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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第六章:勇者パーティーとして動き始めたようです
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旅立ちのお話。

新生勇者パーティー、始動!

 「じゃあ行ってきます」


 「おう。たまには連絡よこせよ」


 「はい、父様」


 勇者パーティーとして旅立つ日の朝、荷物をまとめた響は玄関でクラリア、エミル、カレンの三人と挨拶を交わしていた。クラリアは響の頭を強く撫で、「元気でな」と短く伝えた。


 「ほんとに立派になっちゃって~。無理しないようにするのよ~? まだ子供なんだから~」


 「はい、母様」


 エミルは母親として愛する我が子が心配なのか色々と伝える。辛くなったら戻ってきなさいだとか、体調管理はしっかりするのよだとか。もう響も中身で言えば立派な成人男性なのでそんなことは分かっているのだがやはりこういうことを言われると自分はまだ未熟なのだなと実感する。


 「あの幼かったヒビキ君がまさかなぁ……。何が起こるか分からないな、ともかく元気で。いつか一緒に戦えるといいな」


 「はい、カレンさん」


 カレンはギュッと響を抱きしめ額にキスをした。出会った頃は年上のお姉さんといった印象だったが今ではすっかり一人の母親となっている。


 ひとしきりしばしのお別れの挨拶を済ませ響は引き戸をガラガラと開けて家を出る。

 しばらく帰っては来れないだろう、響はそう感じるも一歩外に出た時にふと思った。



 いや、転移して帰ってこれるじゃねえか。



 朝っぱらから誰にやったわけでもなく自分で自分のボケにツッコむ、そんな自分に呆れながらも響はすでに外で待機していた二人と合流した。


 「よ、響」


 「おはよー響」


 「うっす二人とも」


 梓と影山を加え三人となった響たちは先日グリムに言われ指示されていた場所へと向かった、その指定場所とは人王大陸の中枢部分、王都の核、王城に集合というものだった。


 王都にはすでに、というか当たり前だがグリムがいた。その傍らにはアリアとフラン。どうやらマリアとリナリアはまだ来ていないようだった。


 グリムたちは響たちが来たのに気づくともう少し待機しているように伝えた、まだ謎のもう一人のメンバーは明かされないようだ。


 「やぁみんな、おはよう」


 「おはようございます」


 アリアはいつもと変わらない様子、フランはどこかワクワクしている様子だった。二人とも最後の一人が誰なのか聞かされていないようだった、響たちが誰がやってくるのかと様々な予想をしているとマリアとリナリアが来た。マリアはいつもセリアと、リナリアはいつもミスズとそれぞれ一緒だったので二人が単独で来ているというのはどこか新鮮だった。


 「みんな揃ったな?」


 グリムが戻ってきた。

 響たちは最終確認を終えるとグリムの後に続いて移動を開始した。これから響たちは他種族の勇者たちと会うため獣王大陸から各大陸を回っていくらしく、そのため馬車へと乗るために乗り場へと向かっている。

 馬車乗り場には三台の馬車がすでに待機しておりそのどれもが街中を走るものよりも客車の耐久性や大きさが当たり前だが格段に良くなっている。


 「さて……そろそろ来る頃だと思うが」


 独り言のようにそう言うグリム。


 すると一台の馬車がこちらへと迫ってくる、その馬車は三台の馬車の後ろに止まると御者台から運転手がおり各車の中にいる人物へと着いたことを伝える。


 「すまない、待たせたな」


 「お父様!」


 馬車の客車からはマリアの父であり王国騎士団団長のグラキエスが出てきた。



 そしてその後ろからもう一人、思いもよらない人物が出てきた。



 『……やぁ』


 


 それは先の王都襲撃において魔王軍幹部の一人としてグランと共に響たちの前へと立ちはだかった強敵、クラウン・ハーメルンだった。


 「お前っ……なんで」


 「私が呼んだんだ」


 「グリムさんが……?」


 その言葉に一同は唖然とする。

 ここに居る全員はハーメルンが王都を襲ってきたのを知っているし実際に戦った、だが問題はそこではない。問題なのはそのハーメルンの能力だ。


 ハーメルンの能力は相手を無意識下に操れるというもので能力を開放すれば周囲にいる複数人を強制的にいっぺんに操れる、事実グリムは王都戦において一度その能力の支配下に置かれ梓たちも能力の開放によって強制的に操られたことがある。


