剣を希い、地底に降りて
主人公達が『人間』に包囲されていた頃。
そんな時、お兄さん達のやってたことは…?
何故、こうなった。
頭を抱えてうっそり思う。
何でこんな展開になってしまったのかは不明ながら、このラフェス。
敬愛する主君の為、その嫁候補の為。
今日も全力で剣を振るうことのみが、己に課せられた使命だと心得ているつもりだ。
主君の命(正確には、裏に潜む参謀の命)により、新たな武器の用意という任が課せられた。
兵達に支給された刀剣類の摩耗もさることながら、急を要して必要に迫られている物がある。
我が主君の剣だ。
『グターを強くしよう委員会』の共通意見として、そろそろ彼の方も初陣を迎えて良い頃だろうと、この間の会合で決まった。中には未だ不安と言う者もいたが、主君の技量は既に兵士達の水準を超えたと俺は思っている。そろそろ初陣、というのは妥当なところだろう。
その初陣を飾るには、相応しい武具が必要だと考えた。
何しろ彼の方は、この先、我等が父祖の血を奪還して建国を成し遂げた暁には、王となることが決定づけられている方である。そんな御方の武具なのだから、ここは将来の国王に相応しく、それなりの物を用意したいというのが師匠心というものだ。
将来的には王の剣として飾られるかもしれない物。
ここは魔族の威信にかけても、名剣と呼べる逸品を誂えたい。
参謀にそれを進言した結果、我等の熱意も認められて。
(やはり、委員会の連判で出した血判状が効いたのだと思う。)
俺は剣術の師匠として、彼の方に相応しい刀剣を見繕う為に旅立った。
鉱物、鉱石、金属類の玄人集団、名工が揃うこの地へ。
刀剣の類を最も巧みに鍛え上げる、地下妖精の住まう地底の国へ。
地下妖精は、妖精なのに意外と剛毅だ。
大きさも形状も様々だと聞いていたが、まさか王が全長5mの巨体だとは思わなかった。
よく仲間達に世間知らずだと言われるが、自分では世知に長けてきたと思っていたのだが。
やはり自分で思っているだけで錯覚だったのだろう。
見る物も聞く物も新鮮で、此処は何もかもが目新しい。
そんな私に、そんなでは足下を見られて騙されると告げたのはアシュルー。
絶対に騙される、放っておけないと言って突いてきた彼だが、その本音は多分『砦』の日常に退屈していただけだろう。輝く瞳が面白そうだと喜んでいる。
興奮しているアシュルーに、顔を青ざめさせたのはメイラだった。
俺だけではアシュルーを止められない。むしろ、俺が止めようとするとは思えない。この暴風雨が突いていく方が危険だと堂々宣って、メイラは俺達に突いてきた。
出発の段階で、既に胃が痛そうな顔をしていた。メイラは中々に苦労人だと思う。
敢えてわざわざ苦難の道程に身を投じる所など、特に。
こうして俺は当初の予定になかったアシュルー、メイラを結果的に引きつれる羽目になり、参謀にも苦笑混じりに「呉々も羽目を外さず、迷惑をかけない様に」と釘を刺された。恐らく、アシュルーを止めても無駄なので諦めていたのだろう。アシュルー自身に彼女が言ったのは、「何かを壊す時は賠償問題を解決できる自信がある時に限れ」とのこと、だけだった。
その代わり、何故かメイラが俺やアシュルーよりも色々と注意事項を受けていた。
曰く、他の二人は頼りにならないのでメイラがしっかりしろ。
曰く、アシュルーの手綱を取れとは言わないが、行動の把握は怠るな。
曰く、騒動になるのは目に見えているから、どんな時でも最悪の状況を前提にしろ。
………などなど。
まるでメイラが俺達の引率者か保護者の様に、ずっと年下の参謀は注意を続ける。
此度の度の、責任者は俺の筈なのだが…?
少し気にはなったが、それは藪蛇だろうと、口には出さずに無言で通した。
誰しもが予想した通り、行く先々でアシュルーが乱闘したり、揉め事を起こしたり。
喧嘩したり喧嘩したり喧嘩したり、チンピラを半殺しにしたり、喧嘩したり。
時に傍観し、時に退避し、時に巻き込まれ、共に乱闘に混ざったりしながら。
予定よりもかなり大幅に遅れに遅れ。
計画の五倍近い時間をかけて地底の国に辿り着いた時には、メイラがぐったりしていた。
そんなぐったりしたメイラが休む間もなく、俺達は地底王の元へ挨拶に向かう。
いくら友誼を結んだ相手でも、魔族にはまだいない『王』。
他族の王とはいえ、敬うべき相手。
まさか失敗したからと言って、切り捨てる訳にもいかない相手。
取り返しのつかない対人関係を築いてはいけない相手。
それを思っただけで、俺は緊張からおかしな態度を取る自信があった。
だが、こんな時でもアシュルーは平然としたもので。
その泰然とした態度が、俺とメイラは羨ましくて堪らない。
謁見のまで王と引き合わされ、気さくに声をかけて貰って。
でも、俺は緊張して碌に喋れない。
俺の代わりを務め、地底王と和やかに遣り取りを重ねたのは、予想通りアシュルーで。
ああ、この為だけでも、もしかしたらアシュルーを連れてきて良かったかも知れない。
…と、思った時が俺にもあった。
後悔は先に立たずと言うが、俺達はアシュルーが前面に出ている時点で予想するべきだった。
そう、こうなることは半ば予想できていた筈なんだ。
ここは地底国の王城。
俺達がいるのは、闘技場の舞台。
向かい合う形で対峙する、俺とアシュルー。
本当に、何故こうなった?
俺は分からないと頭を抱えたくなるが、そんな衝動はグッと堪える。
今にも襲いかかりそうなアシュルー相手に油断などできない。
分かっているのは、やたら楽しそうなアシュルーに、手を抜くつもりがないということ。
この戦いの場、血の高揚の前に分かっているのは、それだけで充分だ。
決して、理解不能な展開に思考放棄した訳ではない。
ではない、筈だ。




