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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
幕間 夜の神の加護厚き人達の雑談
76/193

小話・師の助言は犯罪の香り

たわいもない、小さな話題。




 俺の幼馴染みは鈍感だ。


 そろそろ本気で何か手を打つべきかと、そこはかとなく焦りだした頃。


 考えて色々実行してみるけれど、一向に成果が出ない。

 成果が出ないどころか、俺の行動の意味すら気付いて貰えない。

 そんな虚しさから逃げるべく、俺は全力全速で修行に打ち込む。

 その合間合間に様々な人へ修行とは関係ない助言を求めながら。

 

 色々な人に助言は求めたけれど、何となく参考にならない気がする人達がいる。

 師匠達だ。 

 どんな結果になるのか半ば予想がつく。だから、倦厭していた。

 しかし多くの人に聞いてもはかばかしくないので、俺はとうとう自棄になる。

 そんな訳で、全く参考にならないどころか自爆を誘発しそうな気がしたが。

 それでも彼等は師匠。

 弟子のたまの願いにくらい、頼りになるところを見せてほしい。

 いや、戦闘面では頼りになりすぎるんだけどな?

 ただ、なんでか随分年上の筈の、人生経験豊かな筈の彼等が…

 俺にはどうしても、恋愛相談に置いては役立たずにしか思えなかった。


「…と、そんな訳で師匠達。汚名を晴らす為にも相談に乗ってくれ」

 きっちり正座して、土下座一歩手前状態の俺。

 よし、準備はできたとばかり、召集した師匠達に願い出る。

 ソレに対する師匠達の顔は、どことなく気まずげだ。

「なんだか随分と態度が大きいわね。吊すわよ」

「汚名といっても、言っているのは貴方自身でしょう」

「どうせグー君の相談なんて、リンちゃんの関連…」

「年中それで悩んでいるというか、それ以外で悩んでいる姿を見た覚えがないし」

「でも、恋愛面で不安に思うのも無理ないよ? 参謀のあの鈍さじゃ」

「俺達の中に、まともに恋愛経験がある奴っていねぇしな!」

 明るく正直なアシュルーの暴露に、何人かが無言で項垂れた。

 パドレだけは何か反論しようとしたが、マゼラに口を塞がれて終わった。


 グターの師匠達は、何をどう考えても恋愛相談には向かない面々だった。

 それでも例え色ボケでも可愛い弟子の為、彼等は車座になって話し合う。

 だけどあまりにも慣れない内容に、次第に皆だれてきた。

「もうさぁ、お前が女の口説き方伝授すりゃ良いんじゃね?」

「なんですか、それ。女性の口説き方なんて分かる訳ないでしょう?」

 厭きましたと顔に大きく書いたまま、アシュルーがリシェルに寄りかかる。

 自覚はないが、リシェルは此処にいる面々の中では、一番異性に人気がある。

 きょとんと首を傾げるリシェルは、本気で何のことか分かっていない。

 リンネ同様、鈍さには定評のある青年だ。

 一同は思わず顔を見合わせ、誰ともなく溜息を零した。

「んじゃ、グー坊。テメェに一つ良い知恵を授けてやろう」

「なになに、アー師匠。期待はしないけど拝聴するよ」

「ん。嬢ちゃんに酒呑ませろ。前後不覚に陥るまで呑ませ…」

「何馬鹿なこと言ってるんですか、アシュルー!! グター君が本気にして実行したらどうするんですか! 道徳って言葉知ってますか!? 情操教育って何か分かりますか!!?」

 不穏なことを言いかけたアシュルーの頭が、扇で力任せに殴られた。

 殴った当人たるマゼラが、次いで襟首を掴み、がっくがっくと揺さぶり出す。

「お、お、おおおおぉぉぉお!?」

「未来ある若者に不道徳な馬鹿話を吹き込むなんて! 師としてあるまじき事ですよ!」

 この後、アシュルーはマゼラの手によって首まで土に埋められた。

「良いですか、グター君。人として最低限必要な品位や誠意を失っては、潔癖で思慮深いリンネさんに嫌われると心得なさい。まかり間違っても、アシュルーの意見に従ってはいけませんよ」

「はいっ 俺は決して品位と誠意を失う様な真似は致しません!!」

 教え諭すマゼラは、般若の様に恐ろしかった。

 グターの背筋もびしっと伸びて、咄嗟に敬礼してしまう。

 やっぱり相談する相手を間違えたと、グターは痛いほど後悔していた。



 これまで値と暴力と乱闘に青春をかけてきた彼等は、悲しいほどに枯れていた。

 ちなみに積極的に意見を言おうとしたパドレの意見は、どれも参考にならなかった。

 




 

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