そして彼は、閃いた
--俺の幼馴染みは、やっぱりとても鈍感だ。
色んな人に知恵を授けて貰っても、中々目標は到達されない。
あまりにも上手くいかない道行き。
難攻不落の相手を前に、俺はどうすればいいのか分からなくなる。
「どれだけ意見の数を集めても、それが標的に適したモノでなければ意味がない…」
唯一、パドレ師匠の言った、その言葉だけが俺の胸に響いた。
うん、そうだよな、
数さえ揃えば、最近流行の数の力で、有用な意見があるかもーなんて考えが甘かった。
数を集めてたった一つ良かった意見が、これ。
しかもよりにもよって、一番参考にしてはいけない人柄のパドレ師匠。
っていうか、パドレ師匠が一番良いって時点で、他の連中の恋愛偏差値は終わってると思う。
…というようなことをずびっと言ってやったら、師匠達は重々しく押し黙った。
ああ、自覚あったんだなぁ。
俺、もしかしてトドメ刺しちゃった?
婚期が気になる年頃の師匠も何人かいるみたいで、師匠の数人は酷い顔をしていた。
無為に誰かの心を傷つけるつもりはなかったけれど、心ない言葉が時に意図しない影響を与える光景を見せつけられ、俺もすっごく気まずい。
今や師匠達の中で平然とした顔をしているのは、フェイ師匠とパドレ師匠のみ。
というか、パドレ師匠が全く気にする素振りがないのは何故…?
こんな問いにこそ、ここぞとばかりに身悶えしそうなのに。
フェイ師匠は何を言っても動じないから、今回も反応が薄かろうと気にならないけど。
「グター」
おっと、そうこうしてたらフェイ師匠に呼びかけられた。
他の人達が重く沈んでいるから、フェイ師匠の視線は俺に集中しまくりだ。
その強すぎる凝視が、痛い。
「そなたの問いには的確に答える術を持たぬ。我々でも役に立てる、他の質問はないか?」
「うわぁ、フェイ師匠はいつだって揺るぎないなぁ」
質問に答える努力も、悩む素振りも見せないフェイ師匠。
堂々と別の質問を寄越せと言い切ったフェイ師匠には、揺るぎないという言葉しかない。
しかし、別の質問。
いきなり言われても、あまり浮かぶモノがない。
何しろ、何か疑問を持った時には間を置かず誰かに尋ねてきた。
誰かが常に傍にいて、それは大抵リンネだからな。大概のことには答えてくれる。
そんな訳で、あまり疑問を溜め込んでないからなー…
何かないかな。
フェイ師匠達に問いかけるのに、相応しい質問か。
確実に、的確に師匠達が答えられる質問。
これがフェイ師匠に限られるとしたら、そうだな…
フェイ師匠の専門って言ったら、やっぱり飛行技術と魔法?
フェイ師匠は俺の魔法の師匠だし。
魔法、魔法か…。
魔法で何か、気になる事ってあったかな。この際、本当に素朴な疑問でもいいんだけど。
もっと使い回しが良くなる方法とか、もっと強力な魔法が使える様になる術とか…。
………ん? 魔法、魔法…魔法?
あ。
そういや、アレがあったか。
心の中、疑問の引き出しをごっそごっそと掻き回してみたら、一つ引きずり出せた。
「師匠ー…俺、一つ気になるんだけどさ。聞いてくれる?」
「うむ。答えられるモノであれば答えよう。答える余地のあるモノであればな」
偉そうなフェイ師匠はいつも通りの通常運転。
俺はフェイ師匠と、もう一人マァ師匠の裾を引いて問いかけた。
「あのさ、魔法の使い方について相談に乗って貰いたいんだけど」
「む? 修行の度に指導しておろう。ほぼ問題はない状態で、今更何を聞こうというのだ?」
「いや、俺だけど、俺に関する相談じゃないというか」
「意味が解らぬ」
「うわー。フェイ師匠に言われちゃったよ」
「うむ。問題はない」
えへんと胸を張るその様子が、何だかとても得意げに見えた。
「それで質問とは?」
「ああ、本題。そうだった。あのさ、使い方で考えてることがあってさ。魔法って、個人個人の力量で使えるのと使えないのがあるじゃん。魔力が足りないとか、技術が足りないとかで俺も使えない魔法が沢山あるよ。そんで考えたんだけど」
「何を? そなたの言うことは当然のことであろう。何が疑問か」
「いやさ、本当に素朴な疑問なんだよ。本当に、思っただけなんだけどさ」
「早く言うが良い」
「リンネが『数の力』『数の力』って連呼してたから思ったんだけどさ、魔法で『数の力』を体現したらどんなことになるかな」
「…つまり?」
「うん。何人もの魔族で力を合わせて一つの魔法を作りあげたらどうなるかな、と」
「……要するに、数人の魔族にそれぞれ同じ魔法を使わせて束ねる、ということか?」
「違うって、一つの魔法を何人かで支えながら、力を合わせて一つの魔法を作りあげるんだよ」
「ふむ。口頭の説明だけでは、よく分からないのだが」
「ええぇ? もう、フェイ師匠、頭良いんだから口の説明だけで分かってよ」
「ならば、そなたはもう少し理路整然と説明できる様になるべきであろう」
憮然とした顔のフェイ師匠。
確かに俺も、説明が足りないかな?
