雲居春人と幽霊少女 1
ピピピピピ――朝だ。起きろー! もう一度だけ言う、起きろー! ……僕は起こしたからな、後で文句を言うなよー。あ、それと、虎雄が言ってたんだが、『ごむよめへの愛もほどほどに』ってどういう意味だ? まさか、お前にもようやく好きな女性が――
「うっせぇぼけぇ!」
朝。最悪な目覚ましボイスで目覚めた俺は、発信源である携帯電話を床へ投げつけていた。虎雄の野郎、要に余計な事を教えやがって。
「あー、思い出した……最悪だ……」
ボリボリと頭をかき、昨夜の出来事を思い出す。逝ってしまった彼女達の事を。彼女達無しで迎える夜を想像する。憂鬱になって来た。これは不味い。可及的速やかに次の嫁達を見つける必要がある。
「ありがとう、メアリー。ありがとう、キャシー。俺は君達との思い出を胸に、新たな一歩を踏み出すよ……」
まずはメアリーの代わりだ。今日は、帰りにアダルトショップへ行こう。何、俺ほどの人間になればアダルトショップに行くのも容易いものさ。緊張するけど。そこまでボンヤリ考えて、ようやくベッドから抜け出す事が出来た。床に投げつけた携帯を拾う。
要との通話は既に切れていた。
ついでに時刻の確認。七時四五分。……七時四五分!?
「マジかよ遅刻だぁぁっ!」
急速に意識が覚醒した俺は、寝室を飛び出して台所へ向かい歯ブラシを喉に突っ込む。
「おえええっ!」
雲居春人の朝は、嘔吐反応から始まるのだ。十分に嘔吐中枢を刺激し完全に目覚めた俺は二十秒で制服を着用し三十秒で髪を整え十秒で朝の踊りを済ませた。準備は万端、食パンを咥えていざ学校へ。
「行ってきます!」
誰も居ない2LDKの我が王国に手を振って、意気揚々と外へ飛び出す。マンションの自動ドアをくぐり抜けると、清々しい程の青空が広がっていた。もうすっかり春の陽気だ。よし、アゲていくぞ!
「ひゃっほう! 遅刻遅刻ー!」
曲がり角での運命的な出会いを期待したものの、今日も何も起こらなかった。畜生。そのまま走り続け、三十分もしない内に学校へ到着。何だ、ちょっと早く着きすぎたな。
「まぁ、元気キャラな俺には丁度いいだろう!」
校門で立ち止まり叫び声を上げる俺を、他の生徒達がチラチラと見咎める。だが、直ぐに『ああ、あいつか』と納得したような顔をして先を急いで行った。痛快だ。
ホップ、ステップ、ジャンプで我が二ーBの教室の前へ。テンションもそのままに扉を開く。
「ちょっと皆聴いてくれ! さっきそこで半ばから切れたバンジージャンプ用の紐を見つけたんだけど、これって警察呼んだ方がいいかな!?」
シーン。賑わっていたであろうクラスを、静寂が支配した。俺の朝一のジャブに吹き出したクラスメイトは僅か二名。それも男子生徒。女子は白い目で俺を見つめていた。新クラスが始まって二週間、俺も大分受け入れられてきたようだ。
ただ、今のはあまりにもシケギャグ過ぎた。次は気をつけよう。俺の勢力図的にも、そろそろ女子人気を得なければまずいのだ。
そんな事を大真面目に考えながら、チラホラと返ってくる挨拶に相槌を打ち、窓際の自分の席へ鞄を置く。……顔を上げれば、いつの間にか十名ほどの女子に囲まれていた。
「えっ、どうした皆! もしかしてさっきのギャグがそんなに気に入ったのか!?」
そう喜んだのも束の間、女子達から受ける相変わらずの白い目に気付き、俺は状況を把握する。
「おはよう、春人!」
俺の一つ前の席に座る桐生要の席に、女子達は集まっていたのだ。要の興味が俺に向いたのが気に入らないのか、彼女達は一斉に俺を睨んだ。
