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国の名前はふたりから  作者: 小林晴幸
その後の番外編
189/193

兄弟話 ―ケンカ(長女)―

リンネとグターの娘さん視点。

ちっちゃい子がお家のことを語るよー。





 お日様キラキラごきげんよう!

 魔族の第一王女? アルカディアナです!

 あ、まちがいまちがい…ディア、です。

 本名は教えちゃだめよーって、ママに言われたのに忘れてました。

 うっかり口を滑らしたって、内緒にしてください! おねがい!

 その代わり、なんでも知りたいこと、教えます。

 だから、ね?

 ディアとおしゃべりしましょ!


 それで、なにか知りたいことありますか?

 え? 家族のことが聞きたい?

 えーと、でもうちの家族って、けっこう濃い? らしいですよ?

 いいんですか? 本当にいいの?

 それじゃあ、おしゃべりしますね。わぁい♪

 本当は、おしゃべりしたいこと、たくさんあるんです!

 特にパパやママ、お兄ちゃん達のこととか!

 だから、おわりまで聞いてくれると嬉しいな♪



 今日は、お題があるんです。

 ディアもよくわからないんだけど、あるそうです。

 さっき「このお題で」ってバクハのおじちゃんにメモを渡されました。

 あ、バクハのおじちゃんってのは「さいしょう」って人です。

 どこが小さいのかわからないんだけど、さいしょう、って呼ばれてます。

 でも、お兄ちゃん達の「教育係」もしているから、頭の中は小さくないんだと思います。

 ママがよく、こっそり「ばくはま」って呼んでいるので、ディアも真似しています。

 はじめてそう呼んだとき、ママが「しまった!」って顔をしてました。

 でもおじちゃんはにっこり優しく微笑んでくれたよ。

 おじちゃんは色々なことを知っていて、ディアが何かに悩んでいるときは助けてくれます。

 そんなおじちゃんが渡してくれたメモだから、きっと守った方が良いんだよね?

 そんな訳で、今日はこんなお題でおしゃべりするよー。


「お題:『ケンカ』」


 ケンカかぁ…何が良いのかなぁ?

 うん。まずはパパとママのことからが良いよね。


 パパとママのケンカは、ケンカになりません。

 もっと言うなら、最初っからパパが負けです。

 仕事しない? とか、物を壊した? とか、失言した? とか。

 いっぱい色々なことで、パパはママを怒らせます。

 その度、ママはぷんぷん怒って…


 パパをなぐります。


 お兄ちゃん達が、感心していました。

 「見事な右ストレートからアッパーの、流れるようなコンポだった」って。

 ディアは、ちょっと意味がわからなかったな。

 でもママが本気で怒ると、めまぐるしくて何が起こってるのか、ディアにはわかりません。

 あれで手加減してるんだよ、って。

 前に大臣のおじちゃん達が言ってましたけど、本当でしょうか。

 パパ、大丈夫かなぁ…。

 でもどんなに殴られても、パパはピンシャンしています。

 パパ、すごい!

 あんなに叩かれたら、ディアだったら痛くて泣いちゃう。

 叩かれた事なんてないから、どのくらい痛いのかわからないけど。

 でもパパが泣かなかったり、倒れなかったり、悶絶? しないのは、ママが手加減しているからだって、パパは言っていました。

 ママが加減してくれるから、パパは大丈夫なんだよ、って。

 ママはよく怒るけど、いつもは本気で怒ってる訳じゃないからって。

 ただ、これが愛情表現って言う意味はよくわかりませんでした。

 だって、叩いたりしてるのに。

 ディアだったら、そんな愛情の示し方、嫌だなぁ…。

 本当はママがパパを叩く姿も、見たくありません。

 パパが一方的に殴られてるのは痛そうだし、可哀想。

 だからってもしもパパが殴り返したらって思うと…ディアは、胸が痛くなるんです。

 二人がケンカしてる姿なんて、見たくないよぅ…。

 今のところ、二人のケンカはママが叩いて、パパが平謝りで、全然ケンカにならないけれど。

 それでも、ママがパパを叩くと、嫌いになったの? って不安になるんです。

 

 将軍さん達は大きな声で笑って、泣きそうなディアの頭を撫でてくれました。

 表面だけを見るなら仲が悪いと勘違いするのかも知れないけれどって。

「ありゃ、じゃれ合ってるだけだ」

 パパのことでママが怒って叩くのはポーズの部分が強くて、照れ隠し? があって。

 そして、ただの口実なんだそうです。

「ただ、忙しい中でパパに会いに行く口実が欲しいだけだな、ありゃ。そんでパパもそれが分かってるのかは知らねぇが…パパもママとどんな形だろうと一緒にいられて嬉しいから、大人しく殴られてへらへら笑いながら説教受けてんだよ。気味悪ぃ」

「あの光景、端から見たらマゾみたいで気色悪いわよね」

「ちょいとしごき方、間違えたかね。俺達」

「いや、私達が殴っても痛がるだけでへらへらはしないわよ」

「やっぱ、相手が嫁さんだからだろーかね」

「まあ、片思い歴長かったからねぇ。幸せすぎて頭のネジが飛んだのよ、きっと」

「ご愁傷様ってヤツだな」

 うんうんと頷き合う将軍さん達の会話は、ディアにはちょっとよく分からなかった。

 まぞって、なんだろ?


