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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
切り開け、あかい馬
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29.懐かしい子供時代 (悪童)

 和気藹々と鹿鍋も平らげ、私達は手分けして隠れ里からの救援物資を漁った。

 このタイミングの良さだから、何かしら使える良いモノがあるはず。

 そこの所は私もアイツも同意見で、こんな時に故郷の友達への信頼を認識する。

 ああ、私達はやっぱり、仲良しこよしな友達なんだな…と。


 そうして探り当てた「お土産」に、より深く子供時代の幸福な思い出が蘇るなんて。

 全く予想していなかったから、私達はとても驚いた。



 そう言えば、お土産があるんですよ?って、キラキラさんが引きつった顔で言うから。

 何だとこちらも身構えて待てば、渡されたのはやたら頑丈で重い箱。

 密閉性に拘りましたとばかり、物凄く厳重に封がされている。

「これ、なんですか?」

「…お土産です」

 じゃあ、なんで青い顔で言うんですか。

「私も、詳しくは中身を知らないんです。ただ、屋外では絶対に開けるな。リンネさんに許して貰うまでは何が何でも箱を開けるなとしか、言われていなくて…。ただ、中身の使い道はお二人がよく知っていると言っていたので、リンネさんとグー君の知っている物だと思います」

 そう言ったきり、視線を下げてキラキラさんが黙り込む。

 この様子では、渡された時に存分に脅されたんだろう。

 故郷の友達は結構黒くて性格も難あり。頭が良い分、性質も悪い。

 そんな彼からのお土産で、顔を青くされると無性に不安が湧いてくる。

 まさかこんな時に、性質の悪い悪戯なんてしないよね? そこは信じて良いよね?

 不安を押し殺して、箱を開ける。

「「…あ」」

 私と、アイツの声が揃った。

「こ、これは…」

「懐かしいわね。私達に悪戯っ子時代を思い出させる逸品だわ」

「ある意味、あの頃の常備品だったよな。いつも持ち歩いてた」

「使い勝手が良かったからね…」

 悪戯じゃなかった。悪戯じゃなかったけど、ある意味で悪戯だった。

 あながち外れでもなかった予想に、私とアイツは顔を見合わせた。

 楽し懐かし、幼少時代。

 重ねた実験と経験で、この「お土産」の使い方は重々熟知している。

 まさかこんな時に、こんな物を送って寄越すなんて…。

 その込められた思惑、意図は私達には目に見えて明白で。

 彼が私達に何を言いたいのか、わかりやすすぎて。

 こんな悪意たっぷりの提案を物で示すのだから、やっぱり彼は性格が悪い。


 楽し、懐かし、幼少時代…。

 あの頃の毎日を、私達は悪童時代…または、黒歴史と呼んでいる。

 こんな、面白すぎる悪戯を持ちかけてこられるなんて。

 懐かしい物の数々に、私達は幼少期を思い出して楽しくなるのを止められなかった。

 --うん。素敵な贈り物、有難い。

 これは有難く使わせて貰おうと、私とアイツは目を細めて微笑んだ。

 にんまりとした、その笑みに。

 私達には珍しい、悪戯を企む悪童の笑みに。

 あかい人は面白がる目線を寄越したけれど、何故かキラキラさんは次第に青ざめていった。



 私達に届けられた、懐かしの逸品。

 隠れ里の子供達に代々使用法が伝わる、伝統定番の悪戯アイテム。

 コレを駆使して次々と大人達を混乱と怒りの海に突き落としてやったものだ。

 アイツは言うまでもなく、私だって結構な悪戯っ子だった。

 沢山怒られたけれど、私達はコレで攪乱戦法と奇襲の基本を覚えたようなもの。

 私達の基盤とも言える幼少期。

 コレは本当に常に共にあったから。

 久しぶりにそれを前にして、成長と共に捨てたはずの悪戯っ子魂が疼いてしまう。

 懐かしさのあまり、蘇った記憶が熱くなるのも…仕方のないことだと許して貰おう。


 ごめんね。『人間』たち。

 別に気持ちはこもってないし、奴らの自業自得だとは思うけれど。

 申し訳ないなんて欠片も思ってないけれど。

 でも何となく、これから酷い事をしてしまうのは分かり切っているから。

 取り敢えず今、聞こえもしない遠くから。

 ひっそりこっそり、言葉だけでも謝っておくわね。



 私達の友達が、今この窮地に届けてくれた物。

 それは複数の、洒落にならない有害物資。

 ● 虫を凶暴化させて暴走させる薬剤(噴霧式)

 ● 接種した後に金属に触れると酷くかぶれる薬品(散布式)

 ● 野生動物を興奮させ、強力に惹きつける香水

 ● 生命力の弱い者が接種すると、幻覚を見る様になる薬(噴霧式)

 ● 体感温度が狂い、急激に体力を失って動けなくなる薬(噴霧式)

 …などなど。

 今思うと、本当にこれは洒落にならないと思うけれど。

 何れも深刻な被害とは何かを知らなかった無邪気な頃に、慣れ親しんだ道具の数々。

 友達と競い合って大人を陥れた思い出の結晶。

 これがもたらす混迷の恐ろしさなど、あの頃の私達は全く関知していなかった。

 …うん。こっぴどく叱られるのも当然だな。

 無闇やたらと悪戯に挑戦したがる幼少期。

 こんな洒落にならないアイテムに慣れ親しんだのは、今思うと何かの天啓だったのかも。

 そう思うくらいに、コレが『人間』にもたらすだろう混乱は、私達の助けとなるから。

 これから敵を襲う脅威を思い、私とアイツは楽しく頭を悩ませた。

 一体、どんな風に使ってやろうかなぁ…。

 

 本当に、子供時代の思い出とは、とても楽しくて仕方のない物である。 

 うん、仕方ない、仕方ない。

 状況がそれを求めているのだから、仕方がない。

「そう言いつつ、顔が全開の笑顔だぞ。リンネ」

「貴方もね、グター」

 遠巻きに私達を見る他の者には目もくれず、私達は何をどう使うか検討する。

 完全に昔の悪戯っ子に立ち返ってしまった私達は、楽しい悪巧みを止められない。

 さあ、悪戯っ子の恐ろしさを思い知るが良い…! 



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