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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
番外 青年達の決着
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グターの不満

地味に前話から続いています。


 最近、ちょっと俺は面白くないと感じている。


 先ず第一に、幼馴染みのリンネ。

 『奴隷市場』を陥落させてから、アイツの多忙さは以前の比じゃなくなった。

 ばたばたばたばた。日がな一日走り回って、俺の相手がおざなりになっている。

 別にそのことで文句を言う程、俺だってガキじゃない。

 働くのは間違いなく、良いことだとも思ってる。

 だけど忙しいアイツとは裏腹に、何故か俺は一日中手持ちぶさたの暇状態。

 アイツが働いているのに、俺だけ仕事無しって…情けない気がするのは俺だけか?

 仕事を探して忙しそうな所に顔を出しても、俺が手伝いを申し出ると素気なく追い返される。

 そして毎回言われるのが、

「このような雑事、御大将にさせる訳にはいきません」

「こちらは我々でこなしますから、リーダーは心穏やかにお過ごし下さい」

 …といった様な内容の事々。


 アレ? 大将って、リーダーって…なに?


 どうやら知らない間に、俺はリンネによって大将の座へと祭り上げられていたようだ。

 別にそれは構わないんだけどさぁ…

 アイツがやることなら、多分それは必要なことなんだろうし。

 でも、それにしても事前に一言くらいあって良いと思う。

 アイツに一言もの申して仕事をくれと願ってみたら、アイツはあれっと首を傾げる。

「私、グターに言ってなかった? アンタは私達のトップなんだから、キリッとして堂々と構えていることが仕事よ。トップはどっしりと構えてなくちゃね。アンタだって素材は良いんだから、キリッとしてたら見栄え良く見えるんだから。皆、リーダーのアンタに夢を見ているのよ。アンタの仕事は、皆に夢を見せること。理想を壊さずに保つことなんだから、迂闊なことをしないでね」

 …そうか。俺は、いつの間にかマスコットキャラクター扱いになっていたんだな。

 俺の乾いた笑いに思うところがあったのか、アイツは取り繕う様に付け加えた。

「まあ、でも、アンタの持ち味は気さくなところだものね。親しみやすいリーダーも有りだと思う。

人に優しくしちゃいけない訳でもないし、アンタはアンタの思う様に行動して良いわ。私がちゃんとフォローするから、安心して任せてよ」

 それもそれで情けない気がしたが、俺はそれ以上、何も言えなかった。



 気に入らないこと…その二。

 奴だ。ヤツ…妖精の、ラティとかいう、もやし。

 リンネが妖精だったらこの上もなく好みと言って憚らないヤツは、何故か未だに此処にいる。

「お前、妖精なんだから森に帰れよ」

「それが、そう簡単にできたら良いんですけどね~」

 困った様に笑う顔が、中々に繊細な美少年ぶりでちょっとむかついた。

 儚さとは無縁の俺だが、コイツの折れそうな儚さはリンネを連想させてイラッとする。

 俺の苦手な書類仕事も楽々こなし、気付いた時には、いつの間にかリンネの補佐みたいな仕事をする様になっていた。妖精や竜人族は故郷へ帰ることにした筈だったが、一部は未だに此処に残っている。救って貰った恩返しだというが、コイツがそんな殊勝な性格でないことは俺でも分かっている。

 問い詰めてみたら、故郷の意向だという答えが返ってきた。

 コイツ、実は妖精の森でもそれなりに良い家の御曹司らしい。

 じゃあ、尚更帰れよ。

 精霊に言付けて故郷に迎えを頼んだら、妖精女王から「いっそのこと、そのまま居残って手助けしてこい。人間の増長ぶりは最近目に余る。人間を懲らしめ、魔族に恩を売ることこそ使命と思って尽くしてこい」という無情な命令が下ったらしい。

