居残り訓練のお話。
居残り組side
「行っちまったなぁ……」
「なんか寂しくなっちゃったねー」
賢介と凪沙は、しみじみと呟いた。
響たちが勇者パーティーとして人王大陸から獣王大陸まで向かっていた頃、賢介たちは王国騎士団本部に向けて魔導学院から徒歩で移動していた。
「お嬢様……ご無事でしょうか」
「大丈夫じゃないの? あんたんとこのお嬢様、結構タフそうだし」
賢介と凪沙が完勝深くなっている時、セリアは行ってしまったマリアのことを心配していたが絵美里のラフな答えによってそれは解決した。
そんな感じで移動中は和気藹々としていた雰囲気だったが一人だけ表情が暗いものがいた。
響たちと一緒に旅立ったハーメルンと同じく、魔王軍幹部として王都を襲い捕虜にされていたミスズのこの世界での実の姉、グランだった。
「お姉ちゃん」
『んー? どうしたの?』
「いや……なんでもない……」
『何よー、お姉ちゃんに相談してごらんなさいよー』
ミスズの前では気丈に振る舞っているがミスズはグランのそれが本心からのものでないことを分かっていた。
実際、ミスズだってまだ完全に心を開いているわけではない、今だって毛嫌いしているところはある。だがそんな心境でも今のグランを見ていれば自然と同情してしまう、たとえ嫌っていても、敵として再会したとしても、この世界では血の繋がった家族だからだ。
「あ、あの……」
そんな二人の元へ琴葉がおずおずとやって来た。
「これ、良かったらどうですか? 木の実でお菓子作ってみたんですけど……」
そう言って琴葉が差し出したのは胡桃のような木の実が入ったパウンドケーキをミスズとグランに差し出した。二人はそれを受け取ると揃って食べた。
「あ、美味しい」
『うん。美味しい』
「そ、そうですか? 良かったです」
琴葉は二人の言葉に安堵すると他の面々にパウンドケーキを配りに行った。ミスズとグランはまた二人だけの空間へと置き去りになった。
そしてミスズは姉のグランに尋ねた。
「お姉ちゃん、今居場所無いって思ってるでしょ」
『なにさいきなり』
「隠さなくてもいいよ。それに多分、私じゃなくても分かるから」
ミスズはグランの方を見ながらそう聞いて反応を伺った、するとグランは『あ~……』と唸りに近い声を上げながら頭をポリポリと掻いた。
『……やっぱ分かる?』
グランは弱弱しくミスズに微笑みながら申し訳なさそうに答えた。
それもそうだろう。
グランは魔王軍幹部の一人としてこの王都を、ひいては人王大陸に壊滅的な被害を及ぼそうとした張本人だ。だがそれは失敗し捕虜として捕まった。
グランは戦に負け捕虜になる前からこれから自分に訪れるのは地獄の日々だろうと悟っていた。尋問も拷問もそれよりもっと酷いことだってされるかもしれない、そう思っていたにもかかわらず何がどうなってか情報を聞き出すための質疑応答こそ行われたものの拷問もなしで兵たちの欲望のはけ口になるようなこともなかった。
そればかりか今度は人族の戦力の一端としてこの国を守る兵として育てられようとしている。
『最初は、自分に何が起こっているんだろうって思ってた。でも落ち着いてきた今では、ここに居ちゃいけない存在がどうしているんだろうって、そればかり思ってる』
現在移動しているメンバーはあの時グランやハーメルンと戦った面子だけ。
一般兵で二人のことを知っている者はグラキエスが率いてた遅すぎる増援部隊にいた者たちくらいだとはいえ、つい先日まで捕虜として捕らわれていたのであれば顔を知っている者たちがもっといてもおかしくはない。もっと言えば、王都襲撃なんてことをした戦犯の顔写真として出回っていても何ら不思議はない。
それなのにグランは先日、グリム直々の来訪によって捕虜の身から解放され魔導学院で一日を過ごすこととなった。そして早朝、賢介たちが来てグランと合流、今に至るというわけだ。
「どうしたの二人とも」
どうにもできていない二人の元へ智香がやって来た。
「なんか雰囲気暗いけど……もしかして体調悪い?」
「あ、ううん。違うの。気にしないで」
「そう……? もう着くから、何かあったら言ってね? 回復魔法は得意だから」
「ありがとう」
心配そうに智香は聞いていた。ミスズはなるべく気を使わせないようにしてやり過ごしていた。
だが智香はそんなミスズに気付いた上でこれ以上口を挟むのは場違いだと思いそれ以上は何も聞かずに大人しく撤退した。
それから数分後、賢介たちは王国騎士団の本部へと到着した。
門番たちはすでにグラキエスやグリムから聞いているためすぐに入れてもらえ、見習いであろう騎士団員が門番に変わって賢介たちを着替えなどを行う更衣室へと案内した。
「団長から話は聞いています。まずはこちらで防具に着替えてください、それが終わりましたら外にいますのでお声かけください」
ミスズたち女子たちは隣の女性用更衣室に案内された。
それから数十分後、初めての鎧ということで着替えに少々手間取りながらも全員は更衣室から出た。
「なんか……落ち着かねえな」
賢介が愚痴るようにそう呟く。
だが今回みんなが着用している鎧は他の騎士団員が着ている者とは異なり軽装備だった。
見習い騎士団員の話によると、これはグリムが発注したものでそれぞれの能力や戦闘能力に合わせた特注品らしい。普通の鎧では重く、賢介たちのポテンシャルを十分に発揮できないとの理由とのこと。
そうして特注の鎧を装備した賢介たちは見習い騎士団員と共に王国騎士団の団員が普段訓練をする屋外訓練場へと移動した。
屋外訓練場はコロッセオのような作りになっておりシンプルかつ荘厳なつくりだった。
そこにはすでに大勢の騎士団員が集まっており、見たところ何人か装備が他と違う者たちが数人いた。
『全員っ整列!』
すると突然拡声石による号令が訓練場に鳴り渡った。
団員たちはそれを聞くとすぐさま言われた通り綺麗に整列した。賢介たちもそれにあぶれないよう一列に並ぶ。
そして整列した騎士団員たちの前に、他よりもグレードアップした鎧を装備した一人の女性が堂々たる態度で前に現れた。
『諸君! よく集まった! 本日から諸君らの教官を担うことになったカレン・アルバレストだ。階級は大尉、よろしく頼むぞ』
響の第二の母であり、魔導学院主席卒業をした実力者。カレン・アルバレストが賢介たちの前に現れた。
レイ&ヴィラ「あれ? 出番は?」
作者「じ……次回に……」




