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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
番外 青年達は生活習慣の違いに苦労中
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地底世界の名産品(キラキラ路線)



 地下妖精の国には、地上に勝るとされる名品の分野がある。

 それはどれも鉱物に関わる物となるのは、彼等の岩女神を崇める性質故か。

 有名な物では刃物をはじめとする武器の類。

 類似品として、金属を使った生活用品。

 巧みな加工技術によって、地上の権力者や有力者を惹きつける貴金属の類。

 女性を魅了する、星の様に美しい宝石類。不思議な揺らめきを見せる硝子工芸。

 それらの魅力を高める、彫金などの細工技術。

 金属や貴石類の扱いに長けた彼等の作品は、時に至高の芸術品と呼ばれる。


 彼等の巧みな手先から生み出される芸術品の数々は、彼等が『人間』に狙われる所以となる。

 容姿では、妖精族に負ける。魔力や身体能力もそれ程高い訳ではない。

 岩を崇めるだけあり、異様に頑丈だが。目立った能力は細工技術や鉱脈を見つける第六感。

 『人間』は彼等の持つ個の資質と言うよりも、彼等の生み出す技術や富を欲の目で見定める。

 地下に引きこもる彼等が滅多に地上へ顔を出さないのは、狙われる為か、逃れる為か。

 何にせよ、彼等が地上と交易を持ちつつも単独で地上に出ない性質は、彼等が『人間』に捕まりにくい状況を作るのに功を奏している。

 いつまでもそうであってほしいと、地上に住む『人間』以外の種族は願っている。

 しかし欲に目が眩みやすい『人間』を相手に、その状況がいつまでも続く物だろうか。

 