「毎日毎日、マジ邪魔なんですけど……」
「どっか行ってよ、バカ春人!」
「ううう、うるちゃい! 此処は俺の席だぞ! 貴様らこそ邪魔だ馬鹿者ども!」
全く持って煩わしい! 俺は戦闘の舞いを踊り、小娘共を蹴散らした。三々五々散っていく有象無象。皆口々に俺の悪口を言っている。
嗚呼、こんな事してるから、女子に嫌われてるんだな、俺……。
「ありがとう、春人。困ってたんだ、毎朝助かるよ」
俺の気持ちを知らずに、要は申し訳なさそうな笑顔を向けてきた。中性的な笑顔。それはカッコイイと形容するよりも、可愛いと表現するのが相応しい笑顔だった。男なのに、可愛い。それでいてなよなよしていなく、実直で男らしい性格。勉強も出来るし、運動も出来る。特に、剣道の腕前はこの学校で右に出る者は居ない。全国大会の常連選手だ。何だこの超優良物件は。さしづめ俺が四畳一間のボロアパートだとするならば、こいつは億ションか。ふざけやがって。
「うっせぇバーカ! 要のバーカ!」
「何を怒ってるんだ……。それより、今日は遅刻しなくて良かったな」
「ふんっ、感謝なんてしないんだからね!」
そんな億ションなスペックを持つ桐生要だが、何かと俺に世話を焼いてくれている。理由としては、こいつが元々持っている世話焼きな委員長気質が、俺のハチャメチャワンダフル・スクールライフと化学変化を起こした事。加えて、たまたま俺が一人暮らしをしているマンションに住んで居て、たまたま二年連続で同じクラスになったのだ。最早腐れ縁と呼んでも差し支えないだろう。
本当に、何でこいつは女じゃないんだろうか。
「くそう、お前が美少女だったら! 俺は……! 俺は……!」
血涙を流しそうな程顔を歪めた俺を見て、要は心底動揺した声を出した。
「な、なんだよ、気持ち悪い! ボクが女だったら何だったっていうんだ!」
「え、何聞きたいの? あのな、まずは毎朝起こしに来るお前を――」
「――いいっ! それ以上言うな! 気持ち悪いぞ春人っ!」
顔を真赤に染めて、竹刀を手に立ち上がる要。こいつにシモ系の話題はNGだ。この竹刀に、何度叩きのめされた事か。
常に学習している頭脳明晰な俺は、やれやれと肩を竦めて椅子に座った。要も大きく息を吐いて席に着く。今日も俺たちは平常運転だった。ああ、けど、俺“達”と呼ぶには一人足りないな。
「なぁ、まだ虎雄は来てねぇの?」
「ああ、いつもの如くな」
そう言って時計を確認する要。
「欠席じゃないとしたら、そろそろ来る時間だが」
丁度その時、それまで喧しかったクラスの喧騒が、ピタリと止んだ。ピリリとした緊張が奔る。クラス中の視線を一身に浴びて、ドアの前に怠そうに立つ大男が居た。
「来たな」
要の一言が、教室の静寂を打ち破った。皆、何処か気まずそうに男から視線を逸らす。男……村雨虎雄は、ハン、と大仰に鼻で息を吐き歩みを進めると、俺の隣の席へと腰を下ろした。タバコの匂いが俺の鼻を突く。
「くっさっ! お前高校生がさせちゃいけない匂いがぷんぷんしてるぞ!」
「虎雄、タバコは健康に悪いとあれ程言っているのに……!」
「……あー、朝からうるせぇ……」
虎雄はボリボリと金髪に染まった頭を掻き、いかにも怠そうに俺たちに顔を向けてきた。
「朝はお早うだろうが。説教なんざ聞きたかねぇんだよ……」
そう言って、ふああ、と大口を開けて欠伸をする虎雄。その名の通り、まるでライオンがするような、大きな欠伸だった。
「うん、それも最もだな。お早う、虎雄」
