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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
11/221

実戦とその後のお話。

主にミリタリー関係の知識はありませんのでご了承下さい。

※全話の三点リーダーの大きさ直しました。

 「まずは自己紹介からいこうか、ヒビキ君。僕はアリア・ノーデンス。一応生徒会長を務めている者だ。よろしくね」

 「ヒビキ・アルバレストです。よろしくお願いします」



 女性……だよな?ということは僕っ子か。

 僕っ子生徒会長で目隠れって、属性多いなこの人。



 「では、後は二人でゆっくり話し合っていてください。私はこれから授業がありますので」

 「ええ、わざわざありがとうございました」



 ガチャリとドアが占められ、この一室に上級生五人と新入生という非常に気まずい状況となった。

 どうしようかと思っていると、アリアの方から話を切り出した。



 「じゃあ、立ち話もなんだし、座って話そう。今お茶を入れるよ」



 戸棚からティーパックを取り出してカップに入れお湯を注ぎ、目の前に出してくれた。

 色や香りからして紅茶のようだが、この世界にもあるんだな紅茶。

 お茶に関しては響の家にもあったから紅茶やコーヒーもあるんだとは思っていたが本当にあるとは。



 「さて、今更だけど、とりあえず入学おめでとう。噂は聞いてるよ。測定器壊したり上級魔法使ったりっていう規格外だってね」

 「あ、ありがとうございます。先輩方に比べたらまだまだです」

 「ふふっ、そう謙遜しなくても……ああそうか、そうだよね。自分以外全員上級生なら自然と緊張しちゃうよね。ごめんごめん気づかなかったよ」

 「あ、いえ、その……」



 ケラケラと笑い、軽く指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、円卓に座っていたはずの上級生たちの姿が霧となって消えた。

 まるで始めからこの部屋にいたのは、響とアリアの二人だけだったように跡形もなく。



 響の反応を見てまたケラケラと笑うアリア、一体何が起こったのだろうか。

 これも何かの魔法だったりするのだろうか、だが本にはこんな魔法載っていなかったはずだが……。



 「驚いてくれたようだね、いい反応をするじゃないかヒビキ君。いいねぇ気に入ったよ」

 「魔法……ですか?これ」

 「正確にはちょっと違う。これは魔法じゃなくてスキルの一種なのさ」

 「スキル?」



 スキルって、確かアザミから貰ったやつのことか?

 あれって女神だけが与えられるとかそういう特殊なものじゃなかったのか。



 「そう、スキル。人によっては、生まれた時から何かしらの能力が備わった状態になっていることがあるんだ。その先天的な能力のことを一般にスキルと呼ぶのさ。覚えておくといいよ」



 紅茶をすすりながら、そう答えるアリア先輩。

 なるほど、その理屈だと恐らく、適合能力はこの世界だとスキルに分類されるということなのか。

 にしてもややこしい、だが響たちも色々と生まれながらにして能力を持っているからあながち間違いではないのか。



 「僕のスキルは「人造人形ゴーレム・ファンクション」。さっき見せた通り、戦闘能力を持つゴーレムを作り出す能力だよ。一人で集団戦が出来るから結構便利なんだよね、お手伝いさんもいらないし」

 「ゴーレムって、あんな人間に近いものじゃなかった気が……」

 「だからスキルになってるのさ。限りなく人に近い人形を作り出せるから特別扱いされるんだよ」



 鼻高々に自分の能力を隠す様子もなく話すアリア。

 だが能力をそんなに大々的に言ってもいいのだろうか、むしろ手の内を明かすみたいに対策を取られたりするんじゃないか?



 「そんな簡単に言って大丈夫なものなんですか?」

 「構わないよ。むしろこの学校じゃあ結構知られちゃってるし、僕が言わなくてもいずれ知ることになっていただろうしね。遅いか早いかの違いさ」



 生徒会長という役職ならそういうことも確かにあるのだろう。

 まあ、特に可笑しなことを言っているわけでもないしな。



 「そう言えば授業の方は大丈夫なんですか? さっきフルーエン先生行っちゃいましたけど……」

 「ん? ああそれなら心配いらないよ。生徒会のメンバーは、冒険者ギルド発令の低級から中級難易度の任務を行うことで授業が免除される仕組みになっているんだ」

 「メンバーって、先輩一人だけなのでは?」

 「ハハハっ! うんまぁそうなんだけどね! 僕がこうしてゴーレムたちと一緒に全員倒しちゃってさ、気づいたら僕一人で生徒会回してるんだよ!」



 