 彼等の身を案じ、状況を変わらぬ事を祈る者は多い。

 しかし、彼等の身を置く環境、それに纏わる諸処の事情。

 その状況に、いつまでも『人間』の手が及ばずにいられるだろうか…

 真に地下妖精の身を憂う者程、分かっている。

 いつまでも、状況が変わらないことなどないと。

 ましてや、地上では騒乱が起きようとしている。

 虐げられる地位から、魔族が奮起し、父祖の血を取り戻そうと行動を開始したのだから。

 魔族は勿論のこと、『人間』とて、より強力な武具を求める様になるだろう。

 そうなった時、『人間』が求める物は…

 今までよりも確実に強力な武具を得ようと思えば、誰だって地下妖精を思い描く。

 地下に『人間』の手が伸びる日は、そう遠くあるまい。


 多くの者は、彼等の置かれた状況が近いうちに変わってしまうだろうと

 そう、確信していたのである。


 そのことも予想して、実はラフェス達は地下へ派遣されていたのだが。

 リンネの期待した、地下での警戒強化に関する警告や、兵力増強の手伝い等の助力任務。

 それらの任務を、はっきりとは伝えていなかった為…

 残念なことだが、当のラフェス達自身にそんな自覚は全くなかった。



 地下は地上に比べると限られた空間だが、閉塞感を得ずに済む程には広い。

 場合によっては地下だと言うことを忘れるくらいには、広い。

 青い空も星の瞬く空もないが、代わりに幻想的な発光性の苔による明るい空間。

 難点を言えば、地下にいると時間の感覚がなくなることだろう。

 だがそれくらいしか不満を感じないのは、妖精達の努力による。

 新鮮な空気が通い、水も食料も楽しめる味の良さ。

 そんな環境で、しかし滞在一週間に達するラフェス達は疲れていた。疲労の極致だった。

 空の色が変わらないせいで、時間の経過が分からない。

 そうなると、体内時計が狂っていく。

 生活習慣と時間の感覚の違いによって、アシュルーでさえも疲れた顔をしていた。

「駄目だ。此処にいたら、腐る」

 今にも暴れそうな顔で、アシュルーが言う。

「そうですか?」

 ケロッとした顔をしているのは、ラティだけだ。

 彼は妖精なので、魔族の一行とは感覚が違うらしい。

「この地底でじっとしているのは、魔族の性に合わないんですよ」

「どこか気分転換にでもでた方が良さそうだな」

「随行した部下達も皆、どんよりしていましたから。その方がよろしいかと」

「覇気が日に日に失われているようだ。何か、気晴らしは必要だろうな」

 そう言って、地下の中を敢行するのも既に一週間近く。

 結局各々の判断で自由行動となり、与えられた自由時間を多くの者は寝て過ごそうとした。

 そんな中、ラフェスだけがラティを連れて、宛がわれた宿舎を出る。

 彼がラティに案内させたのは、『宝石市場』と呼ばれる一角。

 外界から地底へと訪れる物の殆どが、一度は足を踏み入れる場所。

 別名、『お土産市場』だった。


「こんな所に何の用ですか?」

「無論、土産を探すに決まっているだろう」

「あ、成る程。地上の妖精は特に喜ばない物が多いんで失念してました」

 男二人で連れ立って、宝飾品の並べ立てられた露天を覗いていく。

 しかし所詮は男二人。しかも片方はアクセサリーとは無縁の無骨な辻斬り(元)。

 品定めするにも、煌びやかな宝飾品は、物の善し悪しが分からない。

「ラフェスさん、何方にお土産ですか? 妹さん? それとも、何方かいい人でも?」

「ラティ、そう言えば貴様、そういう下世話な話が好きだったな」

「やだな、下世話だなんて。ただの恋バナ好きですよ。だって、ときめくじゃないですか」

「それで偶に若い女達に混じって騒ぐのか? あの光景は違和感が凄いんだが」

「個人の趣味趣向ですよ。堅いこと言わないで下さいよ。みんなとも良好な仲なんですから」

「…俺が口を挟むことではないか」

 何となくげんなりしながら、ラフェスは目的に沿う物を探そうと目を動かす。

 この露天市場は、煌々しい品に溢れすぎていて、中々目的が見定められない。

「それで、何方に贈るんですか? やっぱり、誰か秘密の恋人でも?」

「…詮索は無用だ。あまり首を突っ込みすぎるのも感心しない」

「そんなこと言わないで下さいよ。此処まで案内したのは僕なんですから、少しは良いでしょ?」

「………」

 何故、この少年を道案内に選んだのかと、青年の心中に後悔が生まれる。

 だが、うきうき活き活きした妖精は気にしない。

 悪戯好きで、人の愛憎入り乱れる光景を好む妖精は地上・地底問わず多い。

 恋の話となったら、うきうきしないではいられないのだ。

「強いて言うのならば、妹への土産だ。それから一つ、頼まれごともある」

「あー…やっぱり、妹さんか。ラフェスさん、目立った相手っていませんしね」

 三ヶ月前に一つ話が駄目になってますしぃと呟いたラティに、ラフェスの殺意が芽生える。

「………何故、知っている?」

「あ」

 露骨にしまったという顔で、ラティが笑顔を引きつらせる。

 藪蛇をつついてしまったことに気付き、急いで話題転換を図ることにした。

 これで話が逸れなければ、逃走もやむを得ないと覚悟する。

「そ、そういえば、頼まれごとって? 何方かのお使いですか。宝石に興味がある方ですか?」

「ん? ああ、頼まれごとか…」

 話題を逸らす為に放った一言に、ラフェスが思案顔を深める。

 何事か思い悩む顔に、先程までの殺意は見えない。

 ラフェスはあまり苛立ちを引きずる方ではないし、ラティは助かったと棟を撫で下ろした。

「そうだ、ラティ。貴様、地底にはそこそこ慣れているのだろう?」

「まあ、同じ妖精同士、森と地底は交流がありますからね。僕も初めてではないですよ」

「興味が無くとも、宝石市場を案内できる程なのだろう」

「普通に綺麗ですからね。積極的に欲しいとは思いませんけど、見物目的では何度か来たことありますよ。それに妖精でも、身を飾ることが楽しい時期って女性ならあるものですか…」