「おう」
「なぁ虎雄聴いてくれ! さっきそこで半ばから切れたバンジージャンプ用の紐を――」
「うるせぇ死ね」
……やはり、これは受けが悪いようだ。断腸の思いで封印する事にする。それはそうとして。
「珍しいな、お前が朝から来るなんて」
「あぁ……昨日は徹夜で“鬼ごっこ”してたからな。家にけぇるのも面倒くせぇから、そのまま学校来ちまった」そう言って、二度目の欠伸をする。
「俺はもう寝るぜ。おやすみ」そして、机に突っ伏した。きっとこのまま放課後まで目覚めないつもりなのだろう。
だが、そうは問屋がおろさないのが、我らが優等生、桐生要だ。
「虎雄、毎回思うのだが、鬼ごっことは何だ? お前はこの歳になって鬼ごっこで遊んでいるのか? そんなに面白いのか? 後、授業はきちんと受けるべきだぞ。もちろんちゃんと登校してきのは偉いが――」
「はいストーップ」
いつまでも続きそうな要の姑のような攻撃を、身体を張って遮ってやる。
「こいつにも色々事情があるんだろ」
「事情? 何だ、それは」
「あぁ、それはその……縄張り争いとか? 虎だけに……」
「うん? どういう意味だ?」
疑問符だらけの要に、俺はどう答えて良いものかしばし悩んだ。虎雄は主に生計を建てるために、色々ヤバい仕事に手を出している。腕っ節が強く頭が冴えるこいつは、自分の力だけで暴力の世界を生きているのだ。まぁ、まだ街の何でも屋レベルらしいから、そこまでの心配も要らないのだろうけど。だが、それを優等生の要に喋る訳にはいかない。知れば、要は確実に止めるだろう。それだけでなく、金銭的な援助や、下手をしたら仕事の手伝いまで申し出るかもしれない。
優等生の要に、そんな事をさせる訳にはいかないから、黙って置いてくれと、虎雄に口止めされているのだ。勿論、俺もわざわざ要の耳に入れる必要の無い事だと思っている。
そんな訳で、虎雄の事情を知っているのは、奴の幼馴染であるこの俺だけとなっているのだ。
「えぇと、まぁ、その――」
「もういい。直接聞く。おい、虎雄!」
要が机に突っ伏す虎雄を揺り動かした、その時だ。
ブオオォォン、と、耳を劈く爆音が聞こえた。何事かと窓を覗けば、校庭に珍走団が乱入していた。
「むっ、何だあいつらは」
いかにもそういった連中が嫌いそうな要は、大仰に顔を顰めていた。他のクラスメイト達も似たり寄ったりな反応だ。俺はと言えば、机から顔を上げた虎雄を睨みつけていた。虎雄もこちらに、如何にも面倒くさそうな顔を向けている。アイコンタクトは終わった。あいつらは、虎雄の客らしい。
「ちっ……」
ガタン、と虎雄が立ち上がる。クラスメイト達の視線は校庭でウィリーを繰り返す珍走団に集まっていたが、要は教室を出て行こうとする虎雄に気づいた。
「おい虎雄っ! 何処に行くんだ! まさか喧嘩でもするつもりか?」
「あぁ、ちょっと話つけてくるだけだよ」
ヒラヒラと手を振って廊下へ出た虎雄を追おうとする要の手を、俺は掴んだ。
「何をする春人っ!」
「落ち着け。虎雄が話をつけるって言ってるんだ、ここは任せようぜ」
「何をバカな! このままあいつを行かせていい訳がないだろう!?」
「だから、大丈夫だって。いいから此処で待ってろ、ちょっと虎雄と話てくるから……」
要の返事を聞かず、俺は教室を飛び出した。真面目な要は、こう言っておけばこの場は言うとおりにしてくれるだろう。
「おい、虎雄!」
大股で校門へ向かう虎雄に、昇降口で追いついた。その肩を掴む。
「あぁ? 何だ、どうした」