 なんだ、その女王。

 人使いが荒そうで、苛烈な性格をしている匂いがする。 

 絶対に、お近づきにはなりたくない手合いだと思った。

 そんな上司に顎で使われるヤツには同情するが、それがリンネに馴れ馴れしくして良い理由にはならないと思う。仕事なら、それこそ職務一筋に励めよ。本当に面白くない。

 そんなことを思って過ごすが、どうせリンネは口説かれても気付かない鈍感だ。

 安心な様な、虚しい様な、言い様のない日々が過ぎていく。



 面白くないこと…その三。

 アー兄が最近、変だ。それに合わせて、フェイ兄も様子がおかしい。

 元から色々可笑しい人達だったけど、最近、なんだか怖い目をしていることが多い。

 殺伐とした空気を背負いながらも、普段通りに軽く明るく振る舞うアー兄。

 何があったのかは分からないし、俺達に相談できなくても仕方がない。

 だけど、それならおかしな態度を振りまかないでくれ。

 気になるから。本当に気になるから。

 構ってくれないのも寂しいけれど、変な態度で構おうとされるのも辛い。

 自然と、俺はアー兄を心配する目で見ていたんだと思う。

 アー兄は怖い目を緩めて笑うと、俺の頭をちょっと撫でてから、俺を避ける様になった。

 フェイ兄は、「あれも大人だから、そのうち元に戻る」というけれど…

 何がしたいのか、何を思っているのか分からないけれど…

 早くいつものアー兄に戻ればいい。

 戻ってほしいと、俺には祈るしかできなかった。




 その時は、思っても見ない時にやってきた。

 俺はリンネと共用で使っている部屋で、宿題に出された本を読んでいた。

 そこにやって来たのが、フェイ兄だ。

 フェイ兄は部屋を見回すと俺をひたと見据えた。

「ふむ。そなただけか。リンネ嬢は忙しい様だな」

「ああ。この頃はいつ寝てるのか、俺も知らない。今度、注意しとく」

 働いていない身なので、ちょっと申し訳なくて言いにくいけれど。

「否、叱りに来た訳ではない。それよりもそなたに頼みたいことがあってな」

「頼みたいこと?」

「うむ。リンネ嬢でも構いはしないのだが…彼女は多忙だ。それに、精神面ではそなたの方がリンネ嬢よりも強靱そうに思う。そなたの方が適任であろう」

「仕事…リンネよりも、俺に?」

 思ってもみない頼みに、俺の顔は喜色で彩られた。

 多分、尻尾があればぶんぶんと振っていたと思う。

 リンネじゃなくて、俺に頼むってところも喜びのポイントが高かった。

「うむ。少々人に憚られる仕事でな…リンネ嬢には内密に頼む」

「…え?」

 何だか、一気に焦臭くなったのは気のせいか。

 フェイ兄はいつもの如く、感情の読めない顔のまま。

「何、仕事と言っても大したことはない。こちらの指定する場所まで、ただアシュルーの奴を迎えに行ってもらいたいだけでな。少々大人げなく暴れている可能性もあるが、そなたであれば大丈夫であろう。何しろあやつが、本物の弟の様に可愛がっておるのだからな」

「買いかぶりすぎてる気もするけど…まあ、アー兄のことは俺も気になってるから、良いよ」

 俺の返事に、フェイ兄が満足げに頷く。

「済まんな。なまじ、全てを知っている我が足を運んでも、止まりそうに思えぬのでな…むしろ、こちらにまで牙を向けてくるだろう。此処は、何も知らぬ第三者であり、尚かつ、奴が簡単には殴らぬ程に可愛がっているそなた以外に適任はおらぬ」

「……え?」

 不穏な台詞が、長々と俺の耳を素通りしていく。

 物騒な言葉の数々を、聞きたくないとばかりに俺の頭が拒否している。

 だけど一度頷いた以上、既に拒否はできない。

 俺は内心、泣きそうになりながら指定された場所へと向かった。


 まさかこの時、俺は自分がフェイ兄の手によって生贄にされたなど、思いもしていなかった…。




そして地味に次話へと続きます。

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