俺はフェイ師匠の傍にしゃがみ込み、枝で地面に図式を書き込んでいく。
沢山の術を束ねて一つにするのではなく、一つの術に複数の魔族が魔力を注ぎ込む。
元より魔力の高い魔族。その力を更に多量に込めた魔法はどうなるのか。
多分、普通の魔法にそんなことをしたら、魔力量が多すぎて暴発する。
そんなことにならない様、暴発しない様にする為には、最初から多量の魔力が込められることを前提にした魔法を開発するべきだと、俺は思う。そんな桁外れの魔力を込めた魔法、きっと一人では支えられないし、発動まで維持する為に色々な工夫は必要だろうけど…
一人ではできないことも、数人集まればできる。リンネはそう言った。
だったら、数人の魔族でかかれば、一人ではできない強力な魔法が使えるんじゃないか?
俺はそんなことを思った次第なんだが…
「つまり、一人では成し遂げられない大規模魔法として初めからある魔法?」
「その通り! フェイ師匠、解りやすく言ってくれて有難う!」
「ふむ。その発想は今まで聞いたこともないな…。魔族は元から共闘という発想がないので、今まで考えた者がいなくても不思議ではないのだが」
「まず、魔法は一人で遣うものっていう常識から崩してきましたね」
「そもそもそんなことが可能なのかどうか…」
いつの間にか復活したマァ師匠も、興味深そうに顔を覗かせる。
今まで考えたこともなかったと、二人の目が言っていた。
んー…と、三人で検討を始めよう案を出し合う。
そんな中、背後からヴィがぼそっと気になる一言。
「それは、『人間』の魔法使いには珍しくない発想じゃ…」
「「「なに?」」」
三人で一斉にヴィに視線を向けたら、ヴィはびくっと身を竦めて硬直した。
ああ、コイツ微妙に他人の視線に怯えるんだよな。
昔から苦労して生きてきたせいだろうけど、本当に今までどんな生活をしてきたんだか。
注目を焙ると萎縮するのは良いけど、脂汗を滲ませて固まるのは普通じゃない。
常識の違う育ちをしたヴィには、俺達の分からないことも沢山あるんだろうけど…。
「どうした、ヴィ。何か意見があるのならば、くっきりはっきり告げるが良い」
そしてやっぱり、空気を読まないフェイ師匠。
読めない、じゃなくて、読まない姿勢が、本当に性悪い。
他人を気にするヴィが、そんな風に言われたら無理をするのは分かるだろうに。
「…『人間』は、魔法使いでも魔族に比べると明らかに魔力が低い。混血の俺でも、純粋に魔力量だけで言えば上だ。そんな『人間』が『魔法』を使おうと思ったら、魔力が足りなくて一人では使えない、ということがある。そんな時、奴らは複数で協力して一つの魔法を維持するんだ」
「ふむ、つまり、今グターが言ったことと同じと言うことか」
「使おうとしている魔法はこっちの方が圧倒的に強いでしょうけど」
なんだか面白そうだな、と師匠二人は呟いて熟考し始める。
そんな二人の様子に、俺は自分の考えに見込みがあるのを知った。
採取的にどんな結果が待っているのかは分からないが、面白そうだと、俺も思ったから。
こうしてリンネには難所で新しい魔法の開発を始めた俺達。
この時点でどんな魔法が出来上がるかなんて、勿論分からなかったけれど…
それがいつしか『禁術』と呼ばれる様になるヤバイモノを作り出す結果になるなんて…
ひたすらリンネの事を気にしていた俺は、それに気づけるだけの想像力に欠けていた。