「手は必要か?」
俺の言葉に、虎雄は不敵な、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「いらねぇよ、ばーか」
「あっそ」
それだけ聞いてしまえば、後は見送るだけだ。校庭に居るのは精々が5、6人。多少増えるとしても、まぁこいつなら大丈夫だろう。
「あっ、そうだ、一つ忘れてた……」
「あん? まだなんかあんのか?」
心底ダルそうに歩みを止めた虎雄に、俺はそれを告げる。
「今日、“部活動”あるからな。加えて今朝は、全校集会だから」
「……おい、それは本当か?」
珍しく動揺した顔を見せる虎雄に、俺は満面の笑みで頷いた。
「くっ、だが大丈夫だ、問題ない。俺なら出来る……絶対に出来る……!」ブツブツと自らを鼓舞する虎雄を見て、俺は思う。
あっ、これはフラグ立ったな、と。
「春人っ! 今、虎雄が奴らと連れっだって行ってしまったぞ! 大丈夫なのか!?」
教室に戻ると、要が血相を変えて俺の元へ駆け寄って来た。見回せば、クラス中の視線が俺に集中している。
「ああ大丈夫大丈夫。あれ、虎雄の友達らしいから。ホラ、あいつ交友関係広いじゃん? だからああいうトリッキーな人達とも仲が良いんだよ」
俺は教室中に聞こえるように大声を出して要を説得する。
「……むぅ、それは問題だ。やはり、あいつとは一度話し合う必要があるな。今後の学生生活、引いては人生に関わる問題だぞ」
「まぁまぁ、それは後で。ほら、授業が始まるし、席に着こうぜ」
「……後で説教だな……」
渋々と席に戻った要を見て、クラスメイト達も席に着いた。間を置かずにチャイムが鳴り、教師が入ってくる。
「えー……。村雨だが、今日は欠席するようだ。それと、さっきの騒ぎについて何か知っているものは、昼休みに職員室まで来るように。それじゃ、出席をとるぞー――」
一瞬、俺の事をチラリと見た山中教諭だったが、何事も無かったかのように出席を取り始めた。やれやれだ、本当に。
「じゃあ、今日は一時間目を使って全校朝会があるから、皆すぐに第一講堂に移動するようにー。はい、解散ー」
そう言って山中教諭は早足で教室を後にした。おそらく、先ほどの虎雄の騒動に対して職員会議でも開かれるのだろう。
さて、そんな事は今となってはもうどうでも良い。昨今の性の乱れぐらいにどうでも良い。
今はそれよりも、全校集会だ。
「行くぞ要! 今は亡き虎雄の意志を継ぎ、我らが姫君の御旗を持つのだ!」
「嫌だ。何でボクがそんな事をしなければならない」
首を振る要の肩を掴む。
「ふざけるな! 貴様それでも夕霧叶ファンクラブの一員かぁ!?」
「いや、ボクはファンクラブには入っていないぞ……」
「ええい、もういい! ならば会長である俺自らが行く! 後に続け皆の者!」
俺の鼓舞に、クラスメイトの約半数が鬨の声を上げた。女子も男子も入り混じって、体育館へと我先に走る。「こら、廊下を走るなー!」やる気の無い教師の注意にモンゴリアン・チョップを心の中で入れ、大講堂裏に隠してある夕霧叶ファンクラブ団旗を手にとった。長さ約二メートル、重さ六キロの立派な代物だ。
「そいやさぁ!」
気合一括、俺は旗をふりふり講堂へ突入。既に照明が落とされている。大勢の生徒達の隙間を縫い、会員達が待つ特別席(講堂の最前列)へと到着する。
「会長! 間もなく、叶様の演説が始まります!」
そう野太い声を上げたのは、会員番号008、誉れある一桁ナンバーの男子生徒だった。俺は鷹揚に頷き、旗を構える。
