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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
奴隷解放
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19.胴元の屋敷に災難が襲いかかる予感


 何とか鍵を手に入れることに成功した私達。

 これから、より慎重に動く必要がある。

 慌てず、騒がず、目立たないで他の奴隷達を解放する難しさに、少しだけ頭がくらくらした。


 この辺りでひとまず、『奴隷市場』の基本的な構造を確認しておくべきだろうか。

 私達三人は顔を突き合わせ、私が地面に記す簡易地図を見ながら確認を行った。


 この『ルズィラ奴隷市場』は、全体として歪な五角形に似た形をしている。

 山裾に面する西側が山に添う形で少々長く伸び、それが歪な形を作り出している。

 この、山の麓の一番奥まったところに、『奴隷市場』を仕切る胴元の屋敷があるという。

 それを取り囲む形で展開しているのが、『奴隷』達を収容する施設。

 更に外側に、胴元の部下達が常時詰めているという監視塔と、それを繋ぐ第一の外壁。

 そこから『奴隷』達の競売や、商品として『人間』達が下見する為の外向けの施設。

 次に監視塔と、やはり第二の外壁。

 隣接する形で、南側に歓楽街が。東側に闘技場がある。

 そこにもそれぞれ『奴隷』が収容されていると言う話だから、『奴隷市場』の奴隷達は大きく分けて三カ所に囚われている。勿論その三カ所それぞれの中でも、細かく小分けにして檻の中だ。一つ一つの牢を開放していたら、時間が幾らあっても足りないぐらいだろう。

 私達がいるのは、胴元の屋敷に程近い、『奴隷市場』の本命収容所。

 様々な種族が、生きる気力もなくして檻の中だ。

 彼等を解放すれば、私達は数の力を得ることができる。

 しかし、こちらの勝敗が決まる前に解放することには利点も不利点もある。


 『奴隷』解放は、純粋に味方の増加を意味する。

 しかし彼等の全てが戦える訳ではない。

 私の様に戦えない、非戦闘員だって確実にいるのだ。それも、子供を中心とした大多数が。

 戦えない者は足手纏いになりかねないし、人数が膨れあがったら、それだけ移動の足が鈍る。機敏な動きもできなくなる。速度を失った集団は、容易く取り囲まれ、自滅の道を辿りかねない。

 それを思うと、単純に解放するだけではいけない気がする。

 だからといって、人質に取られても堪らない。


 本来の作戦であれば、爆破魔さんの爆破魔法で壁を壊し、一時的に奴隷収容所を隔離する手筈であった。隔離した上で『人間』の居住区を更に爆破魔さんが吹っ飛ばし、その隙にお兄さんを胴元の屋敷へ突っ込ませ、胴元を人質に取ってから、手近な『人間』を殲滅していく予定になっていたはずだ。

 私達は勿論最初から『奴隷』を解放するつもりだったので、最悪、此処でじっとしていれば数時間後にお兄さん達が救出に来てくれる。だが、それでは情けなくて嫌だとアイツが言うから、自分も何かの役に立ちたいとアイツが言うから、私達はどうするべきか意見が分かれて迷っている。

 非戦闘員を連れて行くか。それとも此処に残し、隠れさせるか。

 …もしくは、全員が此処に残るか。


 中々良い意見が出ない中、ふっと思いついた様にアイツが言った。

「なあ、どうせ胴元の家がこっから一番近いんだからさ。ここの奴隷を全員出してから、みんなで胴元の屋敷に突っ込んでみないか? そんで胴元人質にしてから、屋敷を制圧して立て籠もる」

「その、真意は…?」

「いや、みんなで突撃したら、不意打ちの混乱と勢いとを利用して押せないかなって。一度に数カ所から突撃したら、混乱すると思わないか? それも大人数。『ドレイ』の総数は屋敷に住んでる『人間』より多いって言うし、後はアー兄達が来るまで立て籠もってたら持ちこたえないかな、と」

 皆がどうするかで悩んでいる中、相変わらずアイツはとんでもないことを考えつきます。

 ほんの思いつきなのだろうが、アイツが言ったことは、何故か私に対して影響力を持つ。

 私はアイツのお願いに弱いから、信頼の目に弱いから。

 どうしたものかと、頭を抱えた。


 今回はお兄さん達三人に全てを任せる計画だった。

 それをアイツは折角の機会を活かし、自分達で胴元の屋敷を襲って胴元の身柄を確保しようと言う。それはつまり、自分達でこの作戦の心臓を抑え込み、決着を付けようというに等しい。お兄さん達に事前打ち合わせ無しで陽動の役を押しつけ、お兄さん達に与えられるはずの手柄を全部丸ごと横取りしようと言うのだ。そんな美味しいとこどりの計画を上手くいかせるには、細かいところを考える私も、アイツに突き合って実行することになる戦闘能力を有する囚われ人の皆も大変になる。苦労で頭痛が引き起こされそうだ。

 そんなちゃっかりした思惑、アイツ本人にないことは分かっている。

 だが、アイツの意見を聞いた瞬間、そんな算段を私が思いついてしまった訳で。

 そしてアイツは、相変わらず考えることを全部、私に丸投げしている。

 私達の関係は、私が考えたことがアイツの考えたこと。

 私の決定がアイツの決定でもある。私の考えたことを、アイツは実行することになる。

 胴元の屋敷の警備は、厳重だろう。そこに突っ込むとなったら、危険な運任せも同然の行き当たりばったりに近い。今から細かい計画を詰める時間もないし、本当にアイツの言ったことをそのまま実行する羽目になりそうな予感がして、恐ろしくなった。

 だけど、何だかんだ言いつつ、私はアイツに甘い。

 その、自覚がある。

 いつも私の手を引いて、遠い場所でも楽しく面白いところへ連れて行ってくれるのはアイツ。

 アイツの行動を決めるのは私だけれど、アイツも私の行動を決める。行き先を示す。

 アイツが行くと、行きたいと言うのなら、私はいつだって願いを叶える手段を考えるだけだ。

 だってそれが私の役回りで、それが私とアイツの関係だと思うから。


 私は溜息一つ、諦めとほんの少しの期待に苦笑する。

 それからアイツの願いを叶える為の、周囲を巻き込んだ試行錯誤を始めた。




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