 何度か故郷の姉や親戚の使いで来たことがあるというラティは、珍しく憔悴して見えた。

 今度はラフェスがラティの様子に、気まずそうな顔を向ける。

 彼とて妹がいる身、何となく、ラティの様子からその苦労を察したのだろう。

「そ、そうか…だが、そうなら、此処にもある程度詳しいのだな?」

「不本意ながら、大概の宝石店には顔を出したことがあります」

「それは、今回に限っては僥倖だな。助かる。ちょっと案内してくれないか」

「まー、いいですけど。代わりに、何方のお使いか教えて下さいよ」

 仕方ないなと苦笑を漏らし、二人は連れだって歩いていく。

 向かう先は、地底の宝飾品店でも老舗の一つ。

 既製品よりも、オーダーメイドの品を手広く扱う高級店だ。

「本当に、此処で良いんですか? 此処、お高いですよ」

「構わない。むしろ、金をかけてでも良い品を得られる方が良いんだ」

「『解放軍』の実状を思うと、あまり手のでない場所だと思いますけどねー?」

「資金は充分に預かってきた。それに、煌魔水晶もある」

 煌魔水晶は、魔族にしか作れない特殊な水晶。その美しさと利便性は、多くの者が重宝する。

 その為、魔族の商売取引で最も多く対価として使われる品でもある。

 ある意味、魔族にとっては自力で生産できる貨幣代わりのようなものだ。

 ラフェスはそれを、懐から大きな巾着で取り出した。

 中に詰められた水晶の色は、メイラの持っていた治癒の石とは違う。

 治癒の色は無かったが、代わりに多種多様、様々な色の水晶が多く取りそろえられている。

「うわぁ!! 何でそんなに持ってるんですか!? 一財産じゃないですかぁ…」

「我が主君より、託されたのだ」

「グター君から?」

 ラフェスの持っている巾着の中身は、グターがコツコツと貯めたお小遣い。

 …を元手に自力で増やし、買い溜めた水晶を自分で煌魔水晶にした物だった。

「主君が、使い切っても良いから、参謀への贈り物を注文してこいと…」

「グター君…」

 いつまで経っても相手に好意を気付いて貰えない、グター。

 その涙ぐましい努力の数々を思い出し、妙に二人はしんみりしてしまった。

「プレゼント作戦なんて、今更だと思うけど…」

「だが、そのくらい直接的な手段に出ないと、あの方には気付いて貰えないのでは?」

「でも前、もっと直接的な手段に訴えても気付いて貰えてなかったよ?」

「主君も、一縷の望みくらいの気持ちなのではないだろうか」

「いい加減、諦めた方が良いんじゃないかな…」

「脈無しには見えないから、思い切りがつかないのだろう。俺としても、是非ともお二人に上手くいってほしいと思っている。あの方々は、本当にお似合いだから…」

「一途なのは素敵だけど、哀れというか、なんというか…」

 上手く行くと良いね。

 二人は同じ思いで胸を温めつつ、若き『解放軍』リーダーの恋路が上手くいくことを祈った。

「それで、グター君のプレゼント作戦は分かったけど、何頼まれたの? 腕輪? 耳飾り? でもあまり高価な物を贈っても受け取って貰えないかも…とか考えなかったのかな」

「実は二つ頼まれている。一つは直ぐにお渡しする、少しだけ値が張る物。もう一つはいつか思いが通じた暁に渡したいという話で、金に糸目は付けないから指輪を…と」

「グター君…」

 いくら振り回されても、告白を流されても。

 それでも未来への希望を諦めないグターの姿勢に、ラティは深くにも涙ぐみそうになった。

「こうなったら、僕も買おうかな。贈り物…」

 何となく、グターの努力に触発されて。

 不屈の精神と前向きな姿勢。努力を怠らず、めげない姿。

 それだけを見ても、何故か尊敬しそうになってしまう。

 何があっても諦めると言うことのないグターに、二人は無性に応援したくなるのだった。



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