 やべぇよこの人。




 「まあ、七回生になると否が応でも実戦の授業はやることになるから、予行演習みたいなものだよ」



 そう言えばフルーエン先生が何かそんなことを言ってたような言ってなかったような、と響は記憶を呼び起こそうとしていた。

 だが確かに流石に一度も実戦経験なしで卒業っていうのはいかんせんダメだろう。

 アリア先輩と二人で話していると、奥の机方から「ガタガタ……」と音がする。それに気づいてアリア先輩がそっちの方へ向かう。

 そして、入学式の時に学校長が使っていた拡声石と同じような鉱石らしきものを手に取り、机に一回コツンと叩くと音が止み、まるで電話のように話し始めた。



 「はい、こちら生徒会ノーデンスです……。分かりましたすぐ行きます。ええまだいますが……なるほど面白そうですね。ではそのようにします」



 もう一度机に叩きつけて引き出しの中へしまう。何かあったのだろうか。



 「何かあったんですか?」

 「ちょっと任務が入ってね、出なきゃならなくなったんだ。残念だけどお話はここまでのようだね」

 「そうですか。では失礼しました」

 「ああちょっと待ってくれ。実はさっきの通信はフルーエン先生からでね。折角だから君も連れて行ったらどうかという提案があったんだ。どうだい? 一緒に任務に出ないかい?」



 部屋から出ようとしたところを呼び止められる。

 ということは、今から実戦任務に行くから来いってことだろうか。

 そう考えると響は少しワクワクしていた。



 「いいんですか?」

 「いいもなにもこちらから提案しているんだ。むしろ来てほしかったから好都合だよ。じゃあ早速、気分が変わらないうちに行こうか」



△▼△▼△▼△



 そんな訳で響は現在、学校から少し離れた山の中にいる。

 今回の任務の内容は山の中で群れになっているロウゴブリンの討伐だ。難易度は低級で、ロウゴブリンというのはゴブリン種の中でも低下層に所属し、駆け出し冒険者が最初に戦うような魔物だ。



 「結構山の中まで行くんですね」

 「ゴブリン種の多くがこういう山に群れを作るからねー。大体は洞窟に穴掘って生活してるのさ。っと、そろそろ到着みたいだよ。さっきから呻き声が聞こえてきてる」

 「呻き声?」

 「静かに。多分気づかれてる、周りに気を配って、集中」



 アリアが声を荒げた次の瞬間、横の草むらから一匹の化物が飛び出してきた。



 「ゲエエェア!」

 「……っ!!」



 ドンッ!という鈍い音を響かせて、その化物は吹き飛んでいった。

 どうやらアリアが魔法で守ってくれたようだ。倒れた化物はつり上がった赤目に緑色の全身と、よくゲームに出てくるような見た目の如何にもなゴブリンだった。上半身裸で、腰には布を巻き、手には棍棒のようなものを持っている。



 「ぼさっとしてたら死んじゃうよ。もう囲まれてるし、魔法使えるんだから次から自分でよろしくね」

 「あ、は、はい!」



 いきなり過ぎてよく現状が呑み込めなかったが今から響が行うのは正真正銘、命のやり取りだ。

 殺るか殺られるかの真剣勝負。

 だが響たちの最終目標はこの世界にいる魔王の討伐、これくらいで手こずっていては話にならない。

 それに現代武器を実戦で使える絶好の機会だ、存分に検証させてもらうとしよう。



 ガサガサガサ………と、辺りはたちまちロウゴブリンの集団に囲まれてしまう。その数およそ十はいるだろうか。

 念のため、もっといることも想定した方がいい。



 「ではヒビキ君! 任務開始だ!」

 「了解!」



 その号令と共に、一斉に魔物たちが襲ってくる。

 幸い魔物たちの体格は大きくないため、回避は容易かった。いつも道場で手合わせしてもらっている人たちに比べたら遅すぎるくらいだ。

 


