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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
番外 青年達は剣を求める
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剣を得る為、戦えと




 発端は、玉座の間、謁見の場でのこと。

 俺にとって理解不能な展開に持ち越した決定打は、地底王と我等が暴君の会話から。


 我等が主の為に剣を、と俺は使命に燃えて頼んだ。

 あわよくば自分の新しい剣も欲しいと思ったが、それは一時忘れて真剣に頼んだ。

 本当は主の物だけでなく、部下達に支給する新しい剣も数を揃える約束だったが。

 自分のことも、部下のことも全部棚上げの方向で。

 何よりも尊重し、優先するべきは主ただ一人。例外は参謀。

 俺の根底には、既にそう刷り込まれている。

 だから俺は熱心に、丁重に頼み込んだのだが、何故か地底王は乗り気ではない。

 あまり面白くなさそうな顔で、芳しい反応は得られない。

 顔に出すことはなかったが、俺は内心で「何様のつもりだ貴様皮につるっと斬り込み入れて剥くぞ」と途切れることなく暴言を吐き続けていた。俺は基本、ストレスから目を背けないタイプだ。想像の中では実際に地底王を泣かせてすっきりしていた。ああ、勿論、実行する気はないが。その位の分別はあるし、今の俺は物を頼む立場。今回は流血表現はナシの方向で。

 だが俺の自制心を信用していないのか、隣でメイラがガタガタ震えていた。

 うっかり、地底王に聞こえないくらいの小声で考えが漏れていたらしい。

 こちらをチラチラ窺いながら、疑わしそうな目を向けてくる。後でじっくり話し合おう。

 反対側の隣では、アシュルーが渾身の力で笑いを堪えている。何が面白かったのだろう。

 あまりの腹筋酷使で、腹がぶるぶる震えている様だ。後で腹踊りを勧めてみよう。

 ちらっと横目に見てやると、アシュルーが真顔で見返してくる。

 笑いを内心に隠しても、面白がる瞳は嘘がつけない。

 よし。後で夕飯は覚悟してろ。貴様の膳には目に物見せてくれる。

 打撃には虚しくなるくらい手応えのないアシュルーだが、薬物が有効なのは我等が参謀が実証済みだ。その功績に倣い、ここは前例を踏襲して一服盛るとしよう。

 薬の様な姑息な手段で誰かを黙らせるのは俺の主義主張に反するが、アシュルーだけは話が別だ。彼には暴力など意味を成さない。むしろ嬉々として殴り合いに誘ってくる。そんな相手を下す為なら、手段などを選んでいる余地はない。

 殆ど本気で俺が画策していると、アシュルーも身の危険を感じたらしい。

 引きつった顔でこちらを見た後、慌てた様子で地底王へと身を乗り出す。

 自覚はあるが、俺は今、交渉が上手くいかないことでストレスに晒されている。

 その影響で、心の中はいつもの穏やかさを捨てて殺伐と荒み始めている。

 そんな俺から身を守るには、交渉を捗らせるしかない。

 さあ、身の安全を得たくば、俺の仕事を問答無用で手伝うが良い。


 …そんなことを、アシュルーが調子に乗るまでは思っていた。

 今だから、言う。

 この時の俺は、本気で疲れていた。

 アシュルーに交渉を手伝わせることの危うさなど、うっかり忘れて。


 つまらなさそうな、地底王が言う。

「お主等の主というものが、どれほどの物か。話に聞いても儂等には分からぬ」

「将来性と、期待度に関しちゃ全魔族ナンバーワンっすよ?」

 対するアシュルーの口調は、論外な程に砕けて軽い。

 一応、普段に比べると口調も改まっているが、あくまでも普段と比べて。

 とても王侯を相手に使って良い言葉遣いではない。

 アシュルーは物怖じせず、堂々と、己の非も気にせずに振る舞い続ける。

 他種族とはいえ王を前に、何故にお前はそんな自然体でいられるんだ。

 隣で頭を抱えているメイラは、口から魂を放ち欠けている。

 もしかしたら、俺以上のストレスに晒されているのだろう。少し、哀れになった。

「そんなことは関係ない。儂等の鍛える剣を欲するというのならば、それに見合った強さが無ければ認められるものではない。儂等はいつであろうと、使用者の技量に見合った武器しか与えるつもりはないのだ」

