102 お嬢様
船をバルーダ伯爵に任せたユージは、ダーモンド島を見て回ることにした。考えてみれば、ここにもバサラや星の欠片の情報が無いとは言い切れない。
「朝っぱらから酒場は開いてないだろうしな」
ようやく食料品関係の店が開店する時刻である。
「まずは自警団の詰め所にでも寄ってみるか」
今更だが、群島国家ザルフェスの島々は、治安を自警団に頼っている。各島間の繋がりが弱いからであり、他の島へ渡れば軽い犯罪なら無効になる程だ。
しかし、例外もあり、殺人などの凶悪犯罪者や他の国から指名手配された犯罪者等は全ての島の自警団から追われる身となる。アルデンシア大陸で指名手配されたバサラはその一人である。
ということで、ユージはまず自警団の詰め所に、バサラの情報が入っていないかどうかを聞きに来たのだ。
「今のところそう言う情報はありませんね」
だがやはりというか、まだバサラは見つかっていないようだ。
「と、すると、次は…」
そんなことを考えていたら。
「なんでわかんないのよ! 確かにこの島なの!?」
ややヒステリックな女の子の声が聞こえた。そちらを見ると、
「まったく、おまけにほとんど店が開いてないじゃない。つまんないわ」
「お嬢様、まだお時間が早うございます。ですから開いている店が少ないのかと」
お付きの侍女がなだめているが、
「そんなことわかってるわよ!」
…典型的なわがままお嬢様って感じだ、とユージは感想を抱く。と、その『お嬢様』と目が合ってしまった。
「ちょっと、そこのあなた」
やばい、と思ったがもう遅い。『お嬢様』はつかつかと歩いて来て、
「バルーダ伯爵の家はどこかしら?」
と聞いてきたのである。
「バルーダ伯爵邸?」
「そう、知っている?」
「ああ、一応」
「それはよかったわ! なら、すぐに案内しなさい」
「俺が?」
「他に誰がいるって言うのよ? つべこべ言ってないでさっさと案内する!」
「…わかったよ」
別に急ぎの用事があるわけでもないので、渋々ながら『お嬢様』を案内して歩き出すユージであった。
10分程歩けばバルーダ伯爵邸である。
「なんだ、こっち側にあったのね。…ドナ、あとでこっちへ船を回すように言っておきなさい」
「はい、かしこまりました」
そうこうしていると、ちょうどバルーダ伯が港の船職人詰め所から戻ってくる所であった。『お嬢様』は足早に近づいていき、
「伯父様!」
「おお、フィオか、早かったな。…ユージが案内してくれたのか、ご苦労さん」
「知り合いですか?」
バルーダ伯に伯父様、と呼びかけた少女を指差してユージが尋ねた。
「おお、儂の妹の子だよ。フィオレ=ネマーニャ=ギンガムという」
「ギンガムって…」
その名を聞いて驚くユージに、
「そうよ、あたしのお祖父様はギンガム侯爵」
フィオレと紹介された少女が言う。
「そうなのだ。侯の三男クアトロと結婚しておってな、今年…いくつになった?」
「伯父様、姪っ子の歳くらい憶えててよ。今年で14よ」
ようやく関係が飲み込めたユージ。
「しかし、来るのは明日ではなかったのか?」
バルーダ伯がフィオレに聞く。
「ええ、そのつもりだったんだけど、潮の具合が良くて、今朝早く着いちゃったのよ。でも島の反対側に着いたものだから、ここへ辿り着くのに苦労しちゃった」
「ははは、それでユージが案内してくれたのか」
「ね、ね、あのユージって、伯父様の何?」
「戦争の時儂の部下だった奴だ」
そう聞いたフィオレはぱっと顔を輝かせて、
「そうなの! じゃあ今でも部下同然ね。…ユージ、これから1週間はこの島にいるから、案内とかするのよ」
「え?」
いきなりそんなことを言われたユージはバルーダ伯の顔を見る、と、伯は知らん顔でそっぽを向いた。
面倒ごとを押しつけられたには違いないが、ギンガム侯との繋がりが出来ることは先の事を考えると良いことでもある。
「やられた…」
今更ながら、今日の出港を止めた事といい、日にちがかかる船の修理を提案してきた事といい、バルーダ伯の策謀に嵌ってしまったことを悟るユージ。
そういえば、こういう人だった、とバルーダ伯を睨むユージであった。
ユージが頭の中でそんな考えをまとめ終わった頃、
「まあそんなわけだからよろしく頼むぞ、ユージ」
実にいい笑顔でバルーダ伯が言ったのである。
「さあ、そういうわけだから、行きましょ、ユージ。あたしのことは特別にフィオ、って呼んでいいわ」
そういうフィオレをあらためて見ると、バルーダ伯と同じ色合いの金髪を肩まで伸ばし、瞳は父親似なのか青ではなくグレイ。身長はユージの肩ぐらい、均整の取れた体つきである。
ユージは、ギンガム侯との繋がりを作るためと心を決めた。フィオレはそんなユージの思惑とは関係なく、
「せっかくこんな暖かいとこに来たんだから泳がない手はないわよね。泳ぎに行くわよ!」
そういってユージの手を引いた。
「はいはい」
歩き出す二人に、
「ユージ、西海岸がいいと思うぞ。儂の名を出せば大抵の料金は只になる」
と、バルーダ伯からのありがたい言葉がかかった。
「西海岸ね、じゃあそこでいいわ。ドナ、水着を急いで持ってきて!」
「はい、かしこまりました」
言いつけられた侍女は身を翻すと、あっという間に見えなくなる。どうやら身体強化の魔法を使えるようだ。
ユージの方はフィオレを連れて西海岸へとゆっくり歩いていったのである。
女っ気ないので新キャラをば。