 大ぶりで振り下ろされる棍棒を躱し、左手で頭部を掴みゼロ距離から中級魔法を放つ。ロウゴブリンの頭部が爆炎に包まれ頬に返り血が飛び、若干の不快感を感じる。

 この手で初めて、さっきまで生きていた動物を殺したのだ。

 さっきまで生きていたそれを見つめその実感が痛いほど身に染みる。だが、その余韻に浸っている場合ではないことは分かっている。今は戦闘中、浸るのはそれからだ。



 「ゲエアアア!」

 「チェーンバインド」



 ロウゴブリンの動きを空中で止めて棍棒を奪い、一緒に襲ってきたやつの攻撃を防御魔法で防いでから叩き潰すように殴る。ミシミシと骨が軋む音がはっきりと聞こえてきた。その後拘束していた奴の魔法を解き、重力で落ちてきたところを利用して下から打ち上げる。

 後ろではアリアがすでに五匹を倒し終えていた。



 「あと二匹だね。さっさと終わらせてくれたまえよ?」

 「いわれずとも!」



 眼前には低い呻き声を上げてうなる魔物二匹。そのうちの一匹が勇猛果敢にもこちらへ向かってくる。他の奴らとは違って棍棒で殴るのではなく突いてくる。それを躱して、突き出された腕を掴み膝に当ててへし折る。



 「ギエエエェ!!」

 「ふっ!」



 痛がるロウゴブリンをよそに、すり足で素早く背後に移動して頭に手を回し、首の骨を折る。その光景を見てかもう一匹のロウゴブリンが逃げ出す。

 そのまま逃がしてもいいと思ったが、増援を呼ばれても面倒なので殺すことにした。



 「ピアッシングライトニング」



 敵である響たちに背を向け逃げるロウゴブリンに、上級魔法の雷撃の矢が突き刺さった。

 その矢はロウゴブリンの体に突き刺さった後、勢いが有り余ったのか木々を薙ぎ倒しながら減速してようやく消滅した。

 かくして不意打ちをしてきたやつ含めて十一匹のロウゴブリンの討伐に成功した。初めての魔物討伐に少なからず疲労を隠せないでいると、後ろからいきなりアリアが抱き着いてきた。



 「ちょ……先輩! いきなりなにして……!」

 「ちょっとしたご褒美さ。初めての実戦にしては中々やるじゃないか! 流石は有名道場の息子といったところかな? 魔法も上手く使いこなしてたし、戦術も申し分ないよ!」

 「あ、ありがとうございます。けどその、いつまでそうしてるのでしょうか……?」

 「んー? 女の子にこうされるのはお嫌いかな~?」

 「いえ別にそういう訳ではなく!」

 「じゃあいいじゃないか。さっきも言ったろう?ご褒美だよご褒美」



 なんてことをしていると、茂みから再びガサガサと音が聞こえてくる。その音を聞いてアリアの目つきが変わる。スッと響の体から手を引き、辺りを警戒する。響も万が一に備えて辺りに防御魔法を展開する。

 そして茂みから音の正体が現れる。



 「へへっ、中々勘が鋭いじゃねえかガキ共!」

 「兄貴、こいつらどうしますかい?」

 「兄貴、こいつらさっきイチャついてましたんですぜ?」

 「魔物討伐の後の周辺管理を怠ってイチャつくとはいかんなあガキ共。おじさんたちがお説教してやろうか? へへへっ」



 その正体は大柄な男とその部下と思われる男たち三人だった。

 手には短刀を持っており、格好からして盗賊や山賊の類だと思われる。



 「失礼だがどちら様で?」

 「俺らかぁ? 俺らはこの辺りで山賊やってるもんだよお嬢ちゃん。その格好からして魔法学校の奴らだろ? しかも任務に出るってことはそこそこの奴らだ、違うか?」

 「その通りだよおじさん。で? なぜ僕たちの前に現れたのかを教えてもらいたいんだが?」

 「なあに、ちょいとお前らを攫って、持ち物奪った後お前らの両親からたんまり身代金貰おうと思ってるだけだよ。大人しくつかまってくれるとおじさんたち嬉しいんだけどなあ?」

