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001 闖入者(ちんにゅうしゃ)

 とある世界。

 そこは科学の代わりに魔法が発展した世界での物語。


 群島国家、ザルフェス。大小の島およそ50で構成されている。

 群島国家であるため、どの島も海運が発達し、船が交通手段。これらの船は推進の原動力は風の魔石による風力が主であった。

 魔石は使えば消耗し、砂となる。それを補給できるのが各港。したがって港はどこも賑わっている。

 デルボア島にある港町ランドルも同様。個人所有のクルーザーから、巨大な商船まで、港の穏やかな海面に揺れていた。


 そんな港町からこの物語は始まる。


*   *   *


 夕方。一人の男が港にやってきた。昼間から飲んでいたのか、顔が赤い。歳は20台前半、黒目黒髪、引き締まった身体。だが仕草が若干投げやりである。

 その男は、港に停泊している小型船の一つへと乗り込んだ。持ち船らしい。全長約10メートルの快速艇である。

「さてと、酔い覚ましに、買っておいたリンゴでも食うかな」

 男は船尾にある倉庫のドアに手を掛けながら独り言。と、ノブに掛けたその手が止まる。

「ん?…誰か中にいる気配が」

 緩んでいた顔が引き締まり、油断のない雰囲気をただよわせる。男はドアをゆっくりと、音を立てないように開けた。足音を立てないように倉庫へ入り、後ろ手にドアを閉める。

 もう夕方、倉庫内は暗い。耳を澄ますと息づかいが聞こえた。間違いなく誰かいる。男は目をこらす。床の上にはリンゴの芯が散らばっていた。

「…畜生…」

 南に位置するデルボアではリンゴは貴重だ。それを半分以上食べられてしまった男は怒った。

「こらぁっ! 出てきやがれ! 勝手に俺のリンゴを食いやがって! 大人しく出てこねえと海に叩っ込むぞ!」

 大声を出すと、隅に置いてある木箱の一つが僅かに震えた。男はそれを見逃さず、

「…そこか」

 ゆっくりと近づき、まず魔石ランプを灯す。これは光の魔石を塩水に浸けると発光する事を利用した明かりだ。倉庫内が一気に明るくなった。

 次いで、木箱の蓋を蹴って開ける。そこにいたのは。

「…子供?」

 そこにいたのは子供であった。年頃は5、6歳くらいか。小さい。痩せている。そして頭の上に三角の耳が二つ。尻には大きな尻尾。まごう事なき亜人である。

 この国には普通の人間の他に亜人と呼ばれる、獣の特徴を併せ持つ人間がいた。彼等は亜人と呼ばれ、普通の人間に混じって生活している。特に目立った差別などは無い。

 が、目の前の子供は、髪はばさばさ、尻尾もぼさぼさで、おまけに服はぼろぼろ。どんな生活をしてきたのかと思わせる格好で、胸元にきたないぬいぐるみの人形を抱きしめていた。

 その子供はがたがた震えながら、

「ご…ごめんなさい!…おなかがすいて死にそうだったんです! ちょうどこの船があったんで、いけないとは思ったんですが忍び込んでしまって」

 そして床に頭を打ち付けながら、

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 その様子を見た男は顔をしかめ、子供の襟首を掴む。そして半ばむりやりに身体を引き起こした。

「…あっ…」

 子供は顔をくしゃくしゃにして、

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 ただそう言い続けるだけである。そんな子供の襟首を掴んで男は歩き出した。

「ごめんなさいごめんなさい許して下さい許して下さい…」

「うるせえ! 静かにしろ!」

 そう怒鳴ると子供は喚くのを止め、すすり泣くだけになった。そんな子供を掴んだまま倉庫を出る男。それに気づいた子供がまた叫び出す。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい海に放り出さないで下さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 だが男は構わず、傍らにある部屋の中へ子供を押しやった。そうしておいて壁のつまみをひねる。天井からお湯が流れてきた。火の魔石を利用した温水器によるシャワーである。

「きゃっ」

 いきなりお湯に身体を叩かれた子供は小さく悲鳴を上げる。が、

「自分で洗えるな? よーく洗って出てくるんだぞ? その汚い服は脱いじまえ」

 男はそう言うとシャワールームのドアを閉めた。

「たく…とんでもねー泥棒だ」

 そう吐き捨てるように呟いた男は、自分の部屋へ行き、荷物の中からTシャツとタオルを取り出す。戻ってくるとちょうど子供が顔を出した。

 男は子供にタオルを渡す。

「ちゃんと拭くんだぞ。水を垂らすなよ」

 獣耳も大きな尻尾も濡れそぼってぺちゃんこでみすぼらしいことこの上ない。

 そんな子供が身体を拭き終えたのを見計らい、今度はTシャツを渡し、

「ほら、これでも着てろ」

 子供はそれを頭から被った。大きいので裾を引き摺りそうだが、なんとか着ていられるようだ。その時にはっきりわかったことが一つ。子供は女の子であった。

「よし、こっち来い」

 男が手招きすると、こわごわといった感じで女の子はやってきた。男は居室へと案内し、部屋備え付けのテーブルの前に座る。女の子にも向かい側のスツールに座るように言った。

 言うとおりに座る女の子。その目の前に、コップが差し出された。

「ほれ、飲め」

 そう言われた女の子はおずおずとコップを手にする。そして上目遣いに男を見、

「…いただいていいんですか?」

 そう尋ねた。男が肯くと、コップを両手でそっと持ち、ゆっくりと口を付けた。

「…!」

 中身は温めたミルクだった。一口飲んだあとは夢中でそれを飲み干す。それを見届けた男は、

「まだ飲むか? おかわりもあるぞ」

 そう言って、ポットを指差す。女の子はそれを見つめ、

「あの…これを飲み終えたらわたし…お仕置きされるんでしょうか」

 頬杖を突いていた男はがっくりと項垂うなだれれるが、すぐに元に戻り、

「されたいのか?」

 と聞き返した。女の子は取れそうなくらいに首を振って否定する。

「ならしねーよ。ほれ、早く飲まないと冷めちまうぞ」

 そう言ってミルクポットを押し出した。女の子は、

「ありがとうございます、もう結構です」

 と小さな声で答えた。落ち着いてきたと見た男は、質問を始める。

「よし。まず、お前の名前は? どこから来た?」

 女の子はコップを両手で持ったまま、

「ま、マリイといいます…この町のワーデイというお店で働いてます…」

 その店の名前には聞き覚えがあった。男は行ったことがなかったが、たしか娼館である。それも低級の。

「そうか、俺はユージだ」

「ユージ様ですね」

「様はやめろ、様は」

「あ、はい…では…ユージさん」

「まあいいか。とりあえず、マリイ、お前のことを話してみな」

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