 きょとんとした顔で聞き入ってると、将軍さん達は慌てた笑顔。

 誤魔化すようにディアの頭を撫でて、結論を聞かせてくれました。

「間違っても、仲が悪いってことはねーよ。むしろ仲良しだ、仲良し」

「そうそう。ディアのパパママは文句なしのオシドリ夫婦だからね。心配せずいて良いんだよ」

 そうなの? よくわかんない。

 叩いてるのに、痛くないの?

 叩いてるのに、悪くないの?

 叩いてるのに、仲良しなの?

 ディアにはわからないことばっかり。

 「夫婦」の仲は、神秘的です。

 神秘的すぎて、ディアにはちょっと難しいかな。


 首を傾げるディアに、赤い髪の将軍さんが言いました。

「ディアのママが本気で怒ったら、あんなものじゃ済まないよ?」

 将軍さん、笑顔が怖いよぅ…

 笑った顔が、この間、パパの連れていた「虎」に似てました。

 そんな虎笑顔の将軍さんが言うんです。

「ディアのママが本気で怒ったら、泣くのはやっぱりパパの方さ」

 そしてママも泣くって、なにそれわかんない。

 とりあえず、パパの全身が痛々しいことになるのは覚悟しろと言われました。

 そんな覚悟、したくないよぅ…。


 ディアは、パパもママも大好きです。

 だから、二人の泣く顔は見たくないなぁ…。



 ちょっと思い出して、涙出ちゃった。

 だめだめだよね、ディア。

 うん。ちょっと気を取り直して、次のお話にいこうか。

 本当はケンカのお話なんて、思い出すと胸が痛くなるけど。

 でも次もやっぱり、ケンカにはなってないケンカのお話、だよ!



 ディアには二人のお兄ちゃんがいます。

 ママと同じ金髪だけど、他はパパにそっくりなレアスお兄ちゃん。

 パパとママ両方に似てるけど、割合ママ成分多めのヴェリィお兄ちゃん。

 レアスお兄ちゃんが長男で、ヴェリィお兄ちゃんが次男。

 普段は(おお)兄ちゃんと(ちい)兄ちゃんって呼び分けてるよ。

 二人とも仲は悪くないんだけど、大兄ちゃんが大雑把だから。

 そんな大兄ちゃんを、生真面目な小兄ちゃんがよく一方的に怒っています。

 だけど大兄ちゃんが取り合ってあげないから、いつもケンカにならないの。


 大兄ちゃんはパパと性格もそっくり。

 だけど安穏と育ったからパパより奔放で頭が軽いって、バクハのおじちゃんが嘆いてました。

 それ、悪口じゃないのかなぁ?

 一方、小兄ちゃんは生真面目で苦労性。

 自分のことじゃなくっても、他人がいい加減なことをしていると黙っていられない人です。

 前に生き難そうだって大兄ちゃんが言っていました。

 …一番苦労かけてる人が、それ言っちゃ駄目だと思いました。


 大兄ちゃんが相手にしてあげないから、最近、小兄ちゃんがちょっと吹っ切れてきました。

 ううん、思い切ってきたって言うのかなぁ?

 この間、とうとう武器を持ちだしたよ。

 それも模擬剣とかじゃなくって、工作兵さん? が「攻城戦」で使ったって言う「破城槌」…。

 そんな物が武器庫に取ってあるなんて、ディア知らなかったよ。

 お兄ちゃん、凄いね…片手で持てるんだー……。

 わぁ、パパ似の怪力――って、そうじゃなくって!

 大兄ちゃんも、流石に血相変えて全力で逃亡しました。

 小兄ちゃんは「コレで殴ってどうにもならなかったら、次は刃物を」って言ってたけど…。

 小兄ちゃん、早まらないで!

 それで叩いたら、手遅れになると思うの!

 だから小兄ちゃん、早まらないで! 正気に戻って!