 「そんな大人しくするように僕たちが見える?」

 「いいや、見えねえから力づくで大人しくなってもらうぜ。お前ら!」



 その合図で周りの手下たちが短刀を構えなおす。先輩も臨戦体制に入っているようだ。

 ここで響にある考えが頭をよぎった。それは、今この場で銃を生成すればこの人たちで実験できるのではないか、と。

 冷静に考えれば人を殺しかねない行為だが、好奇心には逆らえなかった。



 「先輩、ここは任せてもらえないでしょうか」

 「何を言っているんだ、僕がやった方が確実……それは………?」



 先輩の答えを聞くまでもなく、響はすでに両手に銃の作成を終えていた。

 作成したのは、銃に詳しくない人でも聞いたことがあるであろう有名な拳銃「デザートイーグル」。

 その銀色に輝く二丁の未知の物体を見て、アリアが感嘆の息を漏らし、山賊たちも同様に少し驚いているようだ。



 「ほぉ? よく分からねえが、凄そうなの持ってるじゃねえか! ならそいつも頂いちまうかな?」



 余裕綽々の山賊リーダーにゆっくりと銃口を向ける。

 響は今から人を殺そうとしている。

 極力手や足などを狙って無力化を狙うが、恐らくそう簡単にはいかないだろう。



 「んじゃあまずはあっしから、いっちゃいましょうかねえええ!」



 テンション高めの手下が短刀を構えてこちらへ向かってくる。

 響はそちらに照準を合わせて引き金を引いた。

 引き金を引いた時には反射的にすでに手足を狙うことを忘れており、襲ってきた山賊Aの腹に「バンッ!!」とう音とともに大きな穴が開き、巨大な何かに齧られたように、脇腹から肉が吹き飛んでいた。


 声を上げる間もなく激痛でその場に倒れこんでしまった山賊A、恐らくはもうショック死してしまっていることだろう。

 右手の銃を山賊リーダーに、左手で握っていたもう一丁の銃を山賊Bに向ける。

 「ひいっ!」と、おびえた様子の二人にそれぞれ一発ずつ撃ち抜こうと思っていたところを、アリアが片手で止めた。


 「それ以上は流石に容認しかねるよ、ヒビキ君。君がそこまでやる必要はない。どうするおじさんたち、僕たちはこれ以上の交戦は望まないのだが?」

 「奇遇だな……お、俺らもだ。おいお前! 殺される()前にさっさとずらかるぞ!」

 「へ、へい! 兄貴!」



 そのまま山賊たちはかつて仲間だった動かぬ物体を抱えて、森の奥へと逃げ帰っていった。

 それを見て銃を削除すると同時に、自分のやってしまったことに響は深く自責の念に駆られ強い自己嫌悪の念が押し寄せてきた。

 もし先輩が静止してくれなければ今頃もう二つほど肉袋が出来上がっていたことだろう、そう思うと自分のことがとてつもなく恐ろしく感じてくるとともに制止してくれたアリアへの感謝と謝罪の気持ちが込み上げてきた。



 「すみません……先輩」

 「……このご時世、人が人を殺すなんてよくある話さ。それに相手は無法者の山賊だ、あの二人も僕たちを恨むことはないと思うよ。ただ、決して褒められたことじゃないことは認識しておいてくれないと困るよ?」

 「はい……申し訳ありませんでした」

 「任務中は何があるか分からないしね、仕方ないことさ……じゃあ帰ろうか」



 そこから先はよく覚えていない。気が付いたら学校まで着いていて、フルーエン先生に今回の任務の報告をしていた。

 響がしでかしたことも包み隠さず報告し、その場できつくお灸を据えられた。

 その時の自分はどんな顔をしていたのだろうか、今となってはもう響は思いだせなかった。

 もっと言えば、初めて人を殺めたその瞬間どんな顔だったのだろうか。アリアは「気にすることないよ」と言ってくれたが、そんな簡単には割り切れなかった。



 「なあヒビキ君。生徒会って何回生から入れるか知ってるかい?」

 「いえ、知りませんが……?」

 「五回生から入れるんだ、ちょうど学校生活の中間地点だね。今回の件で僕は君に興味が出た、そこでだ、君にはぜひとも生徒会のメンバーに入ってほしいと考えている。数年後の話になるが、考えておいてくれると嬉しいね」

 「分かりました。考えておきます」



 そう話したところで、響は一足先に下校し自宅へと帰り着いた。

 玄関のドアを引き、靴を脱ぎ道場へ上がりそのままフラフラと自室に入りベッドに体を預けた。

 今日は疲れた、転生してから一番疲れたことだろう。そう思えるほどに今日の出来事は色濃く記憶に染みついていた。

「~年生」が関東で「~回生」が関西なんですね。初めて知りました。

※主は関西の人ではありません。

その他誤字脱字等があれば教えてください。

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