底上げのお話。
騎士団なんてちょちょいのちょい
「アルバレストってヒビキのとこと同じだな」
「知らなかったっけ。あの人ヒビキの母親よ、二人目の」
「はぁ~なるほどな」
カレンが騎士団員たちの前で話をしている時、列の最後尾にいるレイとヴィラは二人でぎりぎり聞こえるか聞こえないかの声量でひそひそと話していた。最小限の動きでしか口を動かしていないため遠目には話していることすら分からない。
『そこの二人! 何かあったのか』
そのはずなのだが、カレンがレイとヴィラのやり取りに気付いた。二人は行きを揃えて「何でもありません」と答え、カレンもそれ以上言及することもなく話に戻った。
数分ほど前話をしたところでいよいよ本格的に訓練に入ることになった。
まず手始めに適当な相手を見つけて一対一の対人戦を三分、その後一分間の間に別の相手を見つけまた三分間一対一をやる。それを十本繰り返すという内容だった。
適当に入り乱れて、カレンの号令によって始まった。
だが一対一なら、ましてや見習い相手ならば慢心しているわけではないが勝つことなど容易である。先読みの使い手や百発百中の魔法の使い手など色々といる。それでなくてもレイやヴィラなどの現役冒険者もいるのでそうそう苦戦することはなかった。
「くそっ! 何で当たんねぇんだよ!!」
「……能力を使うまでもねえな、こりゃ」
半ば呆れながら賢介は最小限の動きで自分より一回りも年上の見習い騎士団員の攻撃を避けていく、しかし賢介はその攻防の中で能力を一切使っていない。
賢介は相手の見習い騎士団員を軽く捻って見下し、吐き捨てるようにして呟いた。
「……あいつの方が数千倍強いっての」
その周りでも賢介以外に勝利している者がちらほら現れ始めた。
智香にセリア、絵美里に凪沙、レイとヴィラ、ミスズとグラン、そして戦闘が不得意なはずの琴葉までもが難なく一対一の戦闘を乗り越えたのだ。
その時、賢介たちと戦った見習い騎士団員たちは総じてこう思ったという。
「こいつらは化物か」と。
刻一刻と時間は迫り一本目の対人戦が終了した。それから一分間別の相手を探す時間をまたぎ即座に二本目の訓練が始まった。
刀と刀が交わる金属音が辺りから鳴り、屈強な男たちの雄叫びが聞こえる。
それから三本目、四本目と進んでいき怪我人が出ることなく十本目まで終了した。
『よし、では五分ほど休憩を挟んだ後に今度は集団戦闘の訓練をする! 休憩に入れ』
カレンは拡声石で全員に号令をかけ、自分も一度裏に戻った。
「つ、つかれました……」
「だねー。でも響たちより雑魚いしなんとかなるっしょ」
「まぁ、あいつらより弱いってのは確かだな。これなら任務受けてる方が手ごたえある」
琴葉のため息交じりの発言から騎士団員たちのディスりに発展させる絵美里と賢介、実際この場の全員はそう思っており誰一人として騎士団員たちのフォローをする者はいない。グランに至っては『こいつらとあの時戦ってたら間違いなく王都を落としていた』という始末。
そして何が悲しいかってその会話が騎士団員たちに聞こえていないものだから、騎士団員たちは知らぬ間に自分たちの弱さについて言及されているようなものなのだ。
と、そこへカレンがやって来た。
「どうだ。物足りなかったか?」
「カレンさん」
「セリア、ここでは『カレンさん』ではなく『カレン大尉』と呼べ」
「失礼しました、カレン大尉」
マリアの付き人として長年やっていた切り替えの早さが発揮され、セリアは即座に言い方を変えて膝を地面に着けて頭を垂れた。
「まぁそこまで畏まらなくてもいい。初日くらいは自由にしていいさ」
「お気遣い感謝いたします、カレン大尉」
「……やっぱり君たちの実力だと、見習いの団員たちでは相手にならないか。事前に話を聞いていたとはいえ、凄いな」
カレンは一人ひとりを見た後、何やら悩ましげな表情を浮かべ考えた様子だった。
「とりあえず今日はこのまま彼らと訓練をしてくれ。明日からは考えておこう」
カレンはそう言って行ってしまった。
それから数分経って休憩時間が終わり集団戦の訓練の時間となった。
この訓練では四人のグループを作りそれで対戦するというもので、全体を見渡したり協力・連携するという趣旨で行われたのだが、そんなものは無かったと言わんばかりに賢介たちは騎士団員相手に完勝してしまった。
「うーん。これはどうするかな」
カレンも騎士団員たちが手も足も出ないとは思ってなかったようで、若干の苦笑いを浮かべていた。
一般人が転生者に勝てるわけがなかったんや