 流石にこれは洒落にならないと、兵隊さん達が総出で止めようとしてくれました。

 だけど頭に血が上っているのか、目に入らないみたいで。

 みんな、蹴散らされてしまいました。

 わぁ、やっぱりパパの息子。

 お兄ちゃん、つよーい…って、そうじゃなくって。

「だ、誰かとめてぇ…!」

「どした、ディア…って、うぉ!? あっぶねぇな!!」

 私の悲鳴を聞きつけて来てくれたのは、パパでした。

 目ぇまん丸にして、お兄ちゃん達の修羅場に驚いています。

 驚いているけれど、ああ…安心。

 パパが来てくれたら、もう大丈夫。

 いっつも、あの二人のケンカを仲裁してくれるパパが来ました!

 …パパのケンカの止め方は、毎回「ケンカ両成敗」で。

「そんな物振り回したら、危ないだろ!?」

 危険な暴走行為に走る小兄ちゃんが、まずパパの手刀の餌食になりました。

 パパ、つよぉぉい…っ!

 ママ相手にはいつも負けてばっかりだけど、本当はパパが強いこと、知ってます。

 ママが相手だから、弱くなっちゃうんだって。

 惚れた弱み? って、大臣さん達が笑ってました。


 パパは、かつては戦場で酷い活躍をしたって、耳にします。

 具体的に何があったのか、何をしたのかは誰も教えてくれないけど。

 でも強いって評判は本当で。

 どんなに抵抗したって、お兄ちゃん達はパパに敵わない。

「た、助かった…」

 だから小兄ちゃんが気を失ってほっと息を吐いている、大兄ちゃんも。

「お前も、ヴェリィをキレさせるんじゃない!」

 鳩尾にパパの回し蹴りを食らって、吹っ飛びました。

 うん、暴力は嫌いだけど、これは仕方ないよね。

 だって、ケンカする二人が悪いんだもん。

 お仕置きと言うには過激だけど、魔族だから丈夫、丈夫!

 このくらいが丁度良いって、前に将軍さんも言っていました。

 だからディアも、お兄ちゃん達がお仕置きされる分には何も言いません。

 だって、やっぱりケンカするのが悪いんだもん。


 だから私は、例えパパが暴力をふるった後でも気にしません。

 だって、怖かったんだもん。

「ぱぱぁ…怖かったよぅ」

「よしよし。駄目な兄ちゃん達だなぁ、ホント。いつになったら落ち着くんだか。平時にあんな物持ち出しちゃ駄目だろーに」

 半泣きで駆け寄ったら、パパはちゃんと抱き上げてくれる。

 それから私の背中をぽんぽんと叩いて、よしよしってしてくれる。

 パパ、だぁいすき!

 私はぎゅっとパパに抱きついて、思う存分に甘えました。


 そうしてパパは私を抱き上げたまま、目を覚ましたお兄ちゃん達をお説教しました。

「チビ達を怖がらせたら駄目だろーが! 見ろよ、ディアが泣きかけて可哀想だろ!?」

「ごめんなさい…ディア、怖い思いさせてごめんね」

「ディア、ごめんなー…? 俺、悪くないけど!」

 悪びれない大兄ちゃんの脳天に、パパの拳骨!

 痛みで呻く大兄ちゃんを放って、パパは怒ってるポーズです。

「それとヴェリィ、お前、あんな物騒な物を持ち出すなよ。持ち出し簿になんて書いて持ち出したんだ、まったく!」

「あ、そこは素直に「折檻用」って書きましたけど」

「末恐ろしいな、お前は…!」

 あんな武器を「折檻用」で済ます小兄ちゃんと、それを許可した武器庫の管理人さん。

 二人は、その後ママにこっぴどく叱られました。

 小兄ちゃんは特に念入りに怒られてたけど…その反省も、キレたら忘れちゃうんだろうな。


 追い詰められた真面目さんは怖いと、私と大兄ちゃんはつくづく実感しました。

 でもだからといって大兄ちゃんの生活が改善されるわけでもなく。

 近々、また小兄ちゃんが何か物騒な物を持ち出す事態になるんだろうなぁと。

 傍観体勢の私と弟は、頷き合って互いの見解を纏めました。

 もしかしたら遠くない未来、私のお兄ちゃんは一人減るかも知れません。


 そんなことになったら、嫌だなぁ…。

 絶対に、嫌だなぁ…。

 だからパパ、ママ、あの二人をどうにかしてください…。


 天にも祈るような気持ちで、私は今日も仲裁を求めてママのお膝に駆け込みました。

 そして今日も、パパがケンカ両成敗でお兄ちゃん達の脳天に踵落としを決めに行きます。

 でもパパ、危ないから4階のバルコニーから飛び降りるのは、止めてください…。



 パパやママ、お兄ちゃん達を見て、ディアはつくづく思います。

 暴力、反対!






作中のディアは、人間で言うと5歳くらいのつもりで書いています。


 これがもう少し大きくなるとおすましさんになって、家族をお父様とかお母様とか呼ぶようになります。

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