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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
切り開け、あかい馬
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腹黒少年、画策中。

ほんの少し前の時間軸。

辺境の里で若長やってるウェアン君は…?




 里を纏めるという役割上、ウェアンは中々里を離れることができない。

 それでも遠方にいる友人達との絆が断たれた訳ではない。

 遠くからこっそりひっそり、裏からの支援を心に決める少年は、

 今日も元気に腹黒く、友達に内緒で様々な画策を行っていた。



 里長の屋敷の、ウェアン専用の執務室。

 彼の友人達が里を飛び出した直ぐ後からずっと、この部屋が少年の定位置だ。

 彼は今日もここで、腹心の部下からの報告を受けている。

「若長」

「おや、お前は…大陸南方の情報取り纏めを行っていたね。何か進展があったかな?」

「はい。ご慧眼の通りです。若長の予測されていた通りの情報が挙がりましたので、急ぎ報告に参りました。今回は急ぎ故、部下から挙がった報告書をそのままお持ちしました」

「そうか。やっぱり予想通りか…。グター達はさぞかし困っているだろうね」

 ここ最近、各地にはなった手の者から挙がる報告には、幾つかの共通点があった。

 そこから予測される情報、立てられる予想。

 それを把握しているからこそ、ウェアンは急いで準備を整えていた。

 『人間』の大規模遠征…それも、彼の友人達を標的とした。

 しかも情報に寄れば、寄りにも寄ってこんな時に友人達の本拠地は守りが手薄だ。

 何をやってるのかなー…と、珍しくウェアンが頭を抱えていたのは誰にも秘密だ。


 友人達に注意を促そうにも、普通の通達手段では時間が足りず、無駄になる。

 万全の支援体制を整えたくとも、『人間』の進軍が予想以上に速かったので追いつかない。

 まあ、いつかはあるだろうと思っていたので、以前からコツコツ事前準備はしていた。

 『解放軍』の設立から予想以上に期間を空けての討伐遠征に、今更かと呆れている程だ。

 いっそ拍子抜けしたと言っても良い。

 しかもここ数年の不気味な沈黙が無駄に思えるような、お粗末な部隊内容。

 こんなに普通で、奇を少しもてらっておらず、工夫も足りない進軍。 

 なんだか、何かを焦っているように思える、その余裕の無さ。

 そんなに慌てるくらいなら、なんでもっと早く行動しなかったのか。

 疑問は尽きないが、今になって重い腰を上げた『人間』への警戒は相応に高まっている。

 もしかしたら、ウェアンにも知られない様に徹底的に隠された裏があるのかもしれない。


 用心はしてしすぎることはないだろう。

 ウェアンはそう判断し、取り敢えず出来る限りの援助を心がけた。

 檻が良いと言うべきか、悪いと言うべきか…

 自分にとってはタイミングが良いが、『解放軍』としてはタイミングの悪いことに、

 何故か今、この里にグターの師匠の一人がいる。

 『解放軍』の八人の部隊長、その中でも弓を得意とし、遠距離からの攻撃を本分とする弓術狙撃部隊の頭。絶対的な権限を持つ『解放軍』幹部十人の中でも、援護に長けたリシェルが。

 彼が自分の手元にいて、ウェアンの握る最新情報を直ぐに届けることができる。

 全力の援助で戦力を補強し、明日にでも『解放軍』の元へ送り届けることができる。

 そう思うと若干喜ばしいが、それは彼が『解放軍』を不在にしているからこそで…

 つまり、彼の不在という『解放軍』の戦力減少によるもので…

 本当に、何故に今?

 平気で里を空っぽにする『解放軍』の油断っぷりに、何故か次第に泣けてきそうだ。

 抜けているのは、きっとグターだろう。アイツならば普段の平穏に、何の疑問も持たない。

 リンネの方は…きっと、懸案事項を押しつけられまくって、忙殺されていたに違いない。

 どっちでも良いから、どっちか警戒とか、『人間』の監視とか、情報収集とかしようよ。

 『人間』の動向を探っているだけでも、もっと有益な人員配置ができたはずだ。

 普段通りの日常が、毎日続くことに疑問を持てと、ウェアンは叫びたくて仕方がない。


「僕、こんな心配性はガラじゃないんだけどな…」


 未だ自分達の元へと迫る『人間』の軍勢に、欠片も気付いていないだろう友達。

 情報を細かく集め、分析して、纏めてきたこの三年。

 部下を配置し、手の者を大陸中にばらまき、情報網を整備してきた。

 その努力が実を結んでも、情報の恩恵にあずかる本人達がしっかりしないと意味がない。

 自分だからこそ得られた最新情報。 

 それを使って、彼等をどう助けるか。

 頭を使うのは楽しいし、手駒を操作するのは面白いし、恩を売るのも良いけれど。

 何をどうやって助けてやろうか。

 時間は逼迫しているけれど、ウェアンは楽しそうに考える。


 なんだか困ったなぁと心中では呟きつつも、表面の顔は嬉しそうで、楽しそうで。

 何だかんだ言って、ウェアンは友達二人の力になれることが嬉しくて仕方ない

 二人の目的、その行動、襲いかかる窮地。

 それらを助けることは、何だか幼い頃と同じように、一つのことを三人で協力している気になるから…同じ遊びを、三人で助け合いながら楽しんでいる様な気になれるから…。

 何だかんだ言いつつも、ウェアンは二人を助けたくてうずうずしているから。


 口では心配かけるなだの、しっかりしろだの、のんびり間抜けだの言いつつも。

 彼は二人を助ける為に助力をほんの少しも惜しまない。


 未だ進みは遠く、遅く。

 いつか来るだろうと予測していた敵の軍勢は移動速度だけ予想外、だったけど。

 前々から準備していたウェアンは、動じない。

 口許から細く漏れるのは、腹の底から湧き上がる、

「くっ…ふふ、ふ…くく…っ ふふふ……っ」

 ほんの少しだけ引きつれた様な音の、密やかな笑い声。

 喉の奥を振るわせて、少年の心底楽しそうな笑みは途絶えない。

 その姿は、傍目に見るとどうにも妖しくて…

 誰がどう見ようとも、紛いことなき、悪人の黒い笑いだった。




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