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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
幕間 夜の神の加護厚き人達の雑談
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俺と道連れと師匠達

グター視点にて



 俺の幼馴染みは鈍感だ。


 前から知ってたけどな!


 だけどその幼馴染みがいなければ、俺は今、きっと此処にいない。

 誰より大事なアイツは、何故か俺を守ることに腐心することがある。

 そんなアイツを守れる様、強くなるのは俺の仕事。

 その為に辛い目に遭おうとも、絶対に耐えきってみせる!


 そう、決意して実行しているモノの…

 偶に、物凄く心が折れそうになるのは誤魔化せない。

 せめてアイツが鈍感で、俺の情けなさに深く関わらないこと…

 俺の泣き言は聞いても、情けない姿には今のところ気付いていないこと。

 それを神様に感謝しつつ、俺は今日も地獄を見ている。



 建国を叫んで里を飛び出し、もうすぐ四年になるかな。

 俺は相変わらず、鬼師匠達に地獄のしごきを受けていた。


「おい、弟子! 今から女子風呂に乱入してから逃走してこい!!」

「え、えええぇぇぇ!? 何で!?」

「破廉恥厚意を受けた時の女子の底力は凄まじいからだ! 見事逃げ切れたら誉めてやるが、言い訓練になると前から思ってたんだよ!」

「勘弁してよ、ディー師匠! 俺、リンネ一筋だぜ!? それに、覗きは洒落にならないから。『解放軍』のトップでも、容赦なくリンチに遭うから!!」

「それがどうした? 堂々と乱入するのは覗きとは違うだろう」

「そんな問題じゃないよ! リンネに知られたら、俺、死ぬ!!」

「ああ? たかがそんなことで死ねるか! なんなら、直々に地獄送りにしようか!?」

「嫌だ! だが、外聞に関わるから、本当に女子風呂乱入は勘弁して下さい!」

「外聞か………チッ 良いだろう。他のメニューにしてやる」

「っていうか、ディー師匠って俺のマナー講習担当もしてなかったっけ!?」

「マナーが戦場で役に立つか! むしろ、役立たずだ!!」

「俺の少なくない努力が全否定された! 今まで習ったマナー講習は一体!?」


「今日は、フェイル様を讃える詩的表現をお教えするの…」

「うっわ。今日も相変わらずパドレ先生が意味不明すぎる」

「失礼な子には、お仕置き…!」

「止めてよ! 大体、フェイ師匠を讃える表現なんて覚えても、俺使わないよ!?」

「…使うが良いのに。誰も遠慮はいらないの」

「遠慮じゃないから。それに、フェイ師匠の良いところはパドレ師匠の胸の内にしまっておいた方が良いと、俺は思うんだけどなぁ…(遠い目)」

「ふふふ。たまには良いことを言う。そうね、あの方の神々しさは私だけの宝物…!」

「分かってくれた、パドレ師匠!」

「でも、それとこれとで話は別なの。詩的表現を教えることには変わらない。先ずは庭石の上に延々三日くらい座って、月を見上げながらフェイル様を想い続けるの。100首の歌を詠み上げるまで、眠ることも許さない…」

