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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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パーティーのお話。

パーティーって羽目が外れるからね

 「ははははははははははっ!! いやまさかグリムの姉御があんなぐっすり眠ってるとはなぁ! いいもん見れたぜ」


 「……うるさいやつだ。別に私だって眠ることくらいある、なぜそんなに笑っているのだ」


 「いやだって、いっつもお堅い姉御があんな無防備に寝てるところなんて普通拝めねえだろ」


 「寝る格好くらい好きにしていいだろ……というかハイライン、お前はいつまで私のことを姉御などと呼ぶのだ」


 「姉御って感じがするからだよ。お前もそう思わねえか、ちび助」


 「だからちび助じゃないって言ってるじゃないですか」


 獣王城の廊下を十人近い人数で歩く響たちはハイラインを先頭にしてとある場所に向かっていた。ハイラインはちょいちょい響を揶揄い、梓と影山の頭をぐしゃぐしゃと撫でたり、マリアのお嬢様生活について聞いたりと親戚のおじさんのように接していた。


 そして現在響たちは鎧やローブから着替え、用意された衣装に身を包んでいる。

 男性陣は黒いタキシード、女性陣はイブニングドレスを着ていた。




 そんな中、まだ廊下を歩いているとはいえメイドたちに目線を追わせたりと一際目立っていたのが成人組、つまるところアリア・フラン・ハーメルン・グリムの四人だった。

 アリアはクリームとゴールドが混ざったような色の綺麗ながらも控えめな感じのドレス、フランは茶髪の神をポニーテールに纏めてブラウンカラーのドレス、ハーメルンは黒を基調として紫が少し入った大人っぽいダークでゴシックなドレス、そしてグリムは髪色と同じ銀色の清楚なドレスを着ていた。



 梓とマリア、リナリアはそれぞれ水色・ローズピンク・パープルのドレスを着ていた。普段と違って三人とも大人っぽい印象だったため響と影山は最初「おぉ!」と新鮮さを感じていたが、四人が出てきた瞬間二人はあんぐりと口を開けたまま拍手をしていたという。



 「お待ちしておりました皆さま、中へどうぞ」



 そうこうしている内にパーティーが行われている部屋へとたどり着いた一行。

 ハイラインがその部屋の扉を力強く押すと扉は「ギイィィィィ……」と音を立ててゆっくりと開いた。


 







 中は大きなシャンデリアがいくつも天井から下げられていて、まるで部屋自体が一つの宝石のようになっていた。そこには色とりどりのドレスで着飾った貴族の方々や王族の方たちがシャンパングラス片手にガヤガヤと話をしながら優雅に食事を楽しんでいた。


 「おーおーやってんねぇ、勇者様を差し置いて楽し気なことだ」


 ハイラインはそうやってぼやいていたが食べ物の匂いに空腹が我慢できないのか足早に会場内に入っていく、響たちもそれに続いて入っていくとそれに気づいた貴族たちは食事の手を止めて響たちの方を見て何やらひそひそと話をしている。


 「諸君! 本日のメインゲストが来てくれたぞ、拍手!」




 パチパチパチパチパチ!!




 会場からは割れんばかり、とまではいかないものの、人王大陸から勇者パーティーが来たということで盛大な拍手が起こった。


 そして獣王はグリムに一言スピーチをお願いし、グリムもそれに応えて手短に、パーティーを開いてくれた礼を述べた。

 スピーチが終わるとグリムから一人ずつ自己紹介をしていき、それが終わるとようやく食事にありつけた。つい数十分前まで寝ていたとはいえこれだけ料理の匂いが立ち込める会場内にいたのでは食欲がそそられてたまらない。


 「あぁ~……腹減ってきた。響、お前何食う?」


 「そだなー、主食系を腹に入れておきてえ。米的な何かを」


 「日本人だな」


 「お互い様だろ」


 やはり飯を食う時は最初に米とか主食を腹に入れておかないとどうにも食事という気になれない。


 というわけでまず最初はこの世界での白米の役割を果たしているものをさらに上に少しもって一口食べる。響はこれを「ネメシス米」と呼んでいる。


 響は影山と共に色々とつまみながらも無礼にならない程度に羽目を外していた、ちらりとグリムの方を見るとすでに何人かの貴族や王族に囲まれていてとても食事処ではないと見た。恐らくは人王大陸にも自分たちの存在がいかに凄いものかを宣伝してほしいとか勇者と知り合いになっておけば何かしらの役に立つと考えているのだろうが、グリムはそれを見抜いていることだろう。

