007 朝食
翌朝。
港の朝は早い。漁師の船は夜明けと共に出発していく。そしてその物音で目覚める者も大勢いた。
ユージもそんな一人である。
「…あー、よく寝た。こんなによく眠ったのは久しぶりだな」
そう言って伸びをする。と、隣に寝ていたマリイも目が覚め、起き上がった。
「おはよう、マリイ」
「おはようございます、ユージさん」
「寒くなかったか? お前ゆうべ、風呂の中で寝ちまったんだぜ」
「え?…そうだったんですか…ごめんなさい」
そう謝ったマリイの身体がぷるっと震えた。それと察したユージは、
「おわっ! トイレは真向かいだ! 漏らすんじゃねーぞ!」
そう言ってマリイの背中を押す。
「は、はい!」
マリイは急いでトイレへと駆け込んだ。
* * *
「お前、好き嫌いは?」
朝食の用意をしながらユージが聞いた。
「たぶん…無いと思います、そんなにいろいろ食べたことないんですけど」
「あー、そっか。まあ、これなら大丈夫だろ」
そう言ってユージが差し出したのは半熟の目玉焼きとトースト。マリイにはホットミルク、自分はコーヒーである。
「いただいていいんですか?」
「ああ。パンにはジャムでもバターでも好きなもの付けろよ」
そう言ってユージ自身はバターを塗って食べ始めた。マリイは苺のジャム。それを一口食べたマリイは、
「おいしい。…パンっておいしいんですね」
そう言ったのでユージは、
「お前、どんなもん喰ってたんだ?」
と聞いた。マリイは恥ずかしそうに、
「硬い、石みたいなパンとか…よくわからない残り物とか、…です」
「あー、やっぱロクなもん喰ってなかったんだな−。だからそんな小っこいのか」
「え? わたし…小さいですか?」
「ああ。初めて見た時、5歳くらいかと思ったからな。7歳には見えなかった」
そう言うとマリイはしょんぼりと俯いてしまった。それを見たユージは、
「別に小さいのが悪いって言ってんじゃねーよ。これから良いもん喰ってりゃ取り戻せるだろうしな」
「…はい」
「ほら、さっさと喰っちまえ」
そう言って自分も残ったパンを頬張った。
「ごちそうさまでした」
食事が終わり、皿とカップを片付ける。マリイも手伝っていた、その手が滑る。
ガチャン、と音がして陶器製のマグカップが割れた。
「お、どうした、怪我はないか?」
その音に振り返ったユージ。だがマリイは、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
うずくまり、頭を抱えて震えていた。
「おい、マリイ」
ユージがその背中に触れると、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
一層震え出すマリイ。耳はぺたんと伏せられ、尻尾は脚の間に挟まれ、身体は丸まり、亀のようだ。
「おいマリイ、いいかげんにしろ」
少し強くユージが言うと、びくっとしたマリイは少し顔を上げた。
「ほら、立てよ」
更にユージが言うと、震えながらのろのろと立ち上がるマリイ。だが顔は伏せられ、目には涙が溜まっている。
「おいマリイ、何か勘違いしてないか? 別にお前を殴ったりしないぞ?」
マリイの態度に思い当たったユージがそう言うと、
「え?」
ようやくマリイは顔を上げた。
「こんくらいのことで怒ったりしねーよ。それより欠片で怪我しなかったか?」
「はい、…大丈夫、で、す」
「そうか、割れたカップは俺が片付けるからな、お前は座って待っていていいぞ」
「…ごめんなさい」
すっかりしょげたマリイ。そんなマリイにユージが、
「もう少ししたらお前の種族の手がかり探しに行こうな」
そう声を掛けると、
「はっ、はい!」
今度は元気よく返事をするマリイであった。
なかなか話が進みません