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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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新環境のお話。

新キャラ登場

 翌日、賢介たちは屋外訓練場ではなく作戦会議室なる部屋に連れてこられた。今回は訓練ではないのか鎧の着用は指示されていない。もしかしたら着た方がいいのかと思い智香が案内役の騎士団員の人に聞いたが着なくていいとの返答だった。


 何があるのかはっきりとしないまま賢介たちは揃って作戦会議室へと赴いた。


 コンコン……


 「入ってどうぞー」


 中からは聞いたことのない人の声が聞こえた。

 ドアを開けて部屋に入るとそこにはカレンともう一人見慣れない人物がいた。小柄な体格で軽装備、武器は自分の座っている椅子の横に立てかけてある杖だけだろうか。


 「適当に座ってくれ、説明に入る」


 「カレンさ……カレン大尉、あの、訓練の方はいいんですか?」


 寸でのところで言い直した凪沙が尋ねた。

 そう言えば昨日カレンは「本日から」君たちの担当になると言っていた、君たちということは見習い騎士団員も含まれているはず。それなのに今カレンは訓練場ではなくこの会議室にいる。先にこちらに寄ってから訓練場へ行くということなのだろうか。


 「ああ、本日付で私は君たちの部隊の直属の上官になった。従って訓練場の担当は別の人間だ」


 「そう、ですか」


 「カレン先輩! 自分、自己紹介したいっす!」


 「……好きにしろ」


 「うっす! ありがとうございます!」


 小柄な体格のその人物は椅子から立って賢介たちの方を見て大げさすぎるくらいの敬礼をして口角を上げて笑顔で、かつ元気よく言った。


 「初めまして皆さん! 自分、ソフィー・ウルリアと言います! 魔導学院にいたので、カレン先輩の後輩で皆さんの先輩です。階級は中尉! よろしくお願いするっす!」


 カレンの後輩を名乗るソフィー、階級が中尉ということはカレンの一つ下に位置するだろう。

 カレンはそんなソフィーに構うことなく淡々と何かしらの準備を進めていた。



 「あ、どうぞ座ってくださいっす。お話は先輩から聞いてますんでスキルやらもある程度は把握してるっす」


 「ども」


 賢介たちは言われた通りに席に着いたが賢介にはどうしても腑に落ちないことがあった、それはソフィーの自分たちとあまり変わらない体格でどうやって中尉まで上り詰めたのかということだ。杖があることを見るとイメージ的には魔法主体の攻撃をするように思えるがどうにもそれだけではない気がする。


 「(……考えたところで今は無駄、か)」


 賢介はそう自己解決して納得させた。そしてカレンは皆を自分に注目するように促す。

 するとその時、レイがポツリと一言言葉を漏らした。


 「子供………」


 「ちょおっ! 誰っすか今子供みたいだとか幼児体系だとか言った人は!」


 「いや、そこまでは言ってないけど……」


 ソフィーの姿を一目見た時からレイは思っていたのだろう、子供みたいだと。

 レイは思わず本音を言ってしまいソフィーに聞かれてしまった、そして言われてもいないことまで聞こえてしまったソフィーの様子を見るに今まで散々言われてきたのだろう。


 「そこの色男さん! ちょっと立つっす! そして自分に思いっきり殴りかかってくるっす!」


 「あの……言ってる意味がよく分からないのですが」


 「いいから来るっす! 全力で来てほしいっす!」


 とことん強気なソフィーに圧倒されてレイは渋々席から立ち構える、それに対してソフィーは何の構えも取らずただ立っているだけだった。


 それを見てさらに訳が分からなくなったレイだがとりあえず言われた通りに攻撃することにした、要望通り全力で。レイは助走をつけて一気に加速するとそのまま右ストレートを繰り出した。


 だがレイの拳が眼前に迫った時、ソフィーは体を反転させたかと思うとレイの右腕を少し触れた。そしてその瞬間レイの体は大きく浮き上がり一回転してそのまま部屋の床に叩きつけられた。傍から見ればレイがソフィーに投げ飛ばされたようにも見えなくもない。


 「いっっっってぇ!」


 「むふふふふ。どうっすか! これでもまだ自分を子供とか合法ロリだとか言うつもりっすか!?」


 「だからそこまでは言ってませんって……」


 『今のは……」


 その光景にカレンとソフィー以外が驚愕した。

 賢介たちは今のソフィーの動きに見た覚えがあった。日本では有名な武術の一つ。


 「合気道……ですか……? 今の」


 「知ってるっすか!?」


 「うひぃ!!」


 合気道。

 日本の体術を主とする総合武道で、合理的な体の運用によって体格や体力差に左右されずに相手を制することが出来るというものだ。


 その言葉が出た瞬間、ソフィーは琴葉にしがみつくようにして肩を掴んだ。琴葉はいきなりのことで怯えてしまいその反動で変な声が出てしまった。





 「よく知ってるっすね! そうっす! 合気道っす! 師匠から教わった「ニホン」とかっていう国の武術らしいんすけど知ってる人はほとんどいなくて……!」


 


