6.類は友を呼ぶというけれど
仲間を探すにも良いとっかかりが無くて、ついお兄さんに相談してしまった。
「お兄さん、誰か良い人材を知りませんか?」
大雑把でいい加減そうなお兄さんに相談してしまうなんて、と自分でも苦笑い。
もっと相談する前に考えるべきだったのではないだろうか。
少なくとも、お兄さんに相談するのは私としては最後の手段にするべきだった。
「人材、ね。優秀な人材…」
でも、既に相談してしまったのだから、何もかもはもう遅い。
きっと私は疲れていたんだ。
居心地の良い里を出て、外の世界は緊張の連続。
加えて仲間集めがはかどらない。そもそも、まず同族に会わない。
皆、『人間』を恐れて隠れているらしく、むしろ堂々と旅をしている私達やお兄
さんが異常者の部類に入るらしい。この時点で私は、それを知らなかったけれど。
そうとは知らず、私は重ねて自分に言い聞かせていた。
そう、きっと、私は疲れていたんだ--と。
「とびきり優秀で信頼できて、使える有能君に心当たりがある」
だから、お兄さんが言った言葉の内容を理解するのに時間がかかった。
理解力が落ちているに違いない。
決して、お兄さんの言葉が信じられなかった訳ではないはず…。
「優秀な人材? ユーノー君って名前?」
「ユーノーじゃなくて、「有能」な? そんな名前じゃないからな」
「有能君ですか…」
お兄さんが紹介する相手として思い浮かべた相手は、果たして実在する相手だろ
うか。そんな失礼なことをぼんやりと思っていた。
「だけど俺、びっくりした」
私がぼんやりしている隙に、アイツが考え無しに発言しようとしている。
止めなくては。そう思った時には既に遅かった。
「アー兄、友達いたんだな。それも、誰かに紹介できる様な友達が」
こ、こいつはなんてことを口走るんだ…!
後先考えない発言に、アイツを止めようと上げた指が凍り付いた気がした。
キラキラと、無邪気な笑顔が眩しい。眩しすぎて直視が辛い。
私はそっと視線を外し、胸中でアイツの愚かさを哀れんだ。
-三分後。
お兄さんに逆さ吊りにされた馬鹿の口から、絞めた雄鶏みたいな悲鳴が聞こえた。
何はともあれ、折角の紹介だ。
お兄さんとは既に一月近く共に放浪した仲なので、気心も知れている。
なんとなく嫌な予感もしたが、私達はお兄さんが推薦したい人材とやらに
会ってみることにした。現在、その人が住んでいるという場所もとても近く、
お兄さんは多分、近くに寄ったついでに紹介する気になったんだろう。
いきなり、なんの約束もなく会うのは気が引けないこともない。
お兄さんは気にするなと笑うが、ここは気にするところだと思う。
ああ、いかにもお兄さんは約束無しで知人の家に突然訪問するタイプだ。
きっと、私が何を気にしているのかも分かってはいまい。
せめて私だけは、相手の不興を買わない様に二人の手綱を引き締めなくては。
失言の多いお馬鹿と、『人間』相手には見境のない戦闘狂……
まだ相手の家にも着いていないのに、今からなんだか疲れた気分が。
今後の対策を立てる為にも、お兄さんに相手がどんな人物なのか聞いてみるか…。
「お兄さん、これから訪ねる方は、どのような方なのですか?
お兄さんが思いつく限り、簡潔に、分かりやすく教えてください」
「あ、俺も気になる。仲間になるかもしれない相手だし、どんな人かは知りたい。
アー兄、正直に答えて良いから教えてよ」
子供二人の真剣な目を受けて、お兄さんはあーとか、うーとか、呻く。
最近気付きましたが、どうやらお兄さん、かなりの子供好きの様子。
子供に真っ直ぐ見つめられておねだりされると、抗いがたく感じるようです。
といっても、私が自分で実践して気づいた訳じゃありません。
お兄さんに遠慮なく甘えるアイツと、それに押し切られるお兄さんの様子を見て
気付いたのです。今のところアイツの勝率は68戦67勝1敗。殆ど負け無しです。
これぞ正しくお強請り。たまにはアイツを見習うのも良いかもしれない。
視線の効果か、とうとうお兄さんが根負けして口を開きます。
その口調は、何処か吹っ切れた様でした。
「彼奴を一言で、簡潔に言い表すとしたら、俺はこう言うだろう…」
そう前置いて、お兄さんは本気の目で言い放った。
「頭脳派テロリスト」
お兄さんの答えを受けて、私とアイツの二人が固まった。
お兄さん、貴方の知り合いだから、どうせろくな相手ではないだろうと思ったけれ
ど…けれど、それはどうなんだろう。
「類友、か……」
正直なアイツの呟きに、私は心の中だけで同意した。