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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
規格外の青年たち
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4.お兄さんのお説教

 私とアイツが走りだして、3分も経たない内だった。

 私達の背後…置き去りにした『人間』達のいる方から、悲鳴が聞こえてきた。

 里を飛び出したは良いものの、正直に言うと私もアイツも実は『人間』を殺す

覚悟なんて未だできていない。自分達と同等の意思を、感情を持った相手の命を絶つ

のはとても勇気が要ることだ。

 私達には、その勇気を用意するだけの準備が整っていなかった。

 勢いだけで飛び出して来たから、私達は今、物凄く中途半端だったのだ。

 そんな私達だから、背後から悲鳴が聞こえてきたことにとても狼狽えた。

 もしかしたら私達のしたこと(目潰し)が原因で、何か取り返しのつかないことが

起きたのでは…。その恐ろしさに、現実を見る勇気も不足しているというのに、

私達は足を止めて振り返ってしまった。物凄く気になって、不安になって、見て

確かめずにはいられなかった。

 本当はそのまま、足を止めずに走り去るのが正解だと分かっていたのに。

 正解だから迷わず選び取る。そう割り切るには、私達は未だ未熟だったんだ。


 振り返って、予想外の光景にびっくりした。

 私とアイツが予想したモノは、目が見えない『人間』達が取り乱すまま同士討ち

したとか、視力が効かない為に事故に遭ったとか、そういった光景。

私達がしたことが引き金となり、起きた惨事。私達の行動が直接の原因となって、

彼等の心身に損害が与えられること。

 人を傷つけることができる程、割り切ることのできていない私達にとって、

何より恐ろしい光景。

 だけど私達の目に飛び込んできたのは、「私達が」ではなく全く見知らぬ

「第三者」が『人間』を蹂躙する姿だった。ええ、私達の予想を超えた展開です。

 活き活きと楽しそうに獰猛に、知らないお兄さんが『人間』をいたぶっています。

 子供にはちょっと、精神衛生上よろしくない光景です。刺激が強すぎます。

 というか、あのお兄さんちょっと凄いです。

 種族は魔族で間違いないと思いますが、身体強化している形跡がないのに、

運動性能が物凄いことになっている。跳び上がれば滞空時間が凄いし、拳を振るえば

地を割り、岩を割り、大樹をへし折り…って本当に魔族? 竜人族の間違いじゃない?

 魔族の身体能力はそりゃ、高いです。でも、いくらなんでもあのお兄さんは

魔族の範疇を飛び越えんばかりの常識外戦闘力を発揮している様に見えるような。

 そんな力で容赦なく『人間』に跳びかかる姿は、とても大人げないが。

「おおー…」

 隣でアイツが、状況も忘れて悠長に呟いている。

 本気で感心した顔で、「すげぇすげぇ!」と気付けば観戦態勢に。

 男の子って、喧嘩が強い人が好きだよね…。

 あのお兄さんがしているのは喧嘩じゃなくて、蹂躙だけどね。


 一通り『人間』を嬲ってすっきりしたのか、お兄さんが私達の方へやって来た。

『人間』は一纏めに荒縄で縛り上げられている。今後の生贄にでもするつもりか。

 私達の一歩手前で立ち止まり、お兄さんは呑気に突っ立っていた私達を

厳しい顔で見下ろした。あ、なんだか叱られる予感が…

「お前等、馬鹿か?」

 お兄さんから発せられた、あまりに簡潔な一言。だけど私にとっては、何より

衝撃の大きな一言。は、初めて馬鹿呼ばわりされた…!

 アイツは頻繁に馬鹿扱いされていたので慣れたもの、初対面の相手の罵り

にものほほんと構えているが、私の方はそうはいかない。

 お兄さんの登場で助かったと思っていた。頬は確実に、安堵に緩んでいた。

 今それが、瞬間的に引き締まった上で引きつった。

「男が女を守ろうとする姿は立派だし、目潰しして逃げようって行動も誉めて

良い。上手に逃げられてたしな。目潰しの仕方も攪乱も良い感じだった。

だけど何だ? あの最初の硬直っぷりは。お前等、大人しく『人間』の食い物に

される気か? どんだけとろいんだよ。ガキでもこの辺の奴なら出会い頭に一目散

だぞ。脇目もふらず、なりふり構わず初期動作でダッシュだぞ」

 …本気でお説教が始まっている。

 同族とはいえ、見ず知らずの子供を相手にこの態度。

 本来はかなり面倒見が良く、加えて人情家に違いない。

 私達の身を本気で案じている。これも子供の特権…かな?


 この出会い、この瞬間。

 私もアイツも、これからこのお兄さんと深く関わっていくとは思っていなかった。

 そりゃ、強いけど。でも、嬉々として『人間』に襲いかかる姿に、二人揃って

顔を引きつらせ、盛大にひいていた。

 なんとなく、お近づきになりがたく思っていた。

 そんなお兄さんが、まさか私達の最初の仲間になろうとは……

 それどころか、この後に仲間達を率いて導いていくことになるアイツを、彼が

師匠の一人として鍛えていくことになろうとは……欠片も思っていなかったのです。


 しごかれまくって泣きを見ることになるアイツ。

 …アイツの未来に、幸あれ。

お兄さんの名前はアシュルーさん。

外見は二十代くらいの、飄々とした雰囲気の青年。

身体能力に優れる魔族の中でも規格外の腕力と敏捷性を持つ。

暴れるのが若干好きな、気の良いお兄さん。

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