マゼラの本領
爆破魔さんの独白メイン。
憤怒と憎悪を燃料に、僕の炎は燃えさかる。
檻の中にいた頃、僕は静謐な死ばかりを想っていた。
生きていても、心は死んでいて
ただ、目に焼き付いた家族の最期が、幻覚として目の前に繰り返される。
幻の中、赤く染まる僕の体。
染めるのは、既に息絶えた筈の慕わしい人達。
父の、母の、兄妹の虚ろな目が、僕をひたと見据える。
僕は全てに、自分の生きる現実に、そっと目を閉じる--。
「おっ前、見事に生気のねぇ目してんなぁ」
突如としてかけられた声は、少し年上の少年のもの。
見ず知らず、初めて会う彼は、僕の無反応な態度を笑い飛ばした。
「ケケッ い~ぃ死人っぷりじゃねぇか。墓場の死体も真っ青だぜ。
…あ、死体は元から青っ白いか」
何がそんなに面白かったのだろう。
彼は身動きしない僕を担ぐと、無言で檻から連れ出した。
後から思えばおかしいことだばかりだったが、この時は気にならなかった。
どうして檻の鍵が開いていたのか。
どうして彼は自由に出入りできたのか。
どうして…彼は僕を外へ連れ出したのか。
分からないことだらけだったが、この時は疑問にも思わなかった。
ただ、無気力だった。
僕はずっと、目を閉じていた。
それを開いたのは、頬に風を感じたから。
檻の中では感じることのなかった、優しく柔らかな風を感じたから。
開いた視界の中、ずっと濁っていた筈の景色が、何故か鮮明に目に映った。
闇を鮮やかに彩る、光の海。
空の星を圧倒する地上の灯火に、僕は呑まれた。
「おい、見えるか? アレがお前の仇、お前の自由を奪っていた敵だ」
僕を背負ったまま、少年が言う。
いつの間にか隣には、新たに少年が増えていて。
でも、その珍しい姿も目に入らない。
三人並んで、地上の星を見下ろした。
僕の心には少年の言葉が刻まれ、僕は無心に下界を見ていた。
いつの間にやらそこは外壁の上、少年は笑みの声で告げる。
「今はそんな力なんてねぇけどさ…
…いつか、此処を吹っ飛ばせたら、すげぇすっきりするんだろーな」
僕は何も考えず、その言葉に頷いていた。
(いつの間にか、それが僕の生きる目標になっていた。)
地上の星と、空の星
その光を受ける少年の顔は、僕の記憶に焼き付き…
忘れられない、思い出になった。
「此処は死んだモノの為ではなく、生きているモノの為の世界なのであろう。
…そなたが生きておるのなら、此処はそなたの為の世界でもある」
ずっと無言だった少年がそう言って、僕の頭を撫でる。
二人の少年は心を見失っていた僕の世界を広げようとした。
甲斐甲斐しく世話を見て、心を取り戻せる様に、感情を取り戻せる様に計らってくれた。
三人で旅をする内に僕が自分を取り戻せたのは、間違いなく二人のお陰で。
暗い獄から連れ出してくれたのは、アシュルー
分かり難くとも精一杯の優しさを与えてくれたのは、フェイル
恩義ある二人の為ならば、僕はいつだって力になるつもりだ。
だから、アシュルーの頼みを聞いた時、僕は一も二もなく協力を決めた。
それが僕の本領とする、爆炎を必要とするモノならば、尚更に。
折しも場所は、僕等の出会った『奴隷市場(元)』で。
施設の再利用が決まっていたけれど、本当は全てを吹き飛ばしたくて仕方が無かった。
そんな僕に対して、彼は爆破してほしい場所があるという。
爆破こそが我が本領。
彼が教えてくれた、生きる力。戦い、抗う力。
心が躍った。
それがどんな意味を持つ行為か、どんなにフェイルの頭を悩ませることになるか…
僕は知らずにアシュルーに協力した。
だけど、例え知っていたとしても、協力したかもしれない。
僕の憎悪に火を灯し、アシュルーは全てを燃やす力を教えてくれた。
どんなことになっても、僕は彼に感謝している。
その思いがある限り、僕は彼に抗うことなどできないのだから。
抗おうとも、しないのだから。
そして人知れず、施設の端にあった一つの小屋が吹き飛んだ。
音もなく、人目を忍ぶ様にひっそりと。
小屋のしたから見つかったのは、秘された地下への入り口。
奈落の底を思わせる、得体の知れない入り口。
アシュルーは、マゼラを置いて一人で進む。
その背を見送るマゼラは、何故か言い知れぬ不安を覚えた。
やがて彼は踵を返し、アシュルーとは反対の方へと歩き出す。
嫌な予感は収まる気配がない。
心の平安を求め、マゼラはフェイルを探した。
誰よりもアシュルーを理解する、彼の親友を捜して走り出した。




