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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
番外 青年達の決着
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アシュルーの微笑

お兄さんの思うこと。


暗い内容です。物凄く暗いです。

苦手な方は飛ばして下さい…

 アシュルーにとって、両親とは会ったこともない憐れな存在だった。

 

 名前も知らない。姿を見たこともない。

 だけどそれを気にしたことがなかったのは、どうせ知ってもろくな事にはならないと、本能的に察していた為だろう。アシュルーは『人間』の手で強引に掛け合わされて生まれた存在だが、彼自身、物心付く前からソレを知っていた。だからこそ、無意識にも両親を求めようとは思わなかった。


 ただ、望まぬ行為を強いられた『誰か』がいるという事実が、悲しかった。

 自分はこうして生きて、健康で、人生を悲観することもなく、楽しく生きている。

 そんな自分を生み出す為に、存在する為に、確実に犠牲になった最初の二人。

 自分という存在の為に、どのような苦行を強いられたとも知れぬ二人。

 そんな二人が、確かに存在するのだ。


 アシュルーは、本心から両親のことを憐れに思っていた。


 だから、その為かもしれない。

 元々、己を生み出す為に働きかけた存在がいることに苛ついていたのだ。

 自分の両親に苦行を与え、自分の知らない多くを憐れな道に突き落とした。

 自分と同じ様な子供が、他にもいたのを知っている。

 中でも『失敗作』とされた者達が辿った末路が、いかに悲惨か。

 自分と同じように『成功作』とされた者達の辿った道も、いかに凄惨であったか。

 自分達を生み出した存在を、アシュルーは許したくない。

 自分達の親となることを強いられた憐れな者達を、いつまでも自由に弄ばれたくはない。

 救いたいとは思わなかった。

 ただ、いたぶりたかった。

 自分達の親が味わったのと同じだけの苦痛を、否、倍以上の苦痛を味合わせたかった。

 殴ることが得意な自分だが、其奴等は生きたまま膾に刻み、血の赤で彩ってやりたかった。

 自分と同じ生まれの子供達…最早生きてはいないだろう彼等の辛苦を、刻み込んでやりたい。

 ありとあらゆる責め苦を。針で、刃で、拳で、苦悩で。血で、傷で、打撲で、苦痛で。

 思いつく限りの陰惨な方法で、誰よりも『ルズィラ奴隷市場』の人間を苛みたかった。

 殴りたかった。切り刻みたかった。殺したかった。


 それは復讐だと、誰かが言った。



 だけど願いは虚しく潰える。

 誰よりも可愛がっている、健気な弟分や妹分の働きで。

 彼等のやったことならば、自分は笑って許すしかない。

 しかし一方でこう思うのだ。


 ()の部分は、お前達に譲ってやる。

 だが()の部分は…秘され、隠された『あの区画』だけは、誰にも譲ってやるまいと。

 彼処だけは自分の獲物だから。

 自分にこそ、始末を付ける権利があるはずだ。

 彼処の決着を付ける権利だけは、他の誰にも…

 可愛い弟分や妹分でやっても、譲ってやる気はない。


 何故なら『あの区画』こそが、自分の『生まれ故郷』なのだから。


 彼処を壊す権利も、潰す権利も、…活かす権利も。

 全ては全部、自分にこそ委ねられてしかるべき。

 アシュルーは、勝利に笑う無邪気な弟分の側、己の権利を考えていた。


 自分の『生まれ故郷』を思い、彼の唇が自然と吊り上がる。

 勝手に口許に刻まれる微笑は、慈愛にも似た色をしていて。

 しかし目の中の鋭い光だけは、確かな狂気を宿していた。


 傍目には微笑んでいるだけのアシュルーを、フェイルだけが真顔で観察していた。





お兄さんの胸中に潜む、狂気。


彼は何かするにしても、主人公達に知られない様に黒い部分を消化させると思います。

多分、主人公達の知らない「何か」を知られる前に、影に葬るでしょう。


お兄さんの精神状態を心配した、羽根の人が邪魔をしなければ。

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