 なんたって自国に帰ってきただけで爺さん婆さん貴族さんたちの売り込みや今までなんべんも聞いた話を半強制的に聞かされているのだ、それくらいの能力は養われている。


 「そういや聖也。お前起きた時にすげぇスッキリ目覚めてたけど、なんかあったんか?」


 「聞いて驚け、リナリアとハーメルンに挟まれて寝たぜ」


 「……珍しい組み合わせだな」


 「ま、正確には俺が横になったら二人が情けで来てくれたってだけなんだけどな。良い体験した」


 「嬉しそうで何よりだ」


 「うぉあ!? リナリアいつからそこに!?」


 「聞いて驚けのところから」


 結構序盤からだったらしい。

 影山は「えーっと……」とどうやって誤魔化そうかとしどろもどろになって考えていたがリナリア自身は全く何も思っていなかったようで、いざ影山が弁解に回った時には「何をそんなに焦ってるんだ」と完全に空回りしていた。


 それからリナリアも加えて三人で適当に食べていると貴族たちから年齢とか魔法はどれくらい使えるかとか、なるべく物腰を柔らかくして聞かれた。

 三人とも上級や緋級魔法以上が使えると分かり、戦闘面での経験が豊富だと知るや否や貴族や王族たちの目の色が変わり大きくなったらぜひうちの子たちと一緒に戦ってほしいとか、良ければうちの娘や息子と会ってみてくれないかとかもうそっちの話ばかりだった。



 数十分ほど身動きが取れずにいるとハイラインがやって来て強引に響たちを連れ去った。

 「ちょっと通るぜー」と抑揚のない声で貴族たちの間を割って入るようにして背中を押しながらずんずんと進んでいき、貴族たちですら唖然としていた。


 「災難だったなお前ら、うちの種族の貴族共は全種族の中で一番しつこいって言われてんだ」


 「勇者が言っていいんですか、それ」


 「いいんだよ細けぇこたぁ」


 ハイラインは響たちを十分に遠ざけたところでケラケラと笑いながら葉巻を口にくわえて魔法で小さな火を付けて吸い始めた。


 「……そう言えば、一つ聞きたいことがあるんですが」


 「あん? なんだ改まりやがって気持ちわりぃ、普通に話せ普通に」


 「………耳は」


 「耳は?」


 「ハイラインさんの耳って普通なんだな。獣族って言えば獣耳なのに」


 辺りを見れば貴族や王族たちはみんな大小様々あれど頭の辺りに獣耳が生えていた、なのにハイラインにはそういうのは生えておらずあるのは響たちと同じ普通の耳だけ。



 ハイラインは響の質問を聞いて何やらまずいことを聞かれたという風な素振りを見せた。


 「………嫌なんだよ」


 「え?」


 「嫌なんだよ、あれ。今は魔法で隠してんだ」


 と、ハイラインは頬をポリポリと掻きながら葉巻を吸っている。

 するとそこへタイミングよくグリムも合流した。グリムは「何を話していたんだ?」と言うとリナリアはここまでの経緯を話した。

 グリムはそれを聞いて「私も気になるな」と、まるで先ほど寝ていた時のことを笑われた仕返しだと言うようにハイラインに詰め寄った。


 ハイラインはそれでも拒み続けていたが、影山が何かを思い立ったようにどこかへと消え、シャンパングラスを片手に持ったハーメルンを連れてきた。

 ハイライン以外の三人はハーメルンを見て「それだ!」と影山の考えを察知してハーメルンを指差した。


 『な、なんだ?』


 「実は――――」


 影山はごにょごにょとハーメルンに耳打ちをする、ハーメルンはそれを聞いて声は出さずに何度も頷き了承したという態度を取った。


 『私も獣族の勇者様とやらの本当の姿を見てみたいものですねぇ、興味あります』


 「………わーったよ、ただしちょっとだけだ」


 これまでとは違いあっさりと陥落したハイラインは響たちをちょいちょいと手招きして人目につかないバルコニーへと移動した。




 ネタは簡単で、ハーメルンの能力で無意識下に操っただけだ。




 「いいかお前ら、ほんとにちょっとだけだかんな」



 「ったく……」とぼやきながらハイラインは頭の上に両手を置いた。

 そしてゆっくりと手を上にやると、ついに隠されたそれが現れた。



 葉巻を加えた筋骨隆々で黒髪の大男の頭に現れた本当の耳、そう。













 可愛らしい真っ白なうさ耳が。













 「ははっ!!」


 「うはは!!」


 「これは……んふっ!」


 「ハイライン……お前……あはははっはははははっははは!!!」


 『あはっ! あははははは!!』


 「笑うんじゃねえよお前らぁ!!!!」


 反則級のその事実は瞬く間に人族グループ全員に広がり、数日間ハイラインはいじられ続けたという。

ハーメルンの能力は汎用性高い(確信)

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