中盤①
スキンヘッドで大きな身体、そんな人は駅で何度も見かける。しかし彼の顔にぎょろりとついている目は、しっかりと私たちを睨みつけていたのだ。
目が合ってしまった気がして、息を呑んだ。
「ねー?ちょっと、聞いてるー?」
「え、あ」
その間にもずんずんと近づいてきているその気配に、あかりは全く気づいていない。あと、1メートル。...50センチ。あと...
「ぶぎょ!」
もう真後ろ、という近さまで迫ったその人は、唐突に何か言葉を発した。
うまく聞き取れない。辛うじて「ぶぎょ」という言葉が聞こえた程度。大きな叫び声のはずなのに、どうして。
「ななななななに?!」
やっと後ろの存在に気づいたあかりは、当然パニックできょろきょろしていた。それなのにも関わらず、足は一歩も動かずにその場に縫い止められている。
「ぶぎょ!」
ともう一度。
どう頑張ったって「ぶぎょ」としか聞こえなかった。とっさに半歩下がりいつでも逃げられる体制になっておく。
やっぱり、すこしこわい。
後ろに下げて力を入れた方の脚がぴくぴくとわずかに震えていた。喉もカラカラに熱くなって音が出ない。
「ぶぎょ!」
3度目。冷静さを取り戻しかけた頭で考える。
たどり着いたのはひとつの可能性だった。
《こ の ひ と は 、障 害 を 持 っ て い る の で は な い だ ろ う か ?》
ぷかりとうかんできたその考えも、次の一瞬に壊されることになる。