 

 ソフィーの言葉に賢介たち転生組が耳を疑った。



 今ソフィーは間違いなく「ニホン」と言ったのだ。しかも国の名前として憶えているということは十中八九響たちがネメシスに来る前まで住んでいた故郷「日本」のことだろう。

 


 そしてソフィーは師匠から教わったといった、つまりソフィーの師匠とやらは「日本」に対して少なからず情報を持っているということ。

 即ち、自分たちと同じ転生者の可能性があるということを裏付ける決定的な証拠だ。




 「ソフィー中尉! その日本と師匠について詳しく――――」




 賢介は勢いよく椅子から立ち上がり、そのことについて聞きだそうとしたがそれは叶わなかった。


 「すまないが話なら後だ。こっちもあまり時間がないからな」


 「あ……すみませんっす」


 「……すみません」


 咳払いをしながらカレンは本来の用を済ませる為に会話を終わらせた。

 賢介・ソフィー・レイの三人は大人しく席に着席してカレンの方を向き直った。


 「まず早速だが、今回みんなに集まってもらったのは君たちが今日から属する部隊、及び今日の任務についての説明のためだ」


 「部隊ですか?」


 「ああそうだ。君たち全員にはこれから前線部隊に所属してもらう」


 「簡単に言うと、戦場で一番大変な部隊っす。どこよりも攻めて、どこよりも戦果を上げる。戦場の最前線で戦う組織っす」


 『……ということは、あなたも前線部隊なので?』


 「ご名答っす! えっと………なんてお名前でしょうか」


 『…………』


 「なんで黙るっすか!? 自分何かしたっすか!?」


 グランの返答が返ってこず、もしかしたら知らぬ間に変なことを言ったのではないかと焦るソフィー。事実全くソフィーに原因は無いのだが、グランにはある懸念があった。




 『(名前……素直に言っていいのかな……)』


 


 そう、名前である。

 グランは魔族であるが故に名前の単語数とでも言うのだろうか、それが四つある。それは魔族だけのことであり、素直に名前を明かせば自分が魔族であることが特定されてしまう。

 だがそれはミスズも同じことであるため大した支障にはならないと思われる、が、しかし、グランはミスズとは違って魔王軍幹部だった者。


 しかもソフィーは騎士団の前線部隊に所属しているため魔王軍幹部の情報を持っていても何らおかしくはない、もしかしたらグランの名を聞いただけで魔王軍幹部であることがバレてしまうかもしれない。


 カレンから話を聞いているということはグリムから話を聞いているということだろうか大丈夫だとは思うが……。


 「……ソフィーにはあの日のことも伝えてある」


 『……そう。分かったわ』


 「え? なんすか?」


 『先ほどは失礼しました、ソフィー中尉。私の名はグラン・ロウ・セラフ・ローゼンと言います。お見知りおきを』


 「グラン……あぁ……なるほど。理解したっす。魔王軍幹部の方でしたよね」


 『ええ、そうです』


 一切臆することなく「魔王軍幹部の方ですよね」と、何か問題でもあるのですかと言わんばかりにケロッと確認するソフィー。そしてグランがそれを認めた上でなおも全く動じない、流石は王国騎士団前線部隊だ。


 「さて、確認はもう済んだか?」


 「大丈夫っす」


 『問題ありませんよ』


 ソフィーとグランがそれぞれ問題ないことをカレンに伝える、するとカレンは待ってましたというようにしてニタリと口角を上げた。


 「よし! ならこれから今日の任務について説明する! 先ほど妖王大陸に上級及び緋級魔物が大群で現れたとの報告があった。よって今回の任務はそれらの討伐、周辺環境の変化の調査を行う!」


 カレンはボードに地図らしきものを張りつけながら周辺地理の説明を短く行った。

 どうやら今回行くところは湿地帯で足元が悪い中の戦闘になりそうだ。


 「ケンスケたちは昨日と同じく鎧を着て準備してくれ。ソフィー、お前は先に正門で待っていてくれ私はこいつらを待ってから行く」


 「了解っす!」


 「さて、君たちも準備はいいか? いきなりの実戦だが、王都戦に比べればぬるいはずだ。期待している」


 カレンの言葉に全員が揃って「了解!」と大きな声で返事した。普段戦闘なんて嫌だという琴葉ややる気のない絵美里でさえ今回ばかりは真剣な顔をしている。






 かくして賢介たちの騎士団生活が本格的に幕を開けた。

次回からは響たちの方に戻ります

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