地底世界の昼と夜(あって無き様な物)
今回は少し短めになります。
「青空が恋しい…」
メイラが、ポツリと言った。
「俺は夜空が良い。むしろ、月が見てぇ」
それに応じる様に、アシュルーも呟く。
「どっちでも良い。地上に戻りたい」
別に誰も話をしようとは思っていない。
だが何となく、付き合いの様な惰性で俺も心情を口にする。
「此処にいたら…睡眠不足で死にそうだ」
ぐったりとテーブルに突っ伏したまま、俺達は心身共に疲れていた。
地下妖精の住まう、地底の国。
此処は昼も夜もあってなき様な物。
むしろ、殆ど無いに等しい。
妖精にとって、昼夜の違いなど全く気にするべき事ではないらしく、俺達は生活習慣の違いに疲れ果てていた。これが地上の妖精であれば、植物と共に生きる彼等のこと、昼間は活性化し、夜は規則正しく眠る生活を基本としている。偶に例外はあるが。
しかし此処は地下の国。地下の妖精の国。
朝、昼、夜、それって何? と首を傾げる妖精もいるくらいだ。
此処では、昼や夜といった区切りが全然無かった…。
そして悪戯好き、騒動好き、宴会好きの妖精族。
此処では丸一日どころか連日連夜、時間など全く気にする素振りもない喧噪が続いている。
宴会と、騒動。とにかく騒いだモノ勝ちと言わんばかりのお祭り騒ぎ。
妖精は一体いつ眠っているのか、この喧噪の中でも眠れるというのか…
俺達、地上で天体の運行に従って生活する魔物には、絶対に無理だ。
一日中変わらぬ空の色。というか、天井の色。
煌々と照らされ、変わらずに明々照らし続けられる照明。
そして睡眠妨害も良いところの雑多な騒動。眠れないにも程がある。
こんな所にずっと居続けたら発狂すると、魔族の間では言い伝わっている。
その意味するところを、ひしひしと実感している俺達。
別に言葉の意味の真偽など、身を以て思い知りたくなんて無かった。
発注した武器が揃うまで、俺達は地底国に滞在する予定だったのだが…
予定の半分も行かないうちに、俺達は限界に達しようとしていた。
「もう駄目だ。耐えられない。地上行くぞ」
俺が提案と共に立ち上がると、他の魔族達も次々に立ち上がる。
妖精のラティだけは図太いことこの上なく、この騒音の中でぐっすり安らかに寝ていたが。
俺やメイラだけでなく、体力化け物級のアシュルーまで、寝不足で隈を作っている。
苛つきも最高潮で、今、誰かに絡まれたら本気で乱闘してしまう自信がある。
ギリギリまで削られた体力で足取りも遅く、しかし環境の合わない地底から速く逃れたい一心で、俺達は出来る限りの速度を心がけ、地上を目指す。
地底との出入り口がある岩山も岩山で、俺達とは環境が合わないのだが…
それでも此処よりはマシだろう。
俺達はこの日から、夜の間だけは地上で野営することに決めた。
そうすると温かい寝床も快適な宿もなく、寒さ厳しさに耐える夜を過ごすことになるが…
反対する者は、誰もいなかった。




