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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
切り開け、あかい馬
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28.帰ってきたキラキラさん



 馬鹿の神懸かった癪なアイディアで、私達の方針が決まりました。

 確かに押すことはできても、敵を引き寄せるのは困難です。

 それが、死地とも知られた場所なら、尚更。

 罠の張り巡らされた場所にぴっちり張り付いた『人間』達は、混迷に叩き落とさない限り、絶対に境界を越えてはくれないでしょう。

 ですが、『人間』の知らない伏兵が、外側にいるのなら?

 引くのは難しくても、押すのはやり様次第で簡単です。

 魔族お得意の力業で押し込むのも可能でしょう。

 攪乱、奇襲、夜襲…いえ、準備万端な野営地のお陰で、夜襲は難しいのですが。

 何はともあれ、包囲の外側に味方が潜んでいて良かった。

 潜伏するあかい人の元へ何度も通い、私達は作戦を考えます。

 閉じ込められたという状況下、その心理作用を思うと、あまり残された時間はありません。

 ですが襲撃を決行しようにも…

 何か、決定打に欠ける気がしていたのです。

 私も、あかい人も、アイツでさえも…


 まさかそれを補ってくれる便利道具を、遠方の友人が送ってくれるとは思っても居ませんでした。タイミングもバッチリで、こちらを窺っていたのではないかと疑いたくなります。まあ、彼ならば本当にこちらを調べているのでしょうが。私達の身辺に関して、彼は心配性ですから。

 しかし状況把握も、その援助も、こちらの思考斜め上に速すぎます。

 もしや、『人間』襲来の情報…その決定打を握っていつつ、黙っていたのではあるまいか。

 次にあった時は、その疑惑をきっちり問い詰めようと心に誓った、そんなある日。

 私の疑惑と救いとアイディアを引きつれて、キラキラさんが帰ってきたのです--


「グー君、リンネさん。帰りが遅くなり、申し訳ありません。この遅れは、戦場での働きで必ず返すと約束しましょう。誠心誠意、働かせて下さい」


 ある日、いつもの様に空が闇に包まれてからあかい人を訪ねると、何故か大所帯になっていました。そしてあかい人と焚き火を囲み、自然な溶け込み様でそこにキラキラさんが居たのです。

 何でいるの?

 混乱しつつも戸惑う私達に、キラキラさんはキラキラ笑って頷きます。

 いや、頷くんじゃなくて、理由を言ってほしいんだけど。

  


 キラキラさんが帰ってきました。

 何故か、沢山の荷駄と出立時よりも明らかに大幅増加した人員を引きつれて。

 キラキラさんが帰ってきました。

 出かける前と変わらず、相変わらずキラキラキラキラ…その髪と微笑みを輝かせて。

 嗚呼、罪作りな男が帰ってきた。

 また『砦』内の妙齢のお姉様達が騒ぐことになるなー…なんて、思いつつ。

 それでも、彼のもたらす華やいだ心理効果で、女性は一気に落ち着くだろう。

 否、ある意味、全く落ち着かないけれど。

 彼のもたらす心理効果で、男達は一気に妬心と憎悪に突き落とされるだろう。

 …うん。やはり、落ち着きそうにない。騒がしくなりそうだ。

 まあ、彼に負けまいと張り切る男が続出するので、こちらは助かりますが。

 だけど恋に悩む若い魔族達は、閉塞感や焦燥感から一時でも解放される筈だ。

 その興味と心の向かう先を、一点にキラキラさんと恋敵に向けるだろう。

 彼女達は恋語らいをしている時が、最も輝きます。

 男達の嫉妬にまみれた魂の叫びは、哀れ過ぎて涙を誘います。

 若い男女を恋の鞘当てによる混乱と焦燥と絶望の混沌に突き落とす…

 嗚呼、そんなキラキラさん(自覚無し)が、帰ってきたのです。

 男達の憎々しげな顔と、お姉様方の輝く瞳で、それを一気に実感しました。

 彼の無自覚、恋への無関心、そして凄まじい鈍感さは、一種の暴力です。

 大変な人が、大変な時に帰ってきてしまった。

 実力はあるし、ある意味で最大に志気を上げる男です。

 あー…彼のもたらす混沌を、私が纏めることになるのかー…

 助かったと思いつつ、どこかげんなりした気分になって、私はひっそり溜息をつきました。

「………お前が言うなっつーの。人のこと言えないだろうに、リンネのヤツ」

 隣でアイツが何かを言った様な気がしました。

 ですが男達の絶望の声が凄くて、私の耳には良く聞こえませんでした。



 今日も私達は、仲良く鍋を囲みながら軍議を始める。

 形式? そんな物、実益の前には知ったことではありません。

 今夜の具もまた、狩ってきたのはグター一人。今日のメインは鹿だった。

「え? ウェアンが?」

「はい、そうですよ。グー君。お手紙も預かってますからね。後で読んで下さい」

 裏表のない優しさで、キラキラさんはアイツの椀におかわりをよそっている。

 帰ってきたばかりで疲れているだろうに、おさんどんに徹するキラキラさん。

 「たんとお食べ」と目で言いながら、甲斐甲斐しくアイツの世話を焼いている。

 でも何となく、グターへの接し方が保父さん臭い。

 いつか一度くらい、キラキラさんがアイツを何歳だと思っているのか聞いてみたいものだ。

「今回のことを予測して、危惧していました。お土産も沢山預かってきましたから、確認をお願いしますね。はい、リンネ参謀へのお手紙と預かってきた書類です」

 そう言って、アイツにはウェアン君が個人的に書いた手紙を、私には重要書類の束を差し出す。

 …書類を提出する相手の、優先順位とか、判断がおかしくない?

 確かにアイツはお馬鹿さんで、書類仕事や確認作業が得意じゃないけど。

 私に渡した方が手間は少ないけど。それでも一応は、先にトップに渡すモノでは?

 さも当然とばかりに、報告の類を私へ向けるキラキラさんに、首を傾げてしまった。




リシェルさん→恋愛音痴の子供好き。

色々鈍くて色恋には自覚が薄い。モテているとは気付いていない。


 秘かに一部でリンネと同類扱いされている。

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