「それ拷問だよ! 三日って、俺、他の予定もあるのに!!」

「全てキャンセルで…「フェイ師匠の修行もあるんだけど」

「…三日じゃなくて、三時間に予定変更するから、真面目にやって」

「それでも三時間………パドレ師匠、そろそろ本来の修行に戻ろう?」

「嫌なの。皆、フェイル様を讃える気持ちが足りなすぎなの」

「その分、パドレ師匠が讃えれば良いじゃないか」

「………目から鱗」

「うん。だから、そろそろ修行に入ろう?」

「それじゃあ、まず庭の岩に…」

「そっちじゃなくて、暗器の使い方の方でお願いします!!」


「よーっし、今日は山を割るぞぉ! 魔法無しで!」

「は!? 岩じゃなくて、山!? しかも、魔法無し!?」

「おう。地底行ってよぅ、ラティの野郎に一杯やられたからな。テメェはそんなことにならない様、特別修行メニュー君でやったんだから感謝しろ」

「アー師匠がラティに…って、ラティ、何をどうやって!?」

「あの反則攻撃を完全に防ぐ方法は一つ。即ち、完全に魔法に頼らず、魔力を一切封じた状態で山を割れる様になること! そうすりゃ、あの野郎を相手でも楽勝だぜ!?」

「アー師匠、俺の能力を考えてメニュー作ってよ。俺、アー師匠じゃないんだから」

「何言うかと思いや…。俺だって、山を割るのは至難だぜ?」

「そんなことをさせようとしないで!? 俺、アー師匠より弱いんだから!」

「なせばなるって、フェイルが言ってたぜ?」

「状況と場合に寄るって!」



 ………うん。中々に理不尽な師匠達だと思う。特に、女性陣。

 中には良い師匠もいるけれど、意味不明で酷い師匠が多すぎる。

 そもそも何故、俺には押しかけ師匠が8人もいるんだ…?

 俺自身が頼んだ覚えもないのに、いつの間にか師匠になっていた方々。

 彼等との修行内容を思い出すと、脂汗が止まらない。

 そんな血と汗と涙と苦難の試練に、一人で耐え続けた、この三年。

 だけど俺の孤独も、終わりを告げようとしている。

 なんでかって?


 道連れができたからだよ。


 その名はヴィ。

 何故かざわめく直感と、警戒心が中々名前を覚えさせてくれなかった奴。

 見た目は絶対に俺達よりも年上なのに、実は同年代で年下疑惑まである。

 その過去が苦労にまみれている為か、周囲の同情独り占めの男だ。

「はは…俺なんて、まだまだ。グー様の恋愛面に降り注ぐ、哀れみに比べたら」

「なんだとう!?」

 滅多に表情を変え無いどころか、口許だけで笑うことすらないアイツ。

 今は貴重すぎる笑みを見せてくれたが、嬉しさは全くない。

 むしろ、哀れみの瞳に反発心が高まるような。

 まあ、悲しいことに哀れまれるのは慣れてるんだけどさっ。

「しかし、今日から本当に、俺も一緒に修行に加わって良いんですか」

「師匠達の意向だよ。見込みがあるから、特別にお前も鍛えたいんだと」

「…俺自身、自分の技能不足は気になってたんで有難いんスけど。でも、『解放軍』トップと一緒にだなんて、俺、身の程知らずじゃないかな」

「気にすんな。多分、お前の思ってるほど、良いもんじゃないから」

 そう、これからこの先に待ち受けるのは地獄の四丁目。

 これから自分が味わうことになる悪夢も知らず、ヴィはひたすら恐縮している。

「どうせお前の仕事は、俺の警護だろ? だったらずっと一緒にいるんだ。その時間に同じ事をしていても、誰も咎めやしないよ」

「そうだろうか…」

 口では結構適当なことを言いつつ、その実で俺は焦っている。

 あまり乗り気ではないアイツの腕をガッチリ掴み、地獄フルコースに巻き込んでご一緒して貰おうと、俺も必死だ。あの地獄は一人で耐えるには厳しすぎる。せめて一人の、苦境を共有できる相手が欲しいんだ。愚痴ったり、頭を抱えたり、奔走したり。そう言ったことを一緒にできる誰かが、俺は欲しい。

 そしてそれは、リンネでは駄目だから。

 リンネには、あんな地獄まで付き合って欲しくないから。

 だから俺は、ここ最近、ずっと他の道連れを探していた。

 そんな折りに丁度良く、俺の護衛に収まったヴィ。

 これはもう、利用して活用するしかあるまいと。


 丈夫で頑丈、根気があって忍耐力も花丸。

 本当に良い時期に、良い仲間が増えた。

 これから地獄を見て、どんどん死んだ魚の目がコイツも得意になっていくんだろうな。

 そう思ったけれど、特に何のアドバイスもすることなく。

 俺は道連れの存在に内心うきうきとしながら、地獄の四丁目に足を踏み入れた。



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