「そんなん言われても、ここに本人いないのにどうするよー?」

 地底王は気にせず、アシュルーも気にしない。

 当事者同士は全く気にしていないが、地下妖精も魔族の使者側も、周囲が悲愴な顔に染まっている。今も現在進行形で、どんどん顔は青くなってく。

 だがあくまでも、当事者同士は体面だとか何だとか、全然気にしていなかった。

「そう、本人がおらぬのも問題の一つだ。我等に剣を乞うておるというのに、本人が頭を下げに来ないとはどういう了見か。ここは自分で頼みに来るのが筋であろう」

「魔族にも色々あんのさ。俺等の主は将来の国主(予定)だしぃ? アンタだってこの城を早々離れられないだろ。それと同じだって」

「ぬぐぅ。確かに、一国一城の主は軽々しく移動もできぬ。そこは考慮しよう。だが、本人の技量も分からぬというのに、過ぎた物を与えることになろうものなら…」

「まあ、アンタが心配するのもアリだと思うけど。そんなに心配なら、その技量っての俺等で図れば良ーだろ。ほら、部下の手柄は上司の手柄、部下の力は上司の力って言うし。その理屈で言うなら、俺等の技量を見て上司の技量を図るのもアリだろ。だからさー、俺とラフェスを殴り合わせて、その武力を目安にして俺等の上司にどの程度の武器を寄越すか参考にしてみりゃいい」

 アシュルーの言動はどんどんなけなしの遠慮を失って………って、オイ!?

 今、あの暴君は何やら聞き捨てならない論理展開を見せた気がする。

 俺の浅薄な頭では勘違いという可能性もあるが、隣でメイラが卒倒寸前になっている。

 間違いない、あの戦闘狂が。

 勝手に何の相談も承諾もなく、俺と殴り合うことで強引に話を推し進めようとしている。

 無茶苦茶だ。何故俺達の殴り合いで主のレベルが決まるんだ。

 部下の武力で主の実力を図ろうというのは、可笑しい話でも無いかも知れないが…

 いや、やっぱり今回は可笑しい気がする。

 そんな理屈で、先程から頑なな地底王が納得するはずがないだろう…?

「ふむ…。それもまた、良いかも知れぬ」

 俺とメイラを絶望に突き落とす様に、地底王が興味深げに何度も頷く。

 って、満更でもないのか? それで良いのか、地底王!?

 それどころか、物凄く乗り気な様で、なにやらアシュルーと話が盛り上がっている。

 そのままとんとん拍子に勢いだけで具体的な話を詰めだし…

 三時間後には、闘技舞台の上でアシュルーと向き合う俺がいた。


 何故に、そうなる。

 何故に、殴り合いで話が進むんだ。

 地底王は退屈していると噂に聞いていたが…まさか、娯楽感覚で進めようとしていないか。

 深まるばかりの困惑に、言いたいことは多々ある。

 だが、今この場でそのような余裕はない。

 油断をすれば、アシュルーに喰われる。

 そのつもりで対峙せねば、俺はたちまち意識を刈り取られるだろう。

 武器を握るべき、右手と共に。


 だけど、一つだけ聞いておきたい。

「おい。何故に俺と貴様、味方同士で戦うんだ。相手は地下妖精の猛者でも良いだろう」

「あぁ? 馬鹿か、テメェ。そんなん、俺がつまんねぇ」

「…どういう意図だ」

「俺さぁ、前からテメェと本気で殺り合ってみたかったんだよなー。でもお前、いつも本気出さねぇし。味方同士だからとか、本気出す必要ねぇからとか、そんな理由でよ」

「当然の理由だと思うが? むしろ俺は貴様が何故そんなに拘るのか理解不能だ」

「そんなん、テメェが強ぇからに決まってるだろ。本気のテメェと戦いたいんだよ」

「よく分からん。その為に、わざわざ俺に剣を持たせているのか? こんな事をせずとも、素手の試合であれば貴様の勝ちは確実だというのに」

「なんでわざわざ対等の条件にしなきゃなんねぇんだよ。素手は俺が強い、剣はテメェが強ぇ。だったら、拳と剣で戦ってこそ、どっちが強いかはっきりするってもんじゃねぇか」

「貴様のその熱意、俺に向けられても迷惑なんだが」

「良いじゃねぇか。テメェも楽しめよ。しっかり本気出せよ? 俺とテメェが強ぇとこ見せりゃ見せるだけ、その分グー坊に良い剣くれるってんだからよ」

 そう言って殴りかかってくるアシュルーの目は、少年の様にキラキラキラキラ…

 しかし物腰は無邪気さとは程遠く、獲物を急降下で狙う猛禽の様な獰猛さ。

 すかさず雑念を捨てて向かい合わねば即座に死ねる。

 一々細かいことを気にする余裕など持てず、俺はアシュルーの動きに集中した。


 アシュルーは獲物を睨め付ける獣の目をしている。

 あれは、どうやって仕留めようかと思案する目だ。

 殺らねば、殺られる。

 かつて無い強敵を前に、俺の意識が急速に戦う為に研ぎ澄まされていく。

 意識が、辻斬り時代に引き戻されるのを感じた。

 本気を出さねば、確実に首を狙うつもりで戦わねば、俺が死ぬ。

 殺す為だけに握り続けた右手の剣は、未だ健在。

 俺は自分の常識的な部分は全て意識の底へと沈め、アシュルーへの殺意を滾らせた。




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