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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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昔話のお話。

話をしよう

 ガタゴトと揺れる馬車の中で響と梓そしてハーメルンの三人の空気は非常に微妙なものだった。というのもあれだけ揶揄っておきながら特に大した話題もあるわけではなく、さらに言えば一度戦った関係なので仲良く使用にもしづらいという状況である。


 現在客車の席順は左に響、真ん中に梓、右にハーメルンといった並びになっており響はこの気まずい沈黙から逃れるため一人窓の外を見ていた。


 幼馴染で恋人同士なら梓と話せばいいではないか、そう思う人もいることだろう。


 だがよく考えてみてほしい。たった三人しかいない空間でいきなり自分を除く他の二人が仲良く話していたらどう思うだろうか、控えめに言って地獄である。しかも先ほどハーメルンは仮面を自分で取ったとはいえ散々揶揄われて若干疲れている状態で響と梓がイチャつき始めたらどうなるか。


 きっと能力を使うまでもなく心を無にして閉ざしてしまうだろう。

 

 響は救いを求めるかの如く何回かちらりと梓の方を見て何かアクションを起こしてくれることを期待していたが朝早く起きたらしくスヤスヤと夢の世界へと一人先にエスケープしていた。

 恐らく梓がアクションを起こす前に響が梓を夢から起こす方が先になるだろう。


 だが響にはこういう時に頼りになる仲間がいる。


 「(椿、ヘルプ)」


 「(へるぷ、という言葉の意味はよう分からんのじゃが状況を見るに妾に助けを乞うているのかの)」


 「(そういうことだ。何かいい考えはないか?)」


 「(情けないのぅ……)」


 響は神族という神様的ポジションに君臨する椿に助けを求めたが椿は頑張れくらいしか言わずに特にアイディアがあるということもなかった、実際それくらいは響だって予想はしていたのだが。どうしたものだろうか、もういっそこのまま椿との精神会話を続けてみようか、そう思っていた時だった。


 『ヒビキ君』


 ハーメルンが呟くようにして響のことを呼んだ。


 「なんだ?」


 響は窓から目を離しハーメルンの方へと向ける、するとハーメルンと目が合い梓を挟んで見つめ合うような状況になったがすぐにハーメルンは視線を前に向けた。


 『なぜ私は選ばれたのかな?』


 「……? グリムさんの言っていた通りじゃないのか?」


 『本当にそれだけだと思うか? 生憎と私は性格がひねくれているからねぇ。素直に納得できないのだよ』


 確かに、あの理由だけでハーメルンの同行を提案するなんてことすらあれど実際に連れて行くことなんて国王が黙っていないはずだ。自国を攻めてきた相手を最高戦力である勇者と共に連れて行くなどリスクが高く何があるか分かったものではない、にもかかわらず事実ハーメルンは今こうして人族の勇者パーティーの一員として響と話をしている。


 「……俺だってそれだけだとは思ってねえよ」


 そう、響だってあの場で一から十までを理解し納得したわけではない。正確には納得こそすれど何か釈然としないと思っていたのだ。あの理由は建前で、本当の理由は別のところにあるような気がする。だがその本当の理由もちゃんとしたものではないだろうとなんとなく思っている。


 『そうか……』


 それだけを言うとひとしきりハーメルンは黙ってしまった、すると今度は逆に響からハーメルンに話しかけた。


 「ハーメルン」


 『なんだい?』


 「お前、元々魔族じゃないだろ」


 『それはそれは……一体どういう意味かな?』


 虚をつく響の質問にハーメルンは平静を保とうとするが響の問いを聞いた時僅かに眉がピクリと動いた気がした。


 「ミスズやグランがあんだけ名前長いのにお前だけ俺らと同じような名前の字数だからな、なんとなくそう思っただけだ」


 『君はどうして中々、鋭いことを言うのかねぇ』


 ハーメルンはそう言うと窓を少しだけ開けて客車内に涼しい風を入れる。


 『……確かに君の言う通りだ。私は元から魔族というわけではない』


 「人族か?」


 『ああそうさ』


 「なんでまた、種族を変えるなんてことを」


 『変えざるを得なかったんだよ』


 ハーメルンは『少し昔話をしましょうかね』と言って自分の過去を語り始めた。

 自分が貧しい家庭に生まれたこと、能力が先天的なものであったこと、能力の内容がバレて周りの人たちからは忌み嫌われまるで悪魔のように扱われたことなどなど。それはそれは壮絶なものだった。


 『その後は父親が荒れに荒れ、母親が出ていき、父は私を欲望のはけ口にしようとしたってところですかね。初めて殺めた相手は父親でした』


 「んー……なんか、すまん」


 『いえいいんですよ、私が勝手に話し始めたことですから』


 無言の空気が訪れ、客車内には窓から入る風の音と車輪が石に乗り上げるガタゴトとした揺れだけが残った。響はその話を続ける気にはなれなかった、そんな壮絶な過去を離されたのならばそれを詮索するのは野暮なことだと思ったからだ。


 『……そうだ。私からも一ついいか』


 ハーメルンが何かを思い出したかのように響に問いかける。


 『君は……いや、今ここでぐっすり眠っているこの子もそうなんだがな』


 ハーメルンはそう言い、未だスヤスヤと寝息を立ててぐっすり眠る梓の髪の毛を優しく撫でながら真剣な顔つきで続く言葉を放った。


 『私はどうしても、君たちがこの世界の住人だとは思えないのだよ』


 その口調は、仮面を外した少女の口から放たれるにはやけに大人びた感じだった。響はその口調の変化に思わず響はハーメルンの顔の前にペストマスクのような形をした仮面の幻影が見えた。


 「……そうだな」


 響は少しだけ考えた。いや、確かに響たちはハーメルンの言う通り元々この世界の住人ではない。だからそのまま「はいそうです」と答えればいいのだが何故だが響はそうはしなかった。


 響は口角を上げてニヤリと悪い笑みを浮かべながらハーメルンの問いに答えた。


 「……さぁ? どうだろうな?」


 日の光が客車の窓から差し込みちょうど響を逆光で照らし、黒く染め上げた。


 『なるほどな………じゃあもう一つだけ』


 「なんだ?」


 『君が私を倒した時、君は一度生まれ変わったようになった。あの時私は確かに感じたっ……』


 ハーメルンの纏う雰囲気が凄味を帯びてきた。


 『君は一人の存在じゃない……! 君の心の奥にはもっと何か、形容しがたい何かが――――』


 あと一言まで迫ったハーメルンの言葉だったが、それは最後まで紡がれることなく遮られた。

 

 何故か。


 その要因は一人しかいない。


 「違うんです先生! 宿題は忘れましたがちゃんとやったんです………って、あれ……?」


 「……おはよう」


 『いい夢ではなかったようだね』


 「え、あ……えっへへ」


 完全に日本にいた頃の夢を見ていたであろう梓のその完全な不意打ちによってハーメルンも聞く気はなくなったようでそれ以上は響が尋ねても聞いてはこなかった。


 「なに? なんか二人で話してた?」


 『いや、気にすることではありませんよ』


 「そ、そう? ならいいんだけど……」


 そうこうしている内に馬車は段々とスピードを落としていく。


 そしてとうとう止まり、響たちの客車のドアが開きグリムが顔を覗かせる。


 「着いたぞ」


 響たち三人は荷物を即座にまとめて外へと出る。

 二度目の獣王大陸の活気が、響たちを歓迎した。

口調おかしくなったかな?

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