プロローグのお話。
オリジナル連載小説初投稿です。
誰しも一度くらいは、この現実に何かしらの刺激が欲しいと思ったことがあるだろう。
別に変な意味じゃなくてごく単純に、「毎日が退屈だから何か面白いことはないか」とか。「たまにはいつもと違うことがしたい」とか、そんな簡単な願望を祈ったことくらいあるだろう。
ではもし、その刺激とやらが最近よく見るファンタジー感溢れるものだとしたら、一体どうだろうか。
さて、では実際にそんな刺激がある日唐突に、しかも急速に、この現実にやってきたとして考えてみよう。あなたはどんな反応をするのだろうか。「待ってましたぜヒャッホオオウ」と意気込んでRPGの主人公よろしく、この異変に立ち向かおうとする勇猛果敢な勇者キャラになるのか。
それとも、「おいおい……冗談だろ……」と、現実に混乱してどうにかして生き残ろうとする村人Aになるのか。はたまた、そのどちらでもないか。
これからお話しするのは、そんな突拍子もないタチの悪い刺激が実際に起こってしまった世界を、ゲームオーバー覚悟で生き残っていこうと、もがきあがく少年少女達のお話である。
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小鳥のさえずりがアラームに交じって聞こえてくる、そんな朝。
水無月響は体をグーッと伸ばしながら欠伸をした。
「んん………ふわぁ……ぁぁぁ……」
「すぅ………………むぅ…………………」
「ほら梓、朝だぞ、起きろー」
「うるさいなぁ~、朝っぱらからなんなんだよ響~もぉ~」
梓は安眠していたところを響に起こされて、さらにはこの温い布団から出なければいけないという事実に朝から目を背けて掛け布団を頭までかぶって、もぞもぞと枕の近くに置いてある携帯電話で時間を確認しながら二度寝しようとしている。
図太い奴だ、と響は思った。
「お前のはしゃぎ声よりかはましだ、早く起きないと遅刻するぞ」
こいつは遊佐梓。保育園からの幼馴染で、響と同い年で十七歳の現役女子高生。なのだが、少々子供っぽいところがあるので、女子高生よりかは中学生と、それどころか親戚のおてんばな女の子と接しているような気分になる時がある。
梓の親は、というか母親は仕事柄海外出張が多くて家を空けることがほとんどなのだ。父親のほうは梓が物心つく前に病気で亡くなっているため、小さい頃からお隣さん同士だった響の家で何かと面倒を見ている内に家でも外でも二人でいることが次第に多くなり今に至るという訳だ。同じシングルマザー同士何か通じるものがあったのかは知らないが、実際母親同士の仲も良い。
梓のお母さん曰く、「水無月さんのお宅だったら安心だもの~」だそうだ。当の本人も今の状況について何とも思ってなく、自分の帰る場所が二つあるようなものだと言っているため、響からは何も言えない。
「響ー、梓ちゃーん。朝ごはん出来てるわよ-。顔洗って早く着替えたら―?」
一階で響の母親が呼ぶ声が聞こえる。
寝起きで気だるげな体にむちを入れ、響は布団から出た。
一週間がやってきてしまった倦怠感や虚無感をパジャマと一緒に脱ぎ捨て、部屋の壁にかけてある制服をハンガーから取り外して着替える。
「ほら、お前も早く着替えろ」
こういうことを言うと梓から返ってくる返事は大体決まっている。
朝の布団ほど気持ちいものはそうそうないのは分かる、その気持ちは響も大いに分かるがそれで遅刻でもしようものなら朝から先生にこっぴどく怒られてしまう。
ただでさえ一週間の始まりは面倒くさいものなのにさらに面倒くさくなるのは勘弁なのだ。
「んんー。あと十分……」
ほら見たことか、響は口に出さずに自分の予想が当たったことを誇った。
まさかこの年になって毎日「あと十分」などとぬかすとは、流石の響も笑いを通り越して呆れかけていた。
「だーめーだ。さっさと着替えろ。 遅刻するぞ」
一足先に着替え終わった響は、一階の洗面台へと移動し顔を洗い、寝癖を直した。少しして梓が二階から制服姿で降りてくるのを確認して、響はテーブルの席につき朝食のトーストを食べ始めた。
「今日の一時間目ってなんだっけ、響」
いつの間にか洗顔から寝癖直しの一連の動作をやり終えていた梓が同じく食卓について朝ご飯を食べ始める。
「確か現代社会だったと思うけど?」
というのも、うちの学校はクラスごとに一週間の時間割が決まっているので、次第に覚えていくはずなのだが。
まあ友人にもそういうやつがいるので実は結構多いのだろう。
「うへーまじでー? あれ苦手なんだよね。言ってることがややこしいんだもん」
愚痴をこぼしながらもりもりと朝ご飯を食べていく姿がなんだか滑稽に思えてきた。
というかこいつの場合は、先生が言ってること云々よりも授業中に寝るから分からないんだろうに。
しかしそんなことを口に出せば梓が朝から饒舌になって捲し立ててくるので響はコーヒーと一緒に言葉を飲み込んだ。
「しょうがないだろ。朝から愚痴っても手遅れだ」
まぁ、俺自身も苦手なのは苦手なんだが。そんな会話を交えつつ朝ご飯を食べ終え、食器を台所へ片付けて歯を磨いて家を出る。こうして朝から今日これからのことについてどうでもいいことを話しながら準備を済ませて学校へ行くといういつも通りの日々がまた始まる。
「行ってきます」
「行ってきまーす!」
響と梓は玄関を開けて朝の空気が澄み渡る外へ出て学校へと向かった。
二人は小学校からずっと一緒の学校、ずっと一緒の道を通って来て、ずっと一緒にいた。
二人はずっとこの日常が続くものだと思っていた、卒業後の進路とかを抜きにして、今この一瞬が永劫に続くものだと保証もなく漠然と思っていた。
こんな平穏で平和な世界で特に変化もなく、暮らしていくんだろうと、そう思っていた。
今日の一時間目の授業。その途中までは。
科目が現代社会というのも、今となっては皮肉的である。今現在の社会を習っているのに、その社会が目に見えてはっきりと崩れ落ちていく様を、響は、響たちは、この後目の当たりにすることになるのだから。
やがて高校の校舎が見えてくる。
響と梓、その他の友人が通う学校。
その生徒、教員が、歴史の目撃者となった。
そして、この日常どころか、世界そのものが全く違うものへと変わっていく、その光景を忘れる者はいないだろう。
響はもう二度と、こんな幸せで他愛もない日常が訪れないのだと悟った。
二人で一緒にずっといられるのだろうという漠然とした感覚ではなく、確信に近い直感で。
歯車が、回りだす。
アイデアが思いつき次第書いていこうと思います。