地底世界の迎撃戦(迎え撃つのは戦闘狂)
闇夜の中で彼等が遭遇したのは、うっすらと晴れた雲間から、三日月の雫が零れた頃。
魔族の警戒に『人間』が引っかかった瞬間から、激しい戦闘が始まろうとしていた。
「っ やはり、『人間』か…!」
ラフェスの振るう剣は、鋼ではないように錯覚させる赤い色をしていた。
血を吸えば吸う程、持ち主が血に濡れれば濡れる程、威力を増していく呪われた剣。
彼にとって、これ程に相応しい剣は他にない。
乱戦の中、彼の握る剣は、禍々しくも一際目立つ光を放った。
それも、ぎらつくアシュルーの眼力に比べれば、まだまだだったのだが。
「けけけけけっ テメェ等、祭りだ! 血祭りだ! 殴りまくるぞ!!」
誰が一番広範囲で悲惨な血祭りを繰り広げたか、競って比べるぞーと、アシュルー。
夜闇の中に響きわたったその声に、ラフェスの顔から血の気が失せる。
「っアシュルー!! きさっ 血祭りは控えろと言っただろう!?」
ラフェスの声は、アシュルーには届かない。
そもそもラフェス自身、本来ならば諫める、引き留めると言った行動に向いていない。
おまけに乱戦の中、あくまで彼の仕事は敵を切り刻むことであり、頭に血が上った挙げ句に暴走しだした同僚が味方まで殴りまくらない様に目を光らせることではない。
そう自覚していたので、ラフェスは早々に他の者に重荷を押しつけることにした。
「おい! アシュルー!? お前達、アシュルーその他が暴走しない様、重々気をつけろ」
「「ええぇぇぇ!!?」」
部下達が悲鳴を上げていたが、俺の知ったことではないな。
気にしないことにして、全部投げてしまおう。
ラフェスは自分にできないこと、努力しても無駄なことは、しない主義だった。
「おらぁ! けけけけけっ」
「退避! 退避ぃ! 皆、逃げろ! アシュルー様に巻き添えにされるぞ!!」
「一緒くたに俺達まで殴るのは止めて下さいよ!」
「ばかっ こっちに連れてくんな!」
「あっち! 敵はあっちです、アシュルー様! あっち行って下さい!」
「「うわあぁぁ!!」」
「敵の攻撃より、味方からの被害の方がでかいって、冗談にもならないだろ!!」
「うわぁ。魔法! 魔法使ってきたぞ!」
「あー。同胞の魔法に比べれば、マシ…かなぁ?」
「それでも痛いことには変わらんだろうが!!」
「防げ、防げ!!」
「馬鹿っ 剣で防げる訳ないだろ! だからって、籠手でガードは更に無理だ!」
「袋投げろ! 袋! ラティさんに貰った、刺草の種入り小袋あっただろ」
「あっ あの、魔力吸い取るやつな! ていっ」
「「…おおおぉぉ! ラティさんの御利益すげぇ!!」」
「わぁ! 羅刹が、悪鬼羅刹が降臨した!」
「阿呆…あれは悪鬼羅刹じゃない、剣殺鬼様だ!!」
「ぎゃぁぁああ!! 剣殺鬼様が現役時代の目に戻ってるぅ!」
「目が、目が怖すぎる! 止めて! こっち見ないで!」
「お、おにぃぃぃぃ!!」
「注意報! 注意報! たった今ここから血の雨が降る予感!!」
「にぃげぇろおぉぉ!」
戦場では、かなりの混乱が極められていた。
流石に血の気が多く、乱闘好きな魔族達。
戦いの中で高揚し、彼等は時に味方も巻き添えにしつつ、浴びる様に血を降らせた。
武器を振るい、または拳で『人間』を潰さんとする魔族達。
彼等の数は、十五名程度。
対する『人間』の襲撃者は、三十を少々越える。
『人間』の数は、本来五十余名。
その数が足りないということ。
魔族の者達は、それを知らなかった。
己達が足止めにあっていること、目の前の哀れな被害者達が囮であること。
それを知らずに、(主にアシュルーが)活き活きと暴れていた。
襲撃の中奮闘するラフェス達とは離れた場所にて。
メイラと共に待機していたラティは、情報の統括を頑張っていた。
道なりに生やした銀の刺草は、全て彼の『分身』を親とするモノ。
彼にとっては子も同じ。
その刺草が拾う音を聞き分け、異変がないか、異音は無いかと集中していた。
彼の耳に、ふわっとした情報が届く。
「えー…?」
「え? どうしたんですか、ラティ君」
「あー、うん。何か、今入った情報なんですけどね?」
「はい」
「どうも別働隊がいるみたい何ですよねー?」
「って、ええぇ!?」
「戦闘の派手さに紛れて、こっそりこっちに向かってるみたいですよぉ?」
「ええぇ!!?って、それこそ驚いてる場合じゃないですよ!!」
「どうしましょ?」
「味方を呼ぶしかないじゃないですか。此処にいる戦力じゃ、対応できませんよ」
「いやー…それが、皆さん血に酔いしれて興奮状態ですね。呼びかけに気付いてくれません」
「お、終わった…」
脳天気なラティの様子に、メイラはさらさらの灰になりそうな気がした。
ふわっと笑いっぱなしのラティにイラッとする。
思わずラティの両頬をぎゅむっと掴み、ぐいぐい引っ張ってみる。
「メイラさぁん? こんなことしてる間に、罠を増量するなり、改良するなり、そうやってコツコツ地道な準備を確認する方が建設的ですよ?」
「言われてみれば、その通りですね!!」
「そうそう、地底の皆さんが援軍に駆けつけてくれるまでの我慢です。頑張りましょー」
「…そう言う、ラティさんもお手伝いするんですよ?」
「え!?」
「え、っって、何を驚いてるんです! 当たり前ですからね!?」
驚き慌て、あわあわと部下も引き回しながら混乱するメイラ。
メイラとしては、大概の敵はアシュルーとラフェスの血みどろコンビが殲滅するだろうと思っていた。戦う覚悟はあるが、何となくのほほんと構えていたことは否定できない。
此処に敵が迫っていると聞き、後方で構えていた魔族達は、大急ぎで準備を整えるのだった。
地底の援軍がいつ来るのかは、分からない。
それでも出来る限りの足止めを実行すべく、魔族達は踏み留まる。
血の気の多い武闘派の皆さんは、流血の宴に酔いしれていたが。
その後方、今ひとつ直接戦闘が苦手な者達による、持久戦。
余裕が無く、実力が足りないからこその不安。心配。
それに後押しされて、設置される罠がどんどん凶悪度を増していく。
戦闘に自信のない者達による、洒落にならない罠が発動しようとしていた。
迎え撃たれる『人間』達には、大変災難なことである。
ちょっと途中、手抜きかなーとは思いました。
しかし余計な注釈を付けるよりも、台詞だけで面白いかなーと。
はい、出来心です。




