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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
最後の『奴隷市場』
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41.留守番は誰だ



 私達が今回襲撃する『ロセン』は、ちょっと大きな『奴隷市場』だ。

 元々『人間』は群れ集う習性が強いから、その拠点は大きくなるものだけど。

 『ロセン』は街に併設した『奴隷市場』で、今までの『奴隷市場』とはちょっと違う。

 襲撃するにも、今まで通りとはいかないだろう。

 それを思うと、私達は慎重にならざるを得ない。

 ただでさえ、今回の私達にとって、今回の襲撃は勝手の違うものとなるから。



 愚かだったとしか言い様がないが、私達は今まで平気で『砦』を空けてきた。

 酷い時は放置状態だったこともある。

 それが如何に危うく、私達が考え無しだったか。

 皮肉にもそれを私達に知らしめたのは、『人間』が包囲してきた事実。


 『人間』に包囲され、『砦』の中に閉じ込められるのも勿論マズイ。

 だけどそれ以上に、留守中に『人間』に拠点を包囲され、帰れなくなることは更に危険だ。

 もしも帰れなくなれば、私達は拠点を失い、彷徨うことになる。

 今では大分、『解放軍』も増えた。

 この数の集団が拠点も無しに放浪となれば…群れを保てず、瓦解する可能性も高い。

 そうならない為に、私達は対策を立てておくべきだった。


 幾ら爆破魔さんと羽根の人が用意した対人用トラップが信頼できても。

 トラップは積極的に敵を倒してはくれない。

 あまりにも信頼できるトラップに、私達は『砦』への注意が薄れていた。

 

 だから私達は、対策として単純でも効果あるものを選んだ。

 即ち、留守居役を選ぶこと。

 『砦』の留守を守りきり、私達の帰りを待つ者達を。

 絶対に『人間』に負けない。

 絶対に『人間』を『砦』に寄せ付けない。

 むしろ『人間』を壊滅させる。

 そういった人が良いと思うのだが、厳しい条件に人材が限られる。

 確実にそれができ、『砦』を守りきる人物。

 そう考えると、どうしてもアイツの師匠達から選ばざるを得ないのだけど…

 

 一体誰が良いだろう?

 どうせなら、候補の中から得に防衛に向いた人を選びたい。

 『砦』を守るに、相応しい人を…

 だけど候補の人達は………


 お兄さん  → 超好戦的。むしろ『砦』の存在そっちのけで特攻しそうな予感。

       → それで『人間』を壊滅できても、防衛という観点では… ×。

 

 爆破魔さん → 『人間』を前にすると理性を失いやすい危険人物。『砦』など忘れそう。

       → どう考えても不安要素ばかり… ×。


 羽根の人  → 冷静で穏やかと言えば聞こえは良いけれど、今一考えが読めない。

       → 色々と未知数過ぎる… ×。


 あかい人  → 突撃こそ全てとばかりに『砦』を飛び出す姿しか浮かばない。

       → 重度の馬好きに引きこもっていろと言うのは無理が… ×。


 キラキラさん → 本人は悪くないが、野放し状態では良くも悪くも愛憎の源。

        → むしろ、残していった方が火種になりそう… ×。


 剣殺鬼さん → 言わずもがな、戦いとなると見境がない人。本人に自覚はないけれど。

       → 超戦闘向きだけど、やはり防衛には向かない… ×。


 ちっちゃい人 → 本人は立派なしっかりした大人。大人…。大人だった、筈。

        → 何故か無性に見ているだけで心配になってくる… 心情的に、×。


 ストーカー → 論外。

  ・

  ・

  ・

 

「……………」


 …うん。全員、向いてない気がする。誰でも同じだった。

 こうなったらもう、本当に誰でもいい気がする。

 いっそ、あみだくじか何かで決めようかな…。


 ここはひとまず、一応最高責任者(笑)のアイツにも相談してみることにした。

「と、言う訳で。貴方が一緒にお留守番したい相手を選んでよ。誰が相応しいと思う?」

「…その前に先ず、前提がおかしくないか。その言い方は、俺も留守番に聞こえるんだが」

「だって、貴方もお留守番に決めたもの」

「なんで!? 今まで、俺が前線きって行くノリだったよな? 俺も一緒に行く予定だったよな」

「そうだったけど、よく考えてみたら、貴方は最高責任者じゃない。忘れてたけど」

「俺って最高責任者だったのか…?」

 ああ、本人でさえ、こんな認識で大丈夫なのかしら。

 …大丈夫か。その分、周囲のお師匠様達がしっかりしてるもの。

 易々と、留守番は任せられないけれど。

「よく考えてみたら、最高責任者が前線に行くのは可笑しいわよね? 貴方に何かあったら、『解放軍』はどうなると思うの? ここは危険に近づかず、留守番するところでしょう」