「夕霧叶様ー! ご入場ー!」
パパパパン! 会員達がクラッカーを打ち鳴らした。講堂を揺るがす程の大拍手を受け、我らが姫君はその麗しい御姿を表した。粛々とステージの中央へ歩くその凛とした姿に皆視線を奪われている。
「おはようございます、朝露高校の皆さん。生徒会長の夕霧叶です」
リン、と鈴が鳴ったような透き通る声が、講堂に響き渡った。俺は叫びだしたい気持ちをグッと堪え、紳士な瞳で彼女を見つめる。
「今日の朝会は、多忙である校長の代わりを、真に恐縮ながら、この私が努めさせて頂きます。まず、以前から言及されていた部活動の予算案ですが――」
美しく整った顔が、唇が、彼女の言葉に合わせて揺れ動く。ステージを照らすスポットライトを受け、漆黒に染まった黒髪がキラキラと輝き、たなびいた。それはまるで天上の調べの如く俺の瞳に焼き付いて離れない。
「――以上が、私からの報告になります。それでは皆さん、この後の授業も頑張ってください」
「ブラボー! ハラショー! ワンダフォー!」
最大限の喝采を送り、旗を全力で振り回す。ファンクラブの会員である吹奏楽部の女子達が楽器を打ち鳴らし、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
――生徒会長、夕霧叶の絶大なる美しさは、既にこの学校の殆どの生徒の心を鷲掴みにしていた。ファンクラブの会員番号は、実に四桁にまで及ぶ。
それだけではない。彼女は日本が世界に誇る財閥グループ、『夕霧』のご令嬢なのだ。その富と名声は彼女の美貌、能力の高さと相まり、事実上、この学校の支配者として君臨していた。彼女がその気になれば、しがない私立の進学校である、この学校の校長の首などいとも容易く飛んでしまうだろう。
だからこそ、このお祭り騒ぎも、夕霧叶が止めようとしない限り、教師達も黙認する他ないのだ。恐るべし、夕霧。
そんな彼女が、俺に向かって目配せをしてきた。目を細め、まるで俺を睨んでいるかのようにも見える。そのまま彼女は虫を追い払うかのように手を振った。
正直、ゾクゾクしました。
だがそれも一瞬の事。即座に意図を汲み取った俺は、会員達へと合図を送る。直後、訓練された兵士のような動きで彼等は道具を片づけ、散らかしたクラッカーの残骸を拾い集めるとバラバラに散っていき、他の生徒の列に紛れ込んだ。そのあまりの手際のよさに、さながら教師達も呆然と見送るだけだった。俺は持っていたドデカい旗を丸め、予てより見をつけていた排気口の中へと投げ込む。丁度生徒や椅子の影になっていて、注視されていない限り、誰にも見つかる事はないだろう。
そのまま身を低くして、我がクラスの席へと、何食わぬ顔で戻る。すると、心底呆れた顔で、要が自分の隣の席に下ろしていたバッグをどけてくれた
「全く毎度毎度、恐れ入るよ。退学になっても知らないぞ?」
「いやぁ、それ程でも」
「褒めてない。……お前は本当に叶さんが好きなんだな」
そう言う要は、どこか怒っているような、それでいて何かを諦めているかのような顔をしていた。――こいつも色々、複雑な奴だなぁ。
「当たり前だろう。俺はあの人には恩がある。それはお前も同じなんだろう?」
「……それもそうだが、僕の場合は……。まぁいい。そんな事より、今日の“部活”の事だ。……荒れなければ、いいんだが……」
要は祈るように瞳を閉じた。その手は心無しか震えている。いや、全く要の言う通りだ。俺もせめて、今日の部活動で血の雨が降らないように祈るとしよう。