006 報い
「マリイ、お前…」
マリイの背中に残る傷跡に絶句するユージ。マリイは自分で自分の体を抱きしめるように身体を縮め、涙に溢れた目で振り返り、
「…ごめんなさい…隠していたわけじゃないんです、ただ…なんとなく…ユージさんに見られたくなかったんです」
と、それだけ言った。ユージは、
「その傷は、『ワーデイ』で折檻されたのか?」
「でも…わたしがそそうしたからなんです」
だがユージはそんなマリイに、
「バカ、あんな奴らをかばってどうする」
そう言ってマリイの頭を撫で、
「悪かったな、マリイ。許せや」
そう言うとマリイは驚いた顔で、
「許せだなんてそんな! ユージさんは何も悪くないです!」
「…女の子にこんなことする奴はろくな死に方しないだろうよ」
そう吐き捨てるように言い、
「…さ、背中流してやる」
優しく、撫でるようにマリイの背中を流すのであった。流しながら、
「大丈夫だ、薬付けて、栄養のあるもん喰ってりゃきっと治るさ」
「…ありがとうございます」
そしてお湯で石鹸を流すと、ユージはマリイの両脇に手を差し入れて持ち上げ、そのまま湯船へと向かう。
目の前に揺れる茶色い大きな尻尾を見ながら、
「しかしでかい尻尾だな」
素直な感想を言うと、
「え…? きゃっ! どこ見てるんですか!?」
そしてユージが自分のお尻を見ていることに気が付くと、
「やんっ! ユージさんのえっち!」
そう言って真っ赤になるマリイであった。
湯船に浸かるとユージは、
「マリイ、幸せになれよ、俺がきっとお前の帰る場所を探してやるから」
そう言うとマリイは上気した顔で、
「ユージさんって…お父さまみたいです…わたし…お父さまって知りませんけれど」
そう言うのであった。ユージは苦笑いして、
「おいおい、気持ちはわかるけどよ、お父さまは勘弁してくれよ、まだ二十二なんだぜ」
「ごめんなさい、それじゃあ…お兄さま、でしょうか」
「俺は俺さ、それでいいじゃないか」
そう言ったユージの言葉に、なんとなく拒絶を感じたのか、
「…ごめんなさい、わたしみたいな素性の知れない娘が妹じゃ迷惑ですよね、甘えてついバカなこと言っちゃいました。忘れて下さい」
だがユージは、
「バーカ、そうじゃねえよ、お前はこれから自分を探すんだろ」
笑って言い、
「もしかしたらどこかの国のお姫様かも知れねーぜ、俺がこんな事してたことがばれたらやばいかもな」
冗談交じりにそう言った。と、マリイは、
「そ、そんな! わたしなんかがお姫さまのわけないです!」
必死そうな顔で否定する。ユージはマリイの頭を撫で、
「マリイは素直だな、『もしかしたら』って言ってんだろ、たとえばだよ」
そう言うとまたマリイは済まなそうな顔で、
「ごめんなさい」
と謝った。
「バカ、こんな事で謝んなよ」
そうしてまたマリイの頭を撫でるユージ。撫でながら、
「実を言うとな、マリイ、俺には…」
そう話しかけるが、マリイの反応が鈍い。見ると、お湯に浸かりながら眠ってしまっていた。
「なんだ、寝ちまったのか、こいつ。無理ねーか、まだ7歳だもんな」
ユージはそう独りごち、マリイを抱いて風呂から出る。起こさぬようそっと身体を拭き、下履きに尻尾を通すのに苦労しながら下着を着せた。
「布団なんて無えな、俺の寝床連れてくしかねえか」
マリイを抱き上げ、連れて行くユージ。眠りながらその腕を掴んだマリイが母さま、と言った寝言を聞き、
「ちぇっ、反則だぜ、マリイ」
そう呟いて部屋へと入ったのである。
* * *
そんな頃、歓楽街の一角、『ワーデイ』。
顔を腫らしたモタウリーがチョロゥに報告していた。
「えらく強え奴で、こっちがやられちまいました」
「ふん、失敗したのか。失敗したなら用はない、失せろ」
そう言ってチョロゥは右手を振るが、モタウリーは、
「そりゃあないでしょう、治療費くらいは出して下さいよ」
だがチョロゥは鼻で笑い、
「ふざけるな、失敗した奴にびた一文やれるもんか! 失せろと言ったら失せろ!」
言われたモタウリーは怒りも露わに、
「あんたは金に汚え。今までは黙っていたが、もう我慢がならねえ」
そう言うと指で空中に円を描いた。
話が重くなったのでお色気を入れてみました(あせ
ラストの挿話は蛇足だったかも知れませんが、末路まで描きたかったので。