005 傷痕
ユージとマリイは、快速艇の船室にいた。
「どした、マリイ? さっきから黙りこくって」
俯いたまま何も言わないマリイに、ユージが声を掛けた。
「ユージさん…こんなにいろいろとしていただいても…わたし…何もお返しできません」
そう言ってまた涙ぐむ。ユージは、
「あー、泣くんじゃねーよ。…そうだなー、お前が年頃になったらキスの一つもしてくれよ」
「え? そんなことでよろしいんですか?」
ユージは苦笑しながら、
「ああ、…あんまり深く考えるなよ」
そう言って立ち上がる。
「さーて、風呂入って寝るか。お、そうだ」
そう言ってマリイを手招き、
「風呂で背中流してくれ。それでチャラっつー事にしようぜ」
そう言うとマリイは、
「おフロ? おフロって何ですか?」
と聞き返してきた。ユージは驚いて、
「何? 風呂を知らない?」
「はい…ごめんなさい」
ユージは渋面を作り、
「うーん、そうか、この辺のフーゾクには風呂がないのか…」
と溜め息。
「風呂っつーのはな、俺みたいな大陸の人間には堪えられないもんなんだ。なんつーか、つまり、お湯のプールに浸かるんだよ」
「そうなんですか」
興味深く聞き入るマリイに、
「さすがに風呂は知らなかったか」
笑ってユージがそう言うと、マリイは俯き、小さな声で
「ごめんなさい」
と謝る。ユージは呆れて、
「バカ、謝ってどーする。それよっか風呂に入るぞ、付いて来い」
とマリイを呼んだ。
* * *
設備の整った快速艇と言えども、航海中に風呂に入れるほど水に余裕はない。港に停泊中だからこそ、風呂が湧かせるのであった。
風呂好きなユージがカスタマイズしたこの快速艇にはきちんとした風呂の設備が備えられていた。
「俺は風呂好きなんだ」
そう言いながらユージは着ているものを脱いでいく。一方、マリイは困ったような顔で突っ立っていた。
「ん? どした?」
ユージがそう言うと、
「あの…服…、脱ぐんですか?」
そう聞いてくる。ユージは、
「たりめーだ。恥ずかしがるなんて10年早えーぞ」
そう言われたマリイは切なそうな顔で、
「あまり見ないでくださいね」
そう言って服に手を掛けた。ユージは先に全裸になり、タオルを持って風呂場の戸を開け、
「わかったわかった、先入ってっからよ」
そうして風呂場へ入る。身体を流して湯に浸かり、手足を伸ばした。湯船は大きめに作ってあるのだ。
「ふー、いい気持ちだ。港にいる時だけだかんな、風呂に入れるのは」
そうして手足を伸ばす。そこへ、タオルで身体の前を隠したマリイが入ってきた。
「おー、マリイ、いい湯だぞ、こっちこい」
そう言って手招きする。
「は…はい」
恥ずかしそうにやって来るマリイ。それを湯船の中から両手を伸ばして抱き上げ、一気に湯船に浸けた。二人が悠々入れる大きさである。
「あ…」
「どーだ、マリイ。これが風呂だぜ」
ユージがそう尋ねると、
「はい、とっても気持ちいいです」
そう答えるマリイ。ユージはそんなマリイの頭を撫でる。すると、あ、と小さな声を出し、マリイは涙ぐんだ。慌てるユージ。
「お…どうした? 俺、何か悪い事したか?」
だがマリイは、
「…ちがうんです。…母さま以外の人にこんなにやさしくしてもらったのも、頭なでてもらったのも初めてなんで…」
「そっか。こんなんでよけりゃ、いくらでも撫でてやるぜ」
そう言ってユージはしばらくマリイの頭を撫で続けたのであった。
さすがにのぼせそうになったので、ユージは手を止め、湯船を出る。
「さて、じゃあ背中を流してもらおうかな」
そう言って石鹸を泡立てた。続いて出たマリイはユージの後ろに回り、その背中を一所懸命に擦る。
お湯で身体を流すと、ユージは振り返って、
「さて、じゃあ今度はマリイの背中を洗ってやろう」
そう言うとマリイは慌てて、
「い…いいです、自分で洗えます」
だがユージは笑ってマリイの肩を掴み、
「いいからいいから、遠慮すんなって」
「あっ」
ユージはマリイに背中を向けさせた。すると、
「何!?」
目にしたものにユージの目が見開かれる。
マリイの背中には無数の痣や傷痕が残っていたのである。
マリイ、さっきシャワー浴びてますからね、身体流さなくてもいいとユージは思ったんでしょう。
湯船が大きいのは、手足を伸ばすためと、誰ととは言いませんが、二人で入れるように作ってあるのです。
あ、ユージはロリコンじゃありません、念のため。