 にもかかわらず今回そのハーメルンを呼んだということはそういうことなのだろうと響は予想した。


 「実はもう一人のメンバーはこいつだ」


 やはりな。

 響は自分の予想が当たったことの満足感と本気でグリムは言っているのかという驚愕の入り混じった感情に浸っていた。


 「本気ですの?」


 「あぁ本気だ」


 「理由を聞かせてくれ」


 リナリアの言葉にグリムは頷き、説明を始める。


 「確かにこいつを連れて行くのは能力のことや外面的なことを含めて色々と問題がある。人族の勇者一行が、自分の大陸を襲撃してきた世界の敵を仲間に加えて、その襲撃してきたやつの親玉を倒すために旅するなど普通は考えられない」


 グリムの説明に皆食い入るようにして聞く。

 誰一人として喋らず黙ってその説明を聞き逃さまいとしている。


 「だが逆に考えてみてほしい。こいつらが襲ってきたことはまだ他種族には知られていない、ならば隠蔽が通用する。そして能力に関してだが、一見デメリットがあるようにも思えるが、裏を返せば嘘が付けなくなるということだ。無意識化で操られるということはつまるところ自分の考えていたことをつらつらと喋らせることに転用が効くのだ」


 「外交などの交渉の場で相手に機密事項を話させたりすることや、私たちへの隠し事なども無効化できるということですか」


 「そういうことだ」


 フランの補足をグリムは肯定し、一通りの説明が終わった。

 なるほど、確かに交渉の場などで相手に嘘や隠し事を出来なくさせるということはかなり強力である。なんなら自分たちに有利になるように証言させることだって可能になる。


 「それに、もう操ろうなんて気も起きないはずだ」


 グリムはそう言いながら響の方を見る。

 どうやら響はハーメルンへの抑止力としての役目も担うことになりそうだ。


 一応、この説明やフランの補足によって全員はハーメルンを連れて行くことを承諾した。というか今更反対したところでもう変えられないだろう。


 こうしてハーメルンを加えた七人とグリムの八人で出発することになった。


 続々と客車に乗り込む際、響はふと気になってハーメルンに尋ねた。


 「そういやグランはどうなった?」


 『彼女なら君たちのお仲間と一緒ですよ。今頃は騎士団にいるでしょう』


 「そういうことか。じゃああともう一つだけ聞くぞ」


 『えぇ、何なりと。私が言えたことではありませんが、今は仲間です。出来ることなら答えましょう』


 「仮面取んないのか?」


 ゲームでフリーズが起きた時のようにハーメルンがピクリとも動かなくなった。

 数秒のラグをまたいでハーメルンは一つ困ったように答えた。


 『正直あまり外したくないのでねぇ。勘弁してくれるとありがたいのですが……これも一つの信頼関係の構築ということで』


 そう言ってハーメルンは自ら仮面に手を伸ばして掴んだ。



 そしてハーメルン自身の手によってその仮面が外され、封印が解かれた。



 そしてその素顔は――――。



 「……お前、女だったのか……?」


 『だから外したくなかったんだ……」


 仮面の下の素顔、それは可愛らしい女の子の顔だった。

 ハーメルンは素顔をさらしたことによる恥ずかしさからか今にも火を噴きそうなくらいに真っ赤になっている。

 そしてその時だけ全員がハーメルンに視線を集中していた。


 今までのハーメルンは仮面に大きなハット、そしてマントのついた真っ黒のローブを付けていたため男性か女性かすらわからなかったがまさか女性だったとは思わなかった。


 仮面を外しさらにはハッとも取ったハーメルンの本当の姿は、ブロンドのショートヘアに水色の瞳というどちらかと言えば女性よりも女の子といった雰囲気だった。


 「いやーまさかお前の素顔がこんな………へぇ~」


 『やめろやめろやめろ!! そんなに見るな!』


 「口調、変わってるぞ」


 口調も変わるほど照れているハーメルンはその瞬間全員にいじられ中でもアリアは人一倍揶揄っていた。もしかしたら死にかけになった時のことを密かに恨んでいたのかも知れない。いや、多分そうだ。




 『あぁもう! 頼むから揶揄うなよぉ!!』





 こうしてハーメルンが全員にいじられたままグリム率いる新生勇者パーティーは魔王討伐に向けて本格的に始動した。



 まず向かうは獣王大陸。

 

 馬車を引く馬のけたたましい雄叫びと共に、響たちの冒険が今、本当の意味で始まった。

ようやっと本当の目的に移れます

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