「そんな理屈…! 納得できるけど、俺は納得できない!!」

「どっちよ」

 バッサリ切り捨ててやろうか。

 アイツは大変恨みがましそうな目で私を睨んでくる。

 だけど怖くない。

 何年の付き合いだと思っているのか、気心知れまくりのアイツに睨まれても怖くない。

 アイツの本性も何も、全部知ってる私には、睨んだって効果無いと知るが良い。

「という訳で、グターは留守番ね?」

「俺は納得なんてしないからな! 絶対、留守番なんてしない」

「なんで?」

「なんでって…だって、リンネは行くんだろ!?」

「だってまともな回復要員、私だけだもの」

「それなら、俺も行く! お前が行って、俺が行かないなんてあるものか」

 本当に、なんでだろ。

 やけに真剣な顔で言い切るアイツは、真面目なのが睨まれるより怖い。

 さっきまで、こんなノリじゃ無かった気がするのに…。

 真摯な瞳で、直向きにアイツが私を見つめてくるから。

 私は、アイツの真剣な思いを感じるしかない。

 

 そんなに、遠征に行きたいのかと…。


 確かに、影君とも無用に張り合っているみたいだった。

 張り切りすぎて、少し様子もおかしいみたいだった。

 それでも、こんなに行きたがってたなんて知らなかった。

 私はアイツの気持ちを知っているつもりだったけど、ここまでとは汲めていなかった。

 ちょっとだけ、可哀想になる。

「…うん。ごめん、グター。私、貴方の気持ち、分かってなかったみたい」

「え」

「私、貴方がそんなに熱烈な思いを秘めてるなんて、知らなかった」

「え、え…? まさか、本当に分かってくれた…? 四年目にして、やっと?」

 そう、そんなに強い願いだったの。

 遠征に行って、手柄を立てることが。

 もしくは、全ての『奴隷市場』を潰すことが?

 どちらにしろ、熱意があるのは良いことだ。

 そしてそれを無為に潰すことは、気力と熱意、意欲を奪ってしまう。

 ここは一つ、ささやかな願いくらいは叶えてあげるべきだろうか。

「ごめんね。貴方がそんなに『人間』を憎く思っているなんて、知らなかったの」

「『人間』…って、そんなことだろうと思った!!」

 私の前で、何故かがっくりと肩を落としてしまうグター。

 そのまま地面に沈んでいきそうな勢いだ。

「俺はただ、お前が心配で…リンネの傍にいたいだけなのにぃー…」

 アイツが何か言っていた様だけど、それは私の耳に届かなかった。

「ん? グター、何か言ったの?」

「………」

 地面に懐いているアイツからは、くぐもった声しか聞こえない。

 当然ながら、何を言っているのか私には分からなかった。 


「うぅ…また、リンネが勝手に何か勘違いしている気がする…」


 失礼な。そんなことはないよ。

 アイツに答えた私の声にも、アイツは疲れた様に苦笑するだけだった。

 いつの間にこんな諦めた表情なんてする様になったんだろう?

 それは大人の顔に近い気がしたけれど、私にはどんな意味の表情か、厳密には分からない。

 いつも明るいアイツが、いつの間にこんな顔をする様になったんだろう?

 アイツが私を置いて、また何歩も先に行っている様な気がした。

 



更新ペースに関して、お知らせ。


 個人的な事情に由来するのですが、今週からちょっと実生活の方が忙しくなってまいりました。それに伴い、私の身辺がただ今、非常に忙しないことに。

 

 投降開始以来、日に最低でも2話は更新しようと目標を立てていたのですが、毎日、実生活の忙しさ故に疲れ果て、更新ペースが乱れて参りました。

 23,24日に至っては、疲れ果てたあまり注意力散漫状態に。

 お陰で、更新の為に書き上げた話を、2夜連続でうっかり保存しないままに消してしまいました………。


 本作の更新にお付き合い下さり、続きを読んで下さっている皆様に申し訳ありません。ただでさえ乱れがちな更新ペースが更に乱れ、今後も当分は改善できないと思います。

 私の実生活の方が落ち着き、余裕が出てくればまた、一日最低2話の更新を再開したいと思います。

 ですが当分は更新ペースが乱れ、更新しない日さえある可能性はとても高く。

 そのことをどうかご了承頂きたく思います。

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