の獣族の魔導学院生、ソル・リーハウンナだった。ソルはぺこりと一礼して部屋に入り響たちの前にある先ほどまで太った猫耳が付いた見るも無残な姿のおっさんが座っていた椅子に座った。


 「私、獣王大陸魔導学院の生徒でソル・リーハウンナと申します。本日は皆さんにお願いしたいことがあって参りました」


 いつもより改まった様子のソルは重々し雰囲気で話を切り出した。


 「どうせアキレアだろ? 大方、うちの生徒の強化のために付き合えっていう話なんじゃないのか?」


 ソルの話の内容を聞かずに確信を持った状態でリナリアはそう言った、リナリアは椅子の肘掛に肘をついて右こぶしを頬に付けて頭を支えながら「あー……」とため息を吐いた。


 「……流石はリナリア様、その通りでございます。本日参ったのは、我らが魔導学院生徒会長アキレアがグリム様方勇者パーティーの皆様に学院までお越しいただき、生徒たちや自らの戦闘能力の強化のために特別教官として来ていただけないかとのことです」


 「ま、そういうことだな」


 突如として聞こえた第三の声、その声の主はソルと同じように平然と扉から室内に入ってきた。


 「……やっぱり来たか」


 「なんだよ、やっぱりって」


 


 突如としてやって来たアキレアはまるでここが自分の居場所同然かのように振る舞い、リナリアの頭を抱えさせた。それからアキレアも混ぜてグリムが主に聞き手となってその依頼について詳しく聞いていくが、この空間で一人だけアキレアに対して別の興味を示している者がいた。



 「(ヒビキ。妾をあやつと戦わせろ)」



 椿だった。

 椿はいきなり心の中で響にそう語りかけ、今にも実体化しそうになっているのが不思議と響に分かった。


 「(何言ってんだいきなり)」


 「(いいから妾をあやつと戦わせろ、直感で分かるのじゃ、あやつはこの中でもかなり上位の力を持っておる)」


 「(まぁ、あの人は獣族の管理を担当している女神だからな……)」


 「(女神ぃ!? どうりで強そうなはずじゃ、こうなったら実体化してでも――――)」


 「(おいバ神様! 落ち着けって!)」


 「(誰が馬鹿じゃ! 失礼な!)」


 「おいこらヒビキ! 聞いてんのかって!」


 響が椿との会話に集中していたところにアキレアがずいっと顔を近づけてきて問いかけた、響は急にアキレアの顔が目の前にあったので「うわっ!」と情けない声を上げてしまった。


 「なんだ『うわっ』って。今お前に強化部隊の一つを任せようって話してただろ………ったく」


 「すいません、ちょっとぼーっとしてて…………って、え? 何て言いました今?」


 「だからお前に強化部隊の一つを任せようって」


 「強化部隊?」


 「はぁ……ほんとに聞いてなかったんだな」


 アキレアはため息を吐きながら響に若干早口で次のことを伝えた。

 まず今回のアキレア考案の強化計画ではいくつか部隊を作ってその部隊ごとに特訓するということになっているらしく、その部隊の一つを響に一任しようという話に今なっているらしい。


 第四部隊まで作る予定で各部隊に教官と副教官を二人ずつ設け、響は第二部隊で教官役をやってくれないかということなのだが、いまいち響はなぜ自分がそれに選ばれたのかが分からなかった。


 そこでそれをアキレアに尋ねたところ、アキレアから「貴様がこの中でトップクラスの実力を持っているからだ」とさらりと言われてしまった。



 響も決して悪くない話だと考えてその話を快諾した、ちなみに副教官役は影山になっていた。

 それから小一時間ほどしてソルとアキレアの二人は帰っていった。



△▼△▼△▼△



 そして次の日、響たちは魔導学院を訪れていた。

 正門から校舎内へと入るとソルが出迎えてくれて、案内に従ってソルの後について行くとそこにはアキレアを先頭とて大量の獣耳生徒が後ろで手を組んで綺麗に並んでいた。


 「よくぞ参られた、人族の勇者たちよ! 感謝する!」


 そして、これから長くなるであろう獣族との二度目の特訓が始まった。

獣族編第二幕

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