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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
旅立ちは夜の森
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2.握った手はあたたかい

 今でも恐ろしい、あの恐怖の一夜。

 だけど今でも忘れられずに思い出すのは、アイツが私の手をずっと握っていてくれた

から。アイツが私を里へ置き去りにせず、一人にしないでいてくれたから。

 あの夜、私は生まれて初めての『外』が恐ろしくて、いつか遭遇するだろう『人間』が

恐ろしくて、私は歩きながら怯えて涙目だった。

 そんな私とは対照的に、アイツは「賛同してくれる仲間を沢山見つけるんだ」と期待に

目をキラキラさせていた。夜なのに太陽みたいに輝く目を見ながら、私はアイツの

計画性の無さに呆れていた。同時に、里から出ても前向きさを失わないアイツが、

ひどく羨ましかった。


 私は夜の森を二人だけで歩きながら、アイツに尋ねた。

「ねえ、なんで私も一緒につれてくの」

 自分でも今更だと思った問いかけ。

 夜道の緊張を少しでも紛らわせたくてした質問だったけど、それは私の素朴な疑問

でもあった。

 だって、本当に解らなかったから。私は自分が足手纏いにしか思えなかったから。

 もしもアイツがいい加減な返答をしたら、今度こそ見限って一人ででも家に帰ろうと

決意しながら、アイツの答えが返ってくるのを待つ。

 だけどアイツの答えは、私の気持ちも知らぬげに簡潔で。

「だって俺、馬鹿だし」

「は?」

 今更何を、というのがまず浮かんだ感想だった。

 次いで、「よし、繋いだ手を離そう」と思ったところで続きがきた。

「クニ造りってやったことないからうまく想像つかないけど、どうせ気の遠くなる程、

頭使うんだろ。だけど俺、馬鹿だし。そんなに考えたら知恵熱出るよ。

その点お前は頭が良いし、考えるのも得意だろ」

「それで私・・・って、それこそウェアン君に任せれば良かったのに。私より頭良いよ」

「ウェアンには里の皆の操作と次期里長って大事な仕事があるじゃん」

 操作・・・。

 脳裏に、里に残してきた友達の若干黒い笑顔が浮かんだ。

「それに俺が考えるのを手伝ってくれるのは、お前しかいないって思ったんだよ。

お前、俺の相手とか、頭のレベル合わせるのとか慣れてるし」

「今までずっと一緒にやって来たしね・・・。でも、それならそもそも国造り自体、

誰か他の適任者に任せることはできなかったの? 里には色んな人がいたよ?」

「そこはそれ、この件の発案者は俺だし。なら、俺が自分でやらなきゃだろ?」

 心意気は立派だと認めよう。だが、何故にそれに私を巻き込む。

「だったら自分一人でやろうよ・・・」

「そしたら、計画半ばまでもいかずに頓挫するだろ。俺、考えが足りないんだから」

 アイツの言葉になんだか物凄く納得して、私は何も言えずに黙り込んだ。


 暫く二人でぶらぶらと、繋いだ手を無言で揺らしながら歩く。

 そろそろ次の話題でも探そうかと考え始めた頃、珍しく考えながらアイツが呟く。

 それは、先程の話の続きのようだった。

「あと、たぶん・・・今までずっとお前と一緒だったし。お前が近くにいないと

落ち着かないから、それが嫌だったんだと思う。それにお前がいれば、

きっとすごく楽しいし」

 -お前って、すごく置いて行きがたい。

そう口にしながら、アイツも自分でそのことに初めて気づいたという顔をしていた。

 私も私で、アイツの言葉を聞いて「それなら仕方がない」と思ってしまった。

納得してしまった。反論を諦めてしまった。自分でも驚くくらい、あっさりと簡単に。

 -だって、仕方がない。

 今までずっと一緒だったから、近くにいないと落ち着かない。

 一緒にいられれば、凄く楽しい。

 アイツの言葉に、心の奥深いところから、私は共感してしまっていたんだから。


 何だかんだ言って、私とアイツは凄く仲が良い。

 自分でもそのことを、認めずにいられないくらいには。

 だから、諦めて旅に付き合う自分の行動も、仕方のないことなんだ。


 私とアイツは二人、夜の森の中。

 今まで出たこともなかった里を離れ、仲間を捜す旅の中。

 大きな不安と、恐怖。暗闇は私の怯えを増幅する様だった。

 だけどアイツはにっこり笑って、私の手を引いていく。

 本当は手を振り払い、里へ逃げ帰っても良かった。

 アイツはがっくりするだろうけれど、本気で嫌がったら無理強いはしないと

知っている。

 でも、アイツが私と一緒にいたいと言うから。

 私と一緒にいれば楽しいと、そう言ってくれたから。

 アイツの言葉に、自分も同じ気持ちだと思ったから。

 だから私はアイツと歩く。一緒に行く。

 恐いけど、恐怖をアイツで誤魔化しながら。

 握った手は放せない。アイツと一緒にいたいから。

 アイツと二人、旅の中。

 握った手を離さず繋いでいるのは、当然のことにも思えた。

 だって、二人で繋ぐ手の平は、私の心を慰める様に温かかったから。


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