獣族勇者のお話。
今回は短め
「さて、では行こうか」
グリムを先頭にして響たちは獣王大陸の道を歩き始めた。獣王大陸は相も変わらず活気にあふれており毎日がお祭り騒ぎ、とまではいかないが賑わっていた。
響たちは賑わう大通りを素通りしながらある場所へと向かった、その場所とは王城とよく似た巨大な建物、すなわち獣王大陸の王が住まう王城である。
「人族の勇者、グリム様ですね。お待ちしておりました」
王城、紛らわしいから獣王城としておこうか。
獣王城へ着くや否や門番の一人がグリムを見てそう言う、そして大きな門が開きグリムたちに進むように促した。
「中で国王とハイライン様が待っております」
「そうか、ありがとう」
恐らく人王大陸を出る前にすでにアポイントメントは取っていたということなのだろう。まぁ当たり前と言えば当たり前だが結構あっさりと通れるみたいだ。
現に今、グリムは納得できるとして響たちはこうして何のボディチェックも受けずに獣王城の中を歩いている。門番はある大きな扉のある部屋の前へと着くとノックをして「グリム様たちが参られました」と伝えると中から「通せ」という声が聞こえ、それを合図に門番はドアを一気に開けた。
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
グリムはそう挨拶して凛とした佇まいでその部屋へと入っていく、響たちもグリムに続いてその後ろを歩いていく。その部屋には巨大な玉座や煌びやかな装飾があるなど人王大陸の王城と共通点はあるが、大きな違いはそれを上回るほどに大量の武器や魔導書が保管されていたことだった。
「人王大陸が勇者グリム・メイガス、及びそのパーティーメンバー、ただいま到着いたしました」
「よく来てくれた人族の勇者よ。長旅ご苦労であった」
「労いのお言葉、感謝いたします」
グリムは頭を深く下げた。
「ところで、そちらの勇者は何処にいるのでしょうか。先ほどから姿が見えないのですが」
「あー……そのことなのだがなぁ……」
そこで言葉を渋る獣族の国王。何かあったのだろうか。
いや、あれは何か不測の事態が起こったというよりは、やっぱりこうなったかといった予測していた焦りだと思われる。こうなることがあらかじめ予想されていて、今それをグリムに指摘されてどう誤魔化そうか悩んでいる時の表情だ。響には分かる、何故かって? 日本にいた頃に実際に経験したからだ。
「何かあったのですか?」
「実は……申し上げにくいのだが……」
国王が何かを言いかけた時、響に椿が語りかけた。
「(上じゃ、阿呆)」
「(……っ!)」
その言葉に反応して響は自分の頭上を見る、するとそこにはまるで上下が反転したかのようにして天井にしがみついている一人の男がいた。
その男は響が自分に気付いたのに気が付き二カッと笑った。
そして次の瞬間、天井に両足を付けて勢いよく響に向かって落ちてきたのだ。
「危なっ!?」
響は咄嗟に防御魔法で落下してきたその男が自分の体に当たるのを防ぐ。
ガン! という鈍い音を上げてその男は響の防御魔法に勢いよく体をぶつけた。そして障壁を蹴りつけて後ろに一回転してその男は着地した。
「がははっ! よく防いだじゃねえのちび助」
「だぁれがちび助だ」
豪快に笑うその男は腕を組みながら響のことを「ちび助」呼ばわりし、完全にこの場にふさわしくはないであろう存在だった。
これにはグリムでさえ頭に手を当ててため息をついている始末、さらには獣族の国王も申し訳ないような顔を浮かべている。
「ハイライン、君はもう少し常識を知った方がいい」
「まぁそう堅いこと言うなよグリムの姉御。久しぶりの再会じゃねえか」
「こんな頭の悪い再会のしかたがあるか。まずはこの子に謝れ、れっきとしたうちのパーティーメンバーだ」
「んあぁ!? マジか、すげえじゃねえかちび助!」
「だから誰がちび助だっての」
またしても響を揶揄い豪快にガハハと笑うハイラインと呼ばれた男。
ハイラインという名前、グリムと知り合い、そして先ほどの門番が言っていた勇者ハイライン。これだけの条件が揃えばよほどの馬鹿でも分かるだろう。
目の前に立っている筋肉質でがたいのいいこの男こそ、獣族の勇者だということだ。
「ハイライン、まずは挨拶しなさい。すまないなぁ人族の勇者よ」
「めんどくせえけど、やんねえわけにはいかねえからなぁ……」
渋々指示に従うハイライン。
「あー……俺の名はハイライン・オーヴェール。これでも一応獣族の勇者だ、よろしく」
ハイラインはそう言ってヒラヒラと響たちの方へと手を振り二カッと笑